永田崇人×小林亮太
ミュージカル『HOPE』
二つの視点から紐解いていく埃を被った原稿
ミュージカル『HOPE』において、原稿が擬人化した存在『K』をWキャストで演じる永田崇人さんと小林亮太さん。史実を舞台とした同作品において「物の擬人化」という異質の存在を演じるにあたり、彼らは何を思い、どう向き合っていくのか。さらに今回同じ役を演じる二人の初顔合わせで、お二人、お互いの印象についても語っていただきました。ユーモアと誠実さの入り混じったお二人の対談をお届けします。
ミュージカル『HOPE』
<あらすじ>
長きにわたったイスラエル図書館とエヴァ・ホープの最後の裁判が行われる日。年老いた<狂った女>ホープは初めて長年自分が守ってきた原稿を裁判に持っていく。その原稿そのものが自分自身だ、と主張するホープに対して、裁判官や弁護士たちはその原稿の所有権について説明をはじめる。
ベストセラー作家だったベルトは、何にも属さない絶望を描くユダヤ人のヨーゼフ・クラインの才能に憧れ、原稿を焼くように言い残し死亡したヨーゼフの才能を守るために彼の原稿をそっと保管する。
第二次世界大戦で戦禍が激しくなる中、ベルトはマリーに、再び会える日まで持っていて欲しいとクラインの原稿を託す。マリーは逃げ延びる真っただ中でもベルトとの約束を守る為に原稿に執着し生きるようになり、マリーの娘ホープは原稿しか目に入らない母を横目でみながら戦禍を生き抜こうとする。誰にも関心を持ってもらえずそれでももがいていた中で、カデルに出会い恋に落ちるが、裏切られてしまう。
母を捨て長く彷徨い中年となったホープは再び母がいた場所へと戻り、再び自身の人生を苦しめてきた原稿を手にする。ホープにとって原稿とは一体何だったのであろうかー。
お二人は今回が初顔合わせとのことなので、
先ずはお互いの印象を教えてください
永田崇人(以下、永田):今回が初めましてではあるんですけど、実は小林君とはちょっとした接点があるんですよね。昔、ワークショップでアメリカに行ったんですけど、その少し前に小林君もアメリカに行っていたみたいで。そこでお名前をお聞きしたんですよね。自分から率先してワークショップに参加するなんて偉いし、カッコいいなと。素敵な俳優さんなんだろうなと思っていました。
小林亮太(以下、小林):そんな大した奴じゃないですよ(笑)。僕も永田さんが出演されている舞台やドラマを見させてもらって、俳優として歩まれている道が素敵だなとずっと思っていて。それに周りからも素晴らしい俳優さんだと聞いていました。
永田:誰が言ってたの、それ(笑)。
小林:でも実際にお会いして、その通りだなと! 今回、同じ『K』という役を演じられて嬉しいですね。
『K』を演じるにあたって
二人で大事にしていきたいことはありますか?
永田:Wキャストではあるんですけど、それぞれのやり方があると思うので自由にやっていければと思っていて。
小林:そうですね。僕は永田さんの演技を見るのが今から楽しみです。シングルキャストだとなかなか舞台を客観的に見ることができないので、それを稽古の段階から見られるのは勉強になります。永田さんの良いところを吸収しつつ、僕は僕のことに集中しようと思っていますね。
永田:あ、でも僕はもう1から100まで小林さんのやってることを真似させていただきます(笑)。ダブルキャストっていいなー!
小林:いやいや、それぞれ頑張ろうって言ってたじゃないですか(笑)。
史実を元にした『HOPE』というミュージカルで
これは大切にしたい、というポイントはありますか?
小林:擬人化という役をやるのが初めてなので、物であり人でもある、というバランスはしっかり考えたいと思っています。まだ脚本を読んだ段階ですが、『K』は「物」なんですけど主人公ホープへの愛を確かに持っていて。厳しい道を歩いているホープを支えて、明日へ向かう手助けをする役なんです。その姿を通じて、見にきて下さったお客様にも希望を感じてもらえたらと思っています。今の時代、暗いニュースが多いので『K』が希望の象徴になればと。
永田:小林君も言った通り、ホープとの向き合い方が『K』という役で重要になってくると思っています。同時にそこが見所でもありますね。史実を元に作られた舞台の中で、フィクションの存在である『K』がどう立ち振る舞うのか、そしてそれをどう表現するのか。ただ正直、これは実際に稽古が始まらないと、どうやっていくのかは分からないですけどね。
小林:稽古が始まって分かってくることが沢山ありますもんね。
ミュージカル『HOPE』の二人が
考える「見どころ」
永田:見どころと言っていいのか分からないんですが、個人的に注目して欲しいのは音楽ですね。本当に凄いんですよ。
小林:あ、僕も同じことを考えていました(笑)。僕、実は音フェチでBGMとか効果音とかが好きなんですよ。出演した舞台のサントラを携帯に入れて普段から聞いてたりします。『HOPE』はピアノのメロディが凄く綺麗で引き込まれるんですよね。そこに負けないよう、歌も頑張りたいですね!
永田:僕は音フェチではないですけど、それでも素敵な音楽だと思います。やばい、小林君との音楽の熱量が違いすぎる(笑)。先に喋ればよかった(笑)。あと、今回はキャスティングも素晴らしい方たちので、最初から終わりまで全部が見どころと言っても過言ではないですね。
最後にミュージカルを楽しみにされている方へ
メッセージをお願いします。
永田:演出の新納さんが公演発表で「物への執着」の話をされていたんですけど、それは今の時代、凄く重要なテーマだと思っています。大抵の物はなんでも簡単に手に入る時代になって、その影響で繋がりが消えたり、人間関係が希薄になったりしていて。物が溢れている現代で考える「物への執着」は、僕たちが忘れかけている大切なことを思い出すきっかけになるかもしれないと思うんですよね。ただそういったことを踏まえた上で僕にできることは、一生懸命『K』を演じることだけで。色々なバックボーンを知った上で僕の演技を見ていただき、何かを感じてもらえたら嬉しいです。
小林:実は脚本を読んだ時、初めて泣いたんですよね。自分でもビックリしました。『HOPE』には人種差別や貧困問題など古くから続いているテーマもありつつ、一番大きなテーマは物への執着、つまりは一種の愛なんです。その愛の表現が心に響いたと言いますか。今の時代に本当に大切にするべきことは何なのか、そしてこのミュージカルのタイトルでもあるホープ=希望という言葉が、物語においてどういった意味を持ってつけられたのか。それをお客様に伝えられるよう精一杯頑張りたいと思っています。
永田崇人
1993年8月27日生まれ。
ユーモラスな一面と哲学的な一面が共存する
ミステリアスな余裕を感じさせる27歳。
小林亮太
1998年12月16日生まれ。
ただ直向きに一歩一歩を踏み締め、着実に
成長を続ける22歳。
Musical 『HOPE』
上演台本・訳詞・演出:新納慎也
出演:高橋惠子 永田崇人・小林亮太(Wキャスト) / 清水くるみ 白羽ゆり / 上山竜治 / 大沢健 / 中山昇 / 縄田晋 / 染谷洸太 / 木暮真一郎
公演期間:会場:2021年10月1日(金)~17日(日) 下北沢・本多劇場
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
インタビュー・記事:山根将悟