前田 拳太郎
映画『栄光のバックホーム』
がんばっている人だけじゃなく、がんばれなくなってしまった人にもこの作品を届けたい
阪神タイガースの若きホープとして将来を期待されるも、21歳で脳腫瘍を発症し、引退を余儀なくされた横田 慎太郎さんの自著「奇跡のバックホーム」と、彼がその生涯を閉じるまでの人生の軌跡を描いたノンフィクション「栄光のバックホーム」が、『栄光のバックホーム』として映画化。本作で、慎太郎の阪神タイガースの先輩・北條史也を演じる前田 拳太郎さんに、役へのアプローチのしかたや、撮影中の思い出などを伺いました。

©2025「栄光のバックホーム」製作委員会
<あらすじ>
甲子園出場を逃すも、その野球センスがスカウトの目に留まり、2013年のドラフト会議で阪神タイガースに2位指名された期待の新人・横田 慎太郎(松谷鷹也)。持ち前の負けん気と、誰からも愛される人間性で厳しいプロの世界でも立派に成長を遂げ、2016年の開幕戦では一軍のスタメン選手に選ばれるなど、順風満帆な野球人生が待っていると思われた矢先、慎太郎の体に異変が。医師による診断結果は、脳腫瘍。その日から、慎太郎の過酷な闘病の日々が始まるが、母のまなみ(鈴木京香)ら家族、恩師やチームメイトなど、慎太郎を愛してやまない人たちの懸命な支えが、彼の心を奮い立たせるのだった。2019年9月26日、引退試合で慎太郎が魅せた“奇跡のバックホーム”は人々を驚かせ、感動を呼んだ。だが、本当の奇跡のドラマは、その後も続いていたのだった……。

映画『栄光のバックホーム』で前田さん演じる北條史也は、どんなキャラクターですか?
この作品に登場する人たちは、みんな横田選手と関わりが深くて。1人でも欠けていたら、横田選手の人生は変わっていたのではないかと思うくらい、それぞれが大事な存在なんですけど。北條選手もそのうちの1人で、横田選手にとってすごくいいライバルであり、兄貴的な存在です。さらに、(阪神タイガースの)チームのなかでもムードメーカー的立ち位置の頼りになる先輩でもあります。特に(松谷)鷹也さんとのシーンでは、自分のほうが1歩だけ先輩に見えるように、少し背伸びをしながらお芝居をしてました。
北條は実在する人物ですが、役へアプローチする際に心がけたことを教えてください。
監督からも「あくまでも、この作品での北條選手を演じてほしい」と言われて、僕も同意見だったので、単なるモノマネにならないように心がけました。実際に北條選手がどういう思いだったかというのは、難しいところではあって、もしかしたら、僕の想像と違ったりすることもあるかもしれないですけど。この作品の中に生きている北條選手は、こういうふうに思っていたと……自分を信じて演じました。
野球選手役ということで、カラダづくりにおいて普段よりも意識したところはありますか?
劇中では、やはりユニフォーム姿が多いんです。僕、ユニフォーム姿というのは背中が印象的だと思うので、背中を重点的に鍛えました。あとは、肩幅が狭いと野球選手に見えないかなと思って、肩回りもしっかり鍛えました。

前田さんは、普段からトレーニングをされているイメージがありますが。
この作品に入る前に撮影していたのがドラマ『君とゆきて咲く~新選組青春録~』だったのですが、そのときに筋トレにハマりまして。そうしたら、今度は野球選手の役ということで、また“筋トレしよう!”となって(笑)。なんだかんだで、次に撮影したドラマ『PJ~航空救難団~』が終わるまで、ずっと筋トレをしていました。マネージャーさんから「これ以上(カラダが)デカくならないで」と言われているので、今はだいぶ筋肉が落ちて細くなりました(笑)。
横田選手と2人のシーンは、シリアスな場面も多いですよね。
そうですね、2人きりのシーンはシリアスだったりします。でも前半の、ほかのチームメイトもいるところでは、楽しい場面もあって。僕、なんでもないシーンがすごく好きなんです。お風呂でふざけ合うシーンとか、ヨコ(横田)の部屋に遊びにいくシーンとか。この物語のなかで絶対に必要かと言われたら、たぶん、そうではないんですよね。でも、そういうシーンこそすごく大事だと思うんです。横田選手と北條選手の関係性を伝えることができるし、楽しいシーンがあるからこそ、シリアスなシーンが際立つというか。後半に僕が1人で素振りをするシーンがあるのですが、楽しい思い出があったからこそ、たくさんバットを振ったと思うし。実際にバットを振りながら、楽しかった場面が頭をよぎったんです。それぐらい撮影中は、横田選手と2人だけの時間を大事にできたと思います。
ホスピスで2人が本音をぶつけ合うシーンは、真に迫るお芝居が印象的でした。
あのシーンを撮ったのは、たしかクランクアップの日だったんですけど。あのシーンで話す際に、感情とかも溢れ出るものがほしかったんです。というのも、北條選手がヨコの前で初めてカッコ悪い姿を見せたと思うんです。それまでは、やっぱり先輩だから見せられなかった部分が、ここで初めて出てくる……自分の思いが、どんどんどんどん出てくるシーンだったので、押さえつけていたものがどんどんこぼれていってしまう姿を見せられたらいいなと思って。だから、感情にいったんフタをするような感覚で、そのフタを気持ちが押し出していくような……。言葉にするのが難しいんですけど……。

北條は本当はそういう思いを見せたくないのに、溢れ出てしまう?
そう!だから、気持ちをストレートに押し出すのではなく、止めようとしているのに勝手に溢れ出てしまう、みたいな感覚で演じていました。自分の思いだけじゃなく、鷹也さんのお芝居を受けて、僕のなかから溢れ出てくるものを表現したかったんです。
横田選手に発破をかけられ、北條の野球に対する情熱が再燃します。ご自身がくじけそうになったときに救われた言葉や出来事などがあれば教えてください。
基本的にネガティブなので、“あー、なんでできないんだろう”とか、ずっとくよくよ考えているタイプなんですけど。
お芝居についてとか?
そうです。だから、撮影が終わった後は毎回、家で1人反省会をしたりとか。そういうタイプの人間なので、常に折れたりしながら……でも傍からは、挫折しているようには見えないかもしれないです。なんだかんだ、これまで順調にきているほうだとは思うので。とはいえ、ちっちゃい挫折はいっぱいあって、日々ちょっとずつ折れながらやっているんですけど。そういうときは、好きな曲を聴いたり、仲のいい友達とごはんを食べたり。周りの人にたくさん助けてもらいながら、少しずつ乗り越えていきます。

友達というのは、役者仲間?
役者の友達も普通の友達も、どちらもあります。でも、具体的に“この言葉で救われた”というものを挙げるのは、ちょっと難しいかもしれない。
何気ない会話をすることで救われていると?
そうですね。
好きな曲を聴くというのは、特に“これを聴くと元気になれる”という曲があるのですか?
その時々であるんですけど。たとえば、戦隊もののオーディションの期間は、ヒーローっぽい曲をすごく聴いていました。緑黄色社会とか。そのときによって、聴く曲を変えたりしているかもしれないです。あとは、ライブに行くと、やっぱり音が全部を取っ払ってくれる感じがします。

邦楽を聴くことが多い?
うーん、多いは多いです。洋楽も聴きますけど。
歌詞に救われる部分もあるのでしょうか。
そうですね、あります。僕、音楽は好きでよく聴くんですけど、インディーズバンドとかが多いので、いつも誰にも伝わらなくて(苦笑)。あっ、あと!アニソンもめっちゃ聴きます。昔のアニソンとかが好きなので、懐かしい気持ちになって、初心を取り戻したりしています。
あらためて、本作の公開を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
『栄光のバックホーム』は、横田選手の人生の1ページ1ページを切り抜いたような、実際にあったお話です。だからこそ、観ている人も作品の世界に入りやすいと思います。僕は、横田選手のことをたくさんの人に知ってもらいたいという思いで撮影に臨んでいました。こういう人が実際にいたんだと思ったら、自分もがんばろう!という勇気が生まれるかもしれない。心を動かしたり、少しだけでも人生を変えたりできるかもしれない。今、何かをがんばっている人だけじゃなく、がんばれなくなってしまった人にも、たくさんの人にこの作品を届けられたらいいなと思います。

前田拳太郎
まえだ けんたろう
1999年9月6日生まれ。
インタビューでは撮影とは違って、はにかんだ笑顔をたくさん見せて色々話してくださった前田さん。色々な作品に出られる中で、今回の作品に向けてぶつかったことや撮影時のエピソードなどたくさんお話しを聞きましたが、どのお話にもまっすぐ目を見て伝えてくださる姿に、役者としての熱意やこの仕事が好きなんだと気持ちを込めて伝えてくださる姿に感銘を受けたスタッフでした。また端正なルックスにも関わらず、周りをキョロキョロされて、話される姿はとても可愛らしくも感じました。後編では、前回からの振り返りや現時点の目標等伺っております。お楽しみに!
最近の出演作に、テレビドラマでは、テレビ朝日『PJ 〜航空救難団〜』(‘25)、『君とゆきて咲く〜新選組青春録〜』(‘24)、映画では、『ふれる。』(‘24)『劇場版 美しい彼〜eternal〜』(‘23)、『仮面ライダーシリーズ』(‘21-‘22)などがある。

©2025「栄光のバックホーム」製作委員会
幻冬舎フィルム 第一回作品
『栄光のバックホーム』
11月28日(金)全国公開
製作総指揮 : 見城 徹 / 依田 巽
原作 : 「奇跡のバックホーム」横田慎太郎(幻冬舎文庫)
「栄光のバックホーム」中井由梨子(幻冬舎文庫)
脚本 : 中井由梨子
企画・監督・プロデュース : 秋山 純
出演:松谷鷹也 鈴木京香
高橋克典 前田拳太郎 伊原六花 山崎紘奈 草川拓弥
配給:ギャガ
制作:ジュン・秋山クリエイティブ
©2025「栄光のバックホーム」製作委員会
※Team Credit
カメラマン:遥南碧
ヘアメイク:山口恵理子
スタイリスト:村井素良
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿
