高橋文哉
映画『少年と犬』
「別れを経なければ得られない感情もある」
2019年に「仮面ライダーゼロワン」で俳優デビュー以降、出演作が絶えない俳優の高橋文哉さん。最新主演映画「少年と犬」(3月20日公開)では、震災で飼い主を亡くした犬の多聞と出会う青年・中垣和正を演じています。さまざまな事情を抱える人々と1匹の犬が織りなす交流を描いた本作から高橋さんが感じたことや、「出会いと別れ」について考えたことなどをお聞きしました。

©2025映画「少年と犬」製作委員会
<あらすじ>
震災から半年後の宮城・仙台。職を失った中垣和正(高橋文哉)は、震災で飼い主を亡くした犬・多聞と出会う。多聞は和正とその家族にとってかけがえのない存在となるが、常に「西の方角」を気にしていて、和正がある事件に巻き込まれた混乱の最中に姿を消してしまう。時は流れ、滋賀で悲しい秘密を抱えた須貝美羽(西野七瀬)の下で過ごしていた多聞は、追ってきた和正と再会。ふたりと1匹の新たな生活が始まるが、多聞が「西の方角」に向かって歩くのにはひとりの少年との約束があった――。

本作への出演を決める上で、特に心が惹かれたところを教えてください。
元々犬が好きだったので、今作のような作品に主演として参加させていただけることは、とても嬉しかったです。もちろんそれだけではなく、作品自体にもとても惹かれたので、ぜひやらせていただきたいと思いました。
瀬々(敬久)監督からは、僕と西野(七瀬)さんが「愛される力」を持っているからこの作品でキャスティングしたと仰っていただいたんです。そのお言葉のおかげで「この役を通して、自分にしか届けられないものがあるのかもしれない」と思うことができました。
ご自身のInstagramで「原作を初めて読んだ時に感じた胸に沈む重さと胸に残る高鳴りを映像に落とし込めるよう真摯に」と仰っていましたが、それは具体的にどんな感情だったのでしょうか。
具体的に思いを表現するのが難しくて、その時は「重さと高揚感」といった言葉を選んだのだと思います。原作を読んでいて、世界観に入り込ませる力がとても強い作品だなと思いましたし、和正が物語の中で旅をして、いろいろな人と出会っていく中で「次はどんなことが起こるんだろう?」という高揚感やワクワクみたいなものを感じたんです。
それは映画にも感じることで、作品の全体のトーンとしては決して軽いものではないですし、グっとくるシーンもあるのですが、その中に和正と美羽と多聞がただ楽しく遊んでいるシーンなど、少し気が抜ける瞬間もあるんです。そんな風に、完成した映画を観て原作と同じように感じるところがありました。

©2025映画「少年と犬」製作委員会
演じた和正は、震災後の貧困に苦しむ生活を送り、被災地で窃盗団のドライバーをしているという役どころでしたが、人物像をどのように捉えて撮影に臨まれましたか?
和正からは人としての重みは感じられないよう意識しました。その役割は多聞や美羽だと思っていましたし、監督やプロデューサーさんからも「和正はテンション高めで、エネルギッシュなトーンでいてほしい」と言われていました。和正まで落ちると映画のトーンが低く、重くなってしまうので、多聞が2人にとってオアシスのような存在でいながらも、美羽とのキャラクター性の違いのようなものを届けていけたらということは撮影初日のころから監督たちとお話して、自分なりに解釈していきました。
震災や貧困など、様々な問題を取り上げている作品ですが、その中での和正の役割としては、難しかったところもあったのでは?
感情が読みやすい分、和正の本当の気持ちをちゃんと伝えなければいけないなと思っていました。その分、普段とは違うギアを入れなければいけなかったのですが、僕も和正とリンクした瞬間がいくつかあったので、あまり難しく考えずに、そのギアがリンクした瞬間に自分の気持ちを乗せていくような感覚でした。

和正はコミュニケーション能力が高く、人間らしさが溢れる人でしたね。
和正のエネルギーやコミュニケーション能力の高さも含め、「彼が置かれている状況が自分だったら」と考えた時に「絶対にこのテンションではいられないな」と、きっと多くの人が思うような人だと思います。自分で本編を見ても、美羽との初対面のシーンは「とんでもないやつだな」と思いました(笑)。
でも、きっと和正にしかない「ものさし」があって、自分なりに相手との距離感を測って「こいつは絶対大丈夫だ」みたいなものを感じているんだと思います。だから美羽に対しても、勝手に車に乗り込んだりするような、普通の人にはできないことをやるし、それを「良し」とさせる力が和正にはあるのではないかと思いました。
割と厳しい状況に置かれていても、常に明るさと陽気さがある人でした。
きっと和正は、自分が抱えている重いものに同情してほしいわけではなくて。自分がやっているのは悪いことだと理解している中で、責任とかいろいろなものを感じながらその場にいるんだろうなということを、彼のテンションの中で表現できたらいいなと思っていました。
僕が和正を「愛しいな」と思うのは、多聞と2人きりでいる時だけ、ふと自分の弱さを見せるところです。きっと和正は相談できる人が誰もいなかったから多聞にだけは本音を言えたのだと思いますが、多聞に「俺、あの仕事やるのかな?」と聞いたところで「やれよ」とも「やるな」とも言わないじゃないですか。でも、聞いてくれる相手がいることに救われているところは、自分にも通じる部分がありました。

©2025映画「少年と犬」製作委員会
作中、和正は多聞と美羽との「大きな別れ」を経験します。人生は出会いと別れの繰り返しですが、高橋さんはこの作品や役を通して「出会いと別れ」にどんなことを思われましたか?
僕はまだそんなに多くの「別れ」というものを経験していないので、きっとこれから経験していくんだろうなと思いますが、この作品の撮影中、ずっと多聞役のさくらと一緒にいたので、終わる時はすごく寂しかったです。毎日さくらに「おはよう」と言って、おやつをあげたり、おもちゃで遊んだりしていたのが一気になくなって、僕もさくらもまた違うところに向かっていく。それは当たり前のことだけど、やっぱり寂しかったです。
和正は作中で「別れ」を経験しますが、多聞と一緒にいた時間と、多聞を見守る立場でしかなくなった時の和正の心情は全く違っていて、それは映画を観ると感じていただけると思うのですが、空気感がまるで別なんです。出会わないと分からないこともあれば、別れを経なければ得られない感情もたくさんあるんだなということを、この作品を通じて改めて知りました。
「お別れ」=「つらい・悲しい」という感情だけではないことを、本作を見て改めて思いました。
本編でも「出会わなきゃよかった」というセリフが出てくるのですが、その言葉を言えている時点で、僕は「出会って大正解だな」と思いました。「この人と出会わなかったらこうだったな」と思った時に、自分の人生が変わっているのは間違いないので、そういうことがこの作品で具現化されているのだと思います。
出会って、様々なことを経験して、例えそれがお別れになったとしても、必ず「何か」が残りますよね。
それに、その出会いや経験をしたことで、また次のステップに進めると思うんです。「別れ」は悲しいけれど、それで終わらない関係性は必ずある。作中で和正が多聞と美羽と別れてからも、僕は2人に対してそう思っていました。この作品をご覧になった方にも、また新しい形の出会いとして受け取ってもらえたらいいなと思っています。

高橋文哉
たかはし ふみや
2001年3月12日生まれ。
インタビューでは、作品のことをすごく丁寧に熱く語ってくださった高橋さん。役作りや作品のできる過程に対して聞いているこちらも胸が熱くなるぐらいの熱量があり、和正を演じるにあたってすごく深いところまで向き合ってこられたのだと感じるお話しっぷりでした。プライベートのお話では、24歳を迎えられるにあたって高橋さんらしさはありながらも、たくさんの経験や出会いを経て、考え方がどんどん大人っぽくなられているのを感じました。後編では誕生日エピソードなどを伺っております。お楽しみに!
最近の出演作に、テレビ朝日『伝説の頭 翔』(‘24)、TBS『フェルマーの料理』(‘23)、フジテレビ『女神の教室~リーガル青春白書~』(‘23)、TBS『君の花になる』(‘223)、映画では、『あの人が消えた』(‘24)、『ブルーピリオド』(‘24)、『からかい上手の高木さん』(‘24)、などがある。
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©2025映画「少年と犬」製作委員会
タイトル:映画『少年と犬』
原 作:馳星周「少年と犬」(文春文庫)
監 督:瀬々敬久
企画・プロデュース:平野隆
脚 本:林 民夫
出演:高橋文哉 西野七瀬
伊藤健太郎 伊原六花 嵐 莉菜 木村優来(子役)/
栁俊太郎 一ノ瀬ワタル 宮内ひとみ 江口のりこ
渋川清彦 美保 純 眞島秀和 手塚理美 益岡 徹
柄本 明 / 斎藤 工
主 題 歌:「琥珀」SEKAI NO OWARI(ユニバーサル ミュージック)
制作スケジュール : 2024年3月イン~5月アップ
配給:東宝
コピーライト:©2025映画「少年と犬」製作委員会
公開日:2025年3月20日(木・祝)
※Item Credit
シャツ \39,000 ロードスコフ(バウインク)
パンツ \56,100 インカミング(コンクリート)
その他 スタイリスト私物
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:大木利保(CONTINUE)
スタイリスト:Shinya Tokita
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/有松駿