一ノ瀬 颯
ドラマ『Believe―君にかける橋―』
最後には狩山と笑い合う南雲の姿を見たい
息もつかせぬ怒涛の展開で話題沸騰中のドラマ『Believe―君にかける橋―』で、木村拓哉さん演じる主人公・狩山 陸の元部下・南雲大樹を演じている一ノ瀬 颯さん。演じる際に心がけていることや、クライマックスを迎える本作の撮影秘話、共演者とのエピソードなど、身振り手振りを交えながら多弁に語ってくれました。
©テレビ朝日
<あらすじ>
大手ゼネコンに所属し、橋づくりに情熱を燃や狩山 陸(木村拓哉)は、帝和建設の土木設計部部長として「龍神大橋」の建設に従事していた。ところが、建設中に崩落事故が発生。それを機に運命が狂い始め、様々な困難に直面する狩山。事故の真実を解き明かそうと奮闘するも、状況は思わぬ方向に進んでいく……。
これまで南雲大樹を演じてきて、どんなキャラクターだと捉えていますか?
南雲は、立ち位置としては帝和建設の主任で、狩山の部下です。いろんなものの板挟みになりながら葛藤し、自分が信じるべきものは何なのかを常に探している役どころですね。話が進み、台本が上がってくるなかで、最初に自分が考えていた南雲像に新たな要素がどんどんプラスされて、“こういう人だったんだ!?”と、その都度知ることもあって。登場人物のなかで、一番人間らしい役なのかなと思っています。
それは、どういうところに感じるのですか?
人って、どんなに強い信念を持っていたとしても、そのときに置かれている状況によって、それとは違う決断をしちゃうこともあるじゃないですか。“さっきの発言から 1分しか経っていないのに、もう考えが変わってる”みたいな。そういうところが、すごく表現されている人物だなと思うんです。狩山のように、“捕まってもめげずに真実を追求し続ける”みたいなヒーロー的ポジションとは違うし、観ている人からすると、何をやってるんだよ!と思うことも多いかもしれませんが、実際にはそういうところが人間らしいんじゃないかと思います。
いろいろな葛藤があるという点では、目でお芝居をすることも多いのではないかと思いますが。
そうですね。いろんなものの板挟みになっているがゆえに、今置かれている状況と自分が悩んでいる部分とのギャップに対して葛藤があるんですが、その迷いが周りの人に伝わらないように口には出さない。そういった細かいところは意識して演じています。今回はありがたいことに、ほかの人が話しているときの南雲の表情を使ってもらえることが多いので、観ている人にもその葛藤が伝わっていたらいいなと思います。
狩山とのシーンも多いですが、木村さんからいただいた印象的な言葉などはありますか?
木村さんは、あまり多くを語る方ではなくて。お芝居に関しては相手のことをすごく尊重してくださるので、“こうしたほうがいいよ”みたいなことはあまり言わないんです。でも、作品のことをすごく考えていらっしゃるし、ご自分のなかに確固たる狩山のキャラクター像を持っていらっしゃるので。木村さんの投げてくれるパスを投げ返すだけで、自然と南雲が出来上がっているんです。
アドリブもあるのでしょうか。
あります。それはでも、そのシーンに本当に必要な会話というか。台本には書かれていないけど、これ言った方が自然じゃないかな、みたいなところをプラスする感じですね。例えば第4話に、狩山と南雲が残業している様子を回想する場面があったのですが、もともとはなかったシーンで。過去の二人のほっこりする関係性を見せることによって、現在とのギャップを出したいということで監督が追加したんです。
そうだったんですね。
最初は、寝ていた南雲がバッと起きて「落ちてました」と言うだけだったんですが、リハーサルで木村さんが「キミ、何屋?」と聞いてきて。最初は「何屋!?何屋だろう」みたいな感じで返したんですけど、最後に「あっ、橋屋です」と返したら、それが本番で使われたんです。でも、そのやり取りがあったから、その後、南雲はもう1回SSDを取り返しにいくことを決意したんですよね。実際に完成した映像を観たとき、その流れがすごく自然に見えたので、木村さんに「木村さんが“何屋?”と聞いてくれたおかげで、その後のシーンが際立ちました。ありがとうございました。」とメールしたんです。そうしたら、「何のこと?」って。正確な言い回しは忘れてしまったんですが、「俺はやることをやっただけだよ」という内容の返信をいただいて!
カッコいい!
ホントに!連絡先も、自分から聞いていいものか迷っていたんですけど、地方でクランクインして泊まりがけのロケをしたときに、竹内涼真さんと3人で夜ごはんを食べたんです。そのときに、木村さんが「はい」って連絡先の画面を出してくださって、速攻で「あっ、登録させていただきます!」って(笑)。
木村さんを見て、“こういう姿勢だから、長年第一線で活躍されているんだな”と感じた部分はありますか?
みんながついていきたくなるんだろうなっていうオーラを、いろんなところに感じます。視野が広くて、ものすごく周りを見ていて。常に現場が円滑に進むことを考えて、「こうすればいいじゃん?」と提案してくださる。しかも、それが的確なんです。それって、撮影に携わっている各部署のことを深く理解しているからできることなんですよね。
そうですね。
それに、仕事面だけじゃなくすべてにおいて知識が深いんですよ!一緒にごはんを食べていても、「これは、アメリケーヌソースが~」とか「魚の出汁が~」とか。「ここにこれを入れたらおいしそう」とか。人に対しても、相手のことをちゃんと理解したうえでお話ししてくださるので、自分のことをわかってくれているんだってうれしくなるんです。でも、締めなきゃいけないところではビシッと締めてくれる。こうやって今まで、いろんなところで座長として引っ張ってこられたんだなってことが自然とわかります。
南雲の婚約者・絵里菜を演じる山本舞香さんとは、かなり打ち解けたようですね。
撮影現場で最初にお会いしたのが、第1話冒頭の法廷シーンだったんです。木村さんに判決が言い渡されるシーンでは隣に座っていたので、空き時間に話しかけたんですが、一向に目が合わなくて(苦笑)。以前、舞香さんが「王様のブランチ」のレギュラーだったとき、スタジオで一度ご一緒したんですが、そのときの印象と全然違ったので戸惑いました。
そこから、どのように親しくなっていったのですか?
僕、相手の年齢や芸歴に関係なく、最初は敬語を使うんですけど、舞香さんは最初から僕にタメ口で話してくれて。同い年だしと思って、しばらく経ってから「タメ語でしゃべっていいですか?」と聞いたら、「いいに決まってるでしょ」って大笑いされて。そこから、僕も“タメ口のテンション”になったせいか、すぐに仲よくなりました。「あざとくて何が悪いの?」に一緒に出る頃には、すっかり友達のテンションでしたね(笑)。
婚約者という役どころなので、そのほうが演じやすいですよね。
そうですね。でも、舞香さんはお芝居に入るときにパッと切り替えられる方なので。普段の関係性がどうであろうと、出来上がった映像にまったく差がないので、やっぱり流石だなと感じます。
第4話の、秋澤(斎藤工)と揉み合いになった南雲が階段から転落するシーンは緊迫感がありました。
秋澤が南雲に声をかけるタイミングとか、服をつかむタイミングとか、最終的にここで止まってほしいとか、そういう物理的な確認をしただけで、二人で事前に打ち合わせなどはせずに本番に臨みました。あのシーンは工さんと僕の二人だけだったので、合間にお話ししました。劇中では秋澤と南雲は対立してしまったけど、工さんはカメラが回っていないところではすごく穏やかな方で。「今度、仕事で海外に行くんだよ」とか、いろんなお話をしてくれました。
秋澤のキャラクターも、なかなかインパクトがあります。
このドラマのキャスト登壇イベントのキャスト紹介のとき、……例えば南雲だったら、「狩山の部下で~」という感じで紹介されているなか、秋澤は「いつも汗をかいている」という紹介のされ方で(笑)。「秋澤だけそういう紹介をされてる」って工さんも笑っていたんですが、たしかに秋澤はちょっと変わった人なんですよね。常にハンカチで汗を拭いていたりとか。そういうところも、工さんはどう演じられるんだろうと思っていたんですが、完ペキに自分のものにされていました。
演技をしている感じがしないですよね。
そうなんですよ!工さんのお芝居って、素でしゃべっているみたいというか。別に力んでセリフを言っているわけでもないのに、ちゃんと全部の音がハッキリ聞こえるんです。そういったところも含めてスゴいなと思います。さっきお話しした階段のシーンでも、段取りを確認する時間もずっと気持ちを切らさずにお芝居をされていて、ステキだなと思いました。
毎話、予想のつかないストーリー展開にハラハラさせられっぱなしですが、脚本も素晴らしいですよね。
いつも台本を読む段階でおもしろいなと思うんですが、実際に出来上がった映像を見ると、さらにおもしろいというか。これは、決して上から目線で言っているわけではなく、ホントに素晴らしい構成で、テンポ感もすごくいいですよね。毎話、次回が気になる!という終わり方で。さり気なくたくさんのものが張り巡らされている脚本になっているので、ホントに職人だなって思います。
最終回に向けての見どころを教えてください。
実は、まだ最終回の台本をいただいていなくて(取材は5月下旬)、僕もどういう結末を迎えるのかわからないんですけど……。やっぱり、南雲は最後まで狩山の味方であってほしいですね。南雲も、逃げている道中で大怪我をしてしまいましたが、最終的には報われたらいいな、狩山と笑い合う姿を見られたらいいな、と心から願います。
一ノ瀬 颯
いちのせ はやて
1997年4月8日生まれ。
白いシャツと差し色の赤いパンツがとっても似合っていた一ノ瀬さん。外での撮影では少し夏らしい気温の中での撮影でしたが、気温に負けないぐらいのカッコよく素敵な写真をたくさん撮らせていただきました。室内では、隙間にすっぽり収まる体の柔らかさにカメラマンもスタッフも驚き、「すごいですね!」と思わず一ノ瀬さんに言ってしまうほどでした。また撮影の合間では、パッチリした目でとっても気さくにスタッフにも接してくださる一ノ瀬さん。外までの道のり、室内に戻る道のりではたくさんお話をしてくださる優しいお人柄でした。
後編では以前お話しした内容を改めてお聞きしたりしております!お楽しみに!
最近の出演作に、テレビドラマでは、フジテレビ『いちばんすきな花』(‘23)、TX『SHUTUP』(‘23)、映画では、アクターズ・ショート・フィルム『ハルモニア』(‘24)主演、『仕掛人・藤枝梅安』(‘22)、11/1には『十一人の賊軍』が公開予定。TBS「王様のブランチ」にレギュラー出演中。
©テレビ朝日
【作品情報】
「Believe―君にかける橋―」(テレビ朝日系)
毎週木曜 よる9時~
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿