向井理
「連続ドラマW MR -医薬情報担当者-」
弛緩は次の緊張に向かう助走
製薬業界と医療現場の裏側、そして命に向き合う人々の葛藤を描いた「連続ドラマW MR -医薬情報担当者-」が10月4日からWOWOWで放送・配信スタートします。本作で患者、医師、製薬会社の狭間で揺れ動きながら、“患者ファースト”という自らの信念を貫こうとする「天保薬品」のMR・紀尾中正樹を演じた向井理さんに、攻めた題材に対する正直な胸の内から、同世代の役者とは一線を画すリアリティへの向き合い方、向井さん自身が惹かれる「大人のかっこよさ」まで、貴重なインタビューをお届けします。
<あらすじ>
準大手製薬会社「天保薬品」の東京支店第三営業所所長であり、MR(医薬情報担当者)である紀尾中正樹(向井理)は、自社の画期的な二型糖尿病の新薬「パンセル」が「診療ガイドライン」の第一選択(A判定)に決定されることを目標に奔走していた。ところが、外資のライバル社「タウロス」のMR・鮫島淳(要潤)からの苛烈な妨害工作によって、評価の高かった「パンセル」は一転、セミナーでのコンプライアンス違反に問われてしまう――。
『MR』という職業を真っ正面からタイトルに据え、薬害問題含むセンシティブなテーマに踏み込んだ今作ですが、最初に脚本を読まれたときはどう感じましたか?
最初にこのタイトルを見たときは「相当攻めているな」と思いました。MRという仕事自体は社会的に重要ですが、薬害のようなデリケートな問題を扱う以上、世に出たときにどういう反応が起きるのか、正直怖さもありました。
ただ、脚本を読み進めると1話や2話からサスペンス的な展開があって、ストーリーが核心に迫っていくスピード感と丁寧さに純粋な爽快感を覚えたんです。もちろん作中に出てくる薬の名前はドラマ用に作ったフィクションですが、実在する職業であり、背景に病気と闘う方がいる以上、変な描き方はできない。「これは覚悟を持ってやるしかないな」と気が引き締まりました。
ご自身の大学時代の同期には、実際にMRとして働いている(あるいは働いていた)ご友人も多いとお聞きしました。
そうですね。僕がいた大学の研究室だけでも3、4人はMRになりましたし、学科全体で見れば半分くらいが製薬会社に行ったので、どれだけ大変な仕事かは、昔から聞いていたんです。なので、僕の中ではMRに対して「華やかなスーパーヒーロー」みたいなイメージはあまりありませんでした。
そうしたご友人からの「生の現場の声」は、今回の役作りに反映されているのでしょうか?
そこはあえて反映させていません。というのも、友人のリアルな体験談を現場に持ち込みすぎると「僕の友達の現実と違うので」と、台本に難癖をつけることになってしまう。俳優の仕事はあくまで「台本に書かれた世界観をどう表現するか」ですから。
もちろん知識として知っておくことは大事です。例えば時代劇で「刀があるから馬の左側から降りる」という基本の所作を知った上で、演出に合わせてあえて崩すのはありだと思うのですが、リアリティだけを過剰に追求したらエンターテインメント作品としては成り立たなくなってしまう。この作品には分かりやすい対立構造があって、向かい合う壁があるから紀尾中の「患者ファースト」という信念が際立つ。リアルとフィクションのバランスを見極めるのが僕らの役割だと思っています。
ピリッとした社会派ドラマですが、カメラが回っていないときの現場はどんな雰囲気でしたか?
作中では笑えるようなシーンがほとんどない重厚な作品だからこそ、裏ではわりとふざけていましたよ(笑)。特に紀尾中が所属する「第三営業所」のメンバーが集まる現場は、唯一バチバチ戦わなくていい癒しの場だったので、リハーサルの段階で全然違うセリフを言ってみたり、言い方を変えてみたりしていました。
それは座長としてチームの緊張をほぐす狙いもあったのでしょうか?
座長として、なんて大層な意識はないですけどね。ただ、ずっと張り詰めた状態だと人間って息が詰まっちゃうじゃないですか。一度フッと緊張をゆるめるからこそ、次の重いセリフや緊迫したシーンにグッと集中して向かえるんです。弛緩は、次の緊張に向かうための助走みたいなもの。周りからは「ただふざけてるだけ」と思われていたかもしれないですけど、僕の中では密かに緊張感を高める計算でもありました。だって、現場でふざけておいて本番でNG出したら一番カッコ悪いじゃないですか? あえて自分で自分のハードルを上げて追い込んでいた部分もあります。
作中では、要潤さん演じる鮫島とのバチバチとした対立構造も見どころです。自分の信念を貫く紀尾中と、企業のロジックで動く鮫島。お二人のやり取りを演じるうえで意識されたことはありますか?
鮫島が言っていることって、実は冷酷でも何でもなくて「企業として正論」なんですよね。新薬の開発には膨大な資金と時間がかかりますから、利益を出して会社を存続させなければ、結果として未来の患者さんに薬を届けることすらできなくなる。それも一つの揺るぎない「患者ファースト」の形なんです。
紀尾中は目の前の患者に寄り添おうとしますが、物語の終盤にかけては彼自身が少し暴走しているようにも見えてくる。どちらか一方だけが100%悪で、もう一方が100%正義という単純な勧善懲悪ではないんです。お互いに譲れない正義があるからこそ衝突する。その複雑な葛藤や立場の違いを、感情的にぶつけ合うのではなく、どこか冷静に計算しながら演じるのがすごく面白かったですね。観ている方によっても、どちらの意見に共感するかがガラッと変わる作品になっていると思います。
正門良規(Aぇ! group)さん演じる部下の市橋が、紀尾中の背中をみて成長する姿も描かれていました。向井さんご自身が仕事や生き方において「影響を受けた」と感じる人はいますか?
誰か一人を挙げるのは難しいですね。年上の方からも、年下の方からも日々刺激を受けているので。ただ、魅力を感じる人に共通しているのは「自分だけの固い個性や信念を持っている」ということです。この仕事って、個性が何よりの武器になるオンリーワンの世界じゃないですか。周りに流されず、自分の軸をしっかり持って仕事を選び、生きている人を見ると、年齢に関係なく「素敵だな」「自分も頑張らなきゃな」と触発されます。
ご自身の中で「ここだけは大切にしたい」という個性を挙げるとしたら何でしょうか。
うーん……「真面目さ」ですかね。仕事以外のプライベートは割と適当でいいと思っているんですけど(笑)、仕事に対してだけは真面目でありたい。仕事って自分の評価を決めるものという以上に、生活の基盤であり、人生を豊かにするためのものだと思うんです。頑張って仕事をするからこそ、美味しいものを食べられたり、質の良いものを買えたり、プライベートを心から楽しむことができる。だからこそ、自分の土台である仕事にはどこまでも真摯に向き合いたいです。
「FAST」が追い続けているテーマの一つに「かっこいい男性像」というものがあるのですが、向井さんが考える「かっこいい大人」とはどういう人ですか?
「自分の個性を持っていること」に加えて、やっぱり「行動力がある人」ですね。僕は普段、あまり同業(役者)同士でつるむことがなくて、どちらかというとフットワークの軽い経営者の方やお酒の造り手(酒蔵さん)の方と過ごすことが多いんです。彼らは、地方から東京へ、さらには海外へと自分の足でどんどん動いて、新しい価値を生み出している人たち。僕ら役者は一度舞台や作品に入ると、どうしても長期間ひとつの場所に縛られる生活になるので、境界線なく世界を飛び回っている人たちの行動力を見ると「純粋に羨ましいな、かっこいいな」と感じます。
会社や事業を背負っている経営者の方って、独特の哀愁みたいなものを抱えているんですよ。責任が大きいからこそ、そこを乗り越えてきた人にしか出せない「大人の余裕」や「風格」がある。そういう背中を見せられる人に、僕自身も惹かれますね。
経営者やお酒の造り手の方々と交流があるとのことですが、地方でモノづくりに励む方たちの言葉から影響を受けることも多いのでしょうか。
多いですね。特に日本酒の蔵元さんたちって、その土地の水や風土、文化を心から愛していて「この水があるからこそ、この味ができる」という強い誇りを持って地元に根を張っている姿を見ると、すごく刺激を受けます。
僕自身は神奈川県横浜市出身で、上京してもう20年以上が経ちます。もちろん地元は今でも大好きなんですけど、近すぎるがゆえにかえって滅多に戻らなくなってしまって(笑)。いつでも行ける距離だからこそ行かない、みたいな歯痒さみたいなものは自分の中にありますね。だからこそ、自分のルーツや地域を心底大切にして、そこから世界へ発信している人たちのフットワークの軽さや郷土愛には、純粋に憧れを抱きます。
ご多忙な日々の中で、向井さんにとっての「リフレッシュ」や「自分へのご褒美」とは何ですか?
やっぱり美味しいお酒と料理を楽しむ時間ですかね。それも自分への投資というか、先ほどの仕事論にも繋がりますけど、一生懸命働いた対価として、こだわって作られた美味しいものをいただく瞬間が一番満たされます。本当に価値があると感じるものや、作りの良い国産のものに触れる時間は大切にしたい。年齢を重ねるにつれて、ただ贅沢をするというよりは「どんな想いで作られたものか」というストーリーに惹かれるようになってきました。そうやってプライベートで刺激を受けたりリラックスしたりすることが、結局は次の現場への活力であり、演技の深みにもつながっていくのかなと思っています。
向井理
むかい おさむ
1982年2月7日生まれ。
最近の出演作に、ドラマでは、NHK『事件は、その周りで起きている シリーズ3』(‘26)、MBS『マトリと狂犬』(‘26)、フジテレビ『ヤンドク!』、映画では『エンジェルフライト THE MOVIE』(‘26)、『パリピ孔明 THE MOVIE』(‘25)などがある。また、2026年10月からは、M&Oplaysプロデュースの舞台『ブランク』への出演も控える。
大学の同期に実際のMRが多く、その仕事の大変さを昔から聞いていたという向井さん。リアルを知ったうえで、エンターテインメントとしてどう表現するかというバランス感覚と線引きをしっかりと持って役に挑んでいるというお話がとても印象的でした。撮影では、何の変哲もないスタジオが、向井さんが立たれるだけでスタイリッシュかつ華やかな雰囲気を纏うようでした。大人のかっこよさをより一層増された向井さん演じる紀尾中の姿をぜひご覧ください!
■タイトル「連続ドラマW MR -医薬情報担当者-」
WOWOWにて10月4日(日)午後10時より放送・配信スタート(全5話/第1話無料放送・配信)https;//www.wowow.co.jp/drama/original/mr/
■出演:向井理 要潤 正門良規(Aぇ! group) 武田玲奈
松尾諭 森田想 野添義弘 川島潤哉 佐野泰臣
知英 渡辺真起子 升毅 酒向芳 豊原功補
■原作:久坂部羊『MR』(幻冬舎文庫)
■脚本:香坂隆史
■監督:金井紘
■音楽:jizue
■プロデューサー:小髙史織 遠藤光貴
■協力プロデューサー:角田正子
■製作:WOWOW ザ・ワークス
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:宮田靖士(THYMON Inc.)
スタイリスト:外山由香里
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/相澤花菜