渡邊圭祐
映画『ブレイブ -群青戦記-』
「自分だけの正義」と切に向き合う
哀しい青年に想いを馳せて―
高校生の頃は今よりも空が広く、青く見えていた気がする。それは自分自身が小さかったからなのか、青い春の色しか眼に映っていなかったからなのか。経験とともに心に積層される無数の色。綺麗な景色だけじゃない多種多彩な世界の色に、私たちの感覚は時折ついていけなくなる。青々とした光を眼に宿す『ブレイブ -群青戦記-』の生徒たちの中で、唯一大人びた瞳をしている不破。彼が願う「彼だけの正義」を知る時、不破という青年の“人間臭さ”が私たちの心に染みていく。「分からなくもないな」そう、遠回りにでも共感を抱いてしまう『不破瑠衣』の想いを、不破役の渡邊さんの言葉にのせてお届けします。
『ブレイブ -群青戦記-』
2021年3月12日(金)全国ロードショー
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会
©笠原真樹/集英社
<あらすじ>
退屈な授業と、常勝を義務付けられた部活。“その日”は、彼らにとっていつもと同じ学校生活だった。自分に自信が持てない弓道部の西野蒼(新田真剣佑)は、部活にも力が入らないでいて、おなじみの瀬野遥(山崎紘菜)と松本孝太(鈴木伸之)も、そんな蒼のことを気にかけていた。いつもと変わらない日々の中だったが、一本の雷が校庭に落ちて、彼らの日常が一変する。学校の外の見慣れた風景は、見渡す限りの野原となり、校内には刀を持った野武士が襲来して、学校生徒はパニックに!次々と生徒が倒れていく中、歴史オタクの蒼は、学校がまるごと戦国時代、かの有名な「桶狭間の戦い」の直前までタイムスリップしてしまったことに気付く。果たして彼らは戦国時代を生き抜いて、平和な現代に戻ることができるのか?!いま、歴史上で決して語られることのなかった、前代未聞の高校生アスリートVS戦国武将による戦いが始まる!
<不破瑠衣>
蒼たちに先駆けて戦国時代にタイムスリップしていた先輩。
歴史の操作を目論む。
不破瑠衣 × 渡邊圭祐
不破は世の中の全てのことが「くだらない」と思っている人間。だからこそ歴史を改変して自分の思い描く社会を作ろうとしているんです。ぱっと見、今作の中で唯一と言ってもいいほどの相当な「悪」なんですが、いざ演じてみて思ったのは「不破本人からしたら、それが正義なんだ」ということ。不破自身は「こうありたいし、こうなりたいから、今こうする」という自分の想いに忠実なんですよね。そこから生まれる彼の行動が、違う考えを持っている人から見たら「悪」に捉えられることもある…。そういった「それぞれの正義」という観点からものの見方をしたことがなかったので「すごく面白い人間だな」と思いました。
「不破には不破の正義がある」
その他に不破を演じる上で
考えさせられたことはありましたか?
この映画には「誰かのために」を、本気でやっている人しか出てこないんですよ。僕は「後先考えずにとりあえず突っ込んでみる」という“勢い”があるのが高校生の良いところだと思っていて。僕らから見たら「それはちょっと…」と思うようなことや小さな事件でも、彼らにとっては大変なことだし一大事なんですよね。そういった「どんなことにでも本気で取り組む姿勢」って大人になるにつれてだんだんと薄れてしまいがちだな、と。この作品に描かれている「人の為に自分を犠牲にできる素晴らしさ」や、「自分がどうなってでも目の前の誰かを守ろうとする強さ」に僕自身惹きつけられました。言葉では分かっていてもなかなか動けないのが人間じゃないですか。でも、なるべく蒼たちのように「誰かのために」という想いに寄って生きよう、と考えを改めるキッカケになりましたね。
不破を演じるうえで難しかったことや
意識されたことはありましたか?
ピンポイントの「難しかったな」と思うところは正直あまりなくて…というより、自分にとって初挑戦なことが多すぎて全てが難しかったです(笑)。甲冑を着るのも初めてでしたし、槍を振り回してアクションをするのも、馬に乗るのも、とにかくすべてが初めてだったので。ただ、それ以上に「楽しい」という気持ちが大きくて、本当に刺激的な毎日でした。何よりも難しいのはこういった取材でネタバレを気にしなきゃいけないことですかね。多分、僕が一番言っちゃいけないことが多いんですよ。そこがね、一番難しいです(笑)。
撮影時、印象的だったシーンを教えてください。
松山ケンイチさんとのシーンで、松山さんの顔が僕の顔の横まで来て「不破の目論みがバレているんじゃないか…」と、目の動き一つ許されないような状況に陥る緊迫の瞬間があるんですが、その時に「頭が真っ白になる」という言葉の意味を実感させられるほど、本当に頭の中が真っ白になったのを覚えています。言葉一つ、瞬き一つ、とにかく「今なにかをやったら、この人に全部バレてしまう」と。そう思わざるをえないほどに松山さんが“織田信長”でいらっしゃるのを感じた瞬間、お芝居をすることの楽しさや醍醐味を見せつけられた気がしました。お芝居のいろんな可能性の広がりが見えたというか、「面白いな」と感じさせていただいたというか。僕にとって楽しかった瞬間であり、一番実りのある時間だったかな、と思います。
織田信長は怖かったですか(笑)?
やりすぎです、松山さん…(笑)。本当はめちゃくちゃ良い方なんですが、松山さんの演じる「不気味で何を考えているのか分からない織田信長」が、この映画における“織田信長”という武将にすごくぴったりで。対面しただけでものすごく汗をかくし、エネルギーを吸い取られる感じがして不破として恐怖しましたね。
初の本広組の現場。
現場で印象的だったことや
監督ご自身とのエピソードがあれば教えてください。
本広監督は特にご飯にこだわる方で「現場の士気は飯にあり」という方なんですよ。お弁当は極力なしで、昼も夜もケータリングを入れてくださって。僕らの士気を上げるだけでなく、スタッフさんなど現場にいる全ての人のモチベーションが高い状態をご飯で作ってくださっていたイメージです。撮影に関しては、割と自由に役者のやりたい動きをやらせてくださる監督でした。監督の欲しい動きがあれば「僕ここに一個欲しいんだよね」と指示をくださりながら。基本的には役者ベースで僕らのことを第一に考えてくださる監督だったので、すごくありがたかったです。
実際、現場のご飯は力になりましたか?
なっていたんだと思います(笑)。今回は物語の設定が特殊なこともあり、体力的にもしんどいことが多い現場だったんです。生徒たちに関してはアスリートで、且つ、プロフェッショナルな集団でいないといけなかったので、各々の部活の種目でプロレベルの実技を求められていましたし。現場には整体師の方が入ってくださっていて、僕らは空き時間にマッサージを受けることもできたんです。温かいご飯や充実した身体のケアなどがある現場だったおかげで思いっきり撮影に臨むことができたんじゃないかな、と思います。
マッサージの福利厚生は使われましたか?
一度だけ使いました。僕の衣装は信長の衣装デザインとはまた違った、妖艶な雰囲気の衣装だったんですが、衣装部の方がわざわざ京都から生地を取り寄せて作ってくださったこだわりの詰まった衣装だったんです。甲冑も担当してくださった方曰く「劇中に着る甲冑の中で日本で一番重いかもしれない」らしく。それほどまでにこだわりを詰めてくださった衣装と甲冑だったので、一人では着ることができず、マッサージをなかなか受けることができなかったんですが、たまたま午後から撮影の日があって「マッサージをどうしても受けたい」と思って早めに入ったら、整体師の方から「よくこれで今まで歩けてたね」と言われるほどに凝っていたみたいで(笑)。マッサージだけでなく鍼もできる整体師さんだったので鍼の施術もお願いしたら、ものすごく身体が楽になったんですよ。それまでマッサージなしで普通に生活していたのに、楽を知ったことによりその後から甘えが出て来ちゃいましたね(笑)。
作品の公式SNSで
サンタさんの帽子を被っている
スタッフさんのお写真を拝見して、
「素敵な雰囲気の現場だな」と思いました。
あの日、僕はいなかったんです。僕もTwitterで知って(笑)。常に撮影の空気が本当に良い現場だったな、と思います。それぞれが役割を全うしながら、主演のまっけん(新田真剣佑)が作ってくれた空気を壊さないように皆さんで意識されていて。全員すごく仲が良かったですし、オンとオフもしっかりしていました。その一方で高校生らしい「やり過ぎた感」もあったりして(笑)。そういう時は「やり過ぎだよ」という一言が入る、みたいな(笑)。そういった現場の空気を僕らだけでなく、スタッフさん含め全員が作っていた気がします。それが遊び心にも繋がっていたんじゃないかな、と。
チームを組んで戦いにいく今作。
渡邊さんが味方につけたい部活はなんですか?
科学部ですね。一番活躍している気がするので(笑)。近距離でも戦えるし、長距離でも戦える。そのうえ逃げるにも楽ですし。現代人が勝つことを考えたら「科学を使わないと」と思います。
Message from 映画『ブレイブ -群青戦記-』
正直、世の中のほとんどのことなんて自分には関係ないですし、身の回りに起きることなんてくだらないことの連続だと思うんです。でも、それを「どう楽しむか」というのが人生の面白いところだと思っていて。不破はそこに気づけていないんですよね。不破のことを「バカだな」と思う方もいるかもしれない。むしろほとんどの方がそう思うと思います。「お前は何をやっているんだ」って。でも不破は他のみんなと同様、一生懸命に自分の正義を通そうとしているだけなんです。僕は「不破って周りのメンバーよりも少しだけ大人に近い感覚を持っているのかな」と思っていて。だからこそ「今の世界を変えよう。そのために歴史を変えよう。」としているんだろうな、と。そしてそれが「不破の中での正義なんだよな」と考えていました。不破の姿を見て「目の前のことに必死になることは正義でもあるし悪でもある」ということ、そして「そこを推し量れるような人間になれるといいよね」というメッセージをくみ取っていただければと思います。
渡邊圭祐
わたなべ けいすけ
1993年11月21日生まれ。
無二の色を纏ったフィルター越しに世界を見つめ、屈折的な情動溢れる現実を芝居を帯びて平静と渡ってゆく27歳。
映画『ブレイブ -群青戦記-』
2021年3月12日(金)全国ロードショー
監督:本広克行 脚本:山浦雅大 山本透
出演:新田真剣佑 山崎紘菜 鈴木伸之 渡邊圭祐
濱田龍臣 鈴木仁 飯島寛騎 福山翔大
水谷果穂 宮下かな子 市川知宏・高橋光臣
/三浦春馬・松山ケンイチ
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会
©笠原真樹/集英社
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:MIZUHO(vitamins)
スタイリスト:吉本知嗣
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:笹和紗
※Item Credit
シャツ¥29,000、パンツ¥16,000
(ともに ニードルズ/ネペンテス 03-3400-7227)