猪塚健太
『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』
「ただひたすらに人を想う」
究極の人間愛の美しさをスクリーンで
恋愛の美しさを感じることができるのはいつだって第三者だ。「あの2人はお似合いだ」「あの子の想いは一途で美しい」と、自分の恋愛よりも他人様の恋愛の美しさの方がダイレクトに胸に刺さってくる。『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』で感じたのも、そんな“ダイレクトな美しさ”だった。自由を弄ぶ予定不調和な木島と、ただ真っ直ぐに想いを滾らせる久住。そんな2人の“人間愛”が「言葉」という無限のものに翻弄されて火花を散らす。時に熱く、時に静かに。その火の粉を丁寧に描きとった作品の魅力を久住役・猪塚さんのお話とともにお届けします。
『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』
<あらすじ>
官能小説の「口述代筆」。奇妙な出逢いをへて恋人になった、官能小説家・木島理生(竹財輝之助)と大学生・久住春彦(猪塚健太)。木島が田舎へ里帰りしてからも、文通で遠距離恋愛を続けていた二人だったが就職したての久住とすれ違い、気まずい空気に…。そんな折、奇しくも再び腕を負傷した木島はかつてを思い出すように、地元で知り合った青年・静雄にペンを握らせる。そこへ久住がやってきてしまい…。
<久住春彦>
久住春彦 × 猪塚健太
春彦は真面目でピュアで、自分の意見をしっかりと言うことのできる面も持ち合わせる、パーフェクトに近い男にしたいと思って演じていました。加えて、漢字検定一級を持っているという設定もあるので(笑)、きっと頭も良い方なんだろうな、と。ただ、若いがゆえの勢い任せに行動しちゃう部分もあるんです。
そんなところも魅力ですよね。
そうなんですよね。この作品は題材はBL(ボーイズラブ)と言われるジャンルのものですが、春彦自身はもとから男性に恋愛感情を抱いていたわけではなくて。たまたま出会った木島理生という人間に惹かれていく、そんな「一人の人に魅力を感じて好きになることができる」ピュアな魅力のある人なんです。
ドラマの時から久住を演じてきた
猪塚さんだからこそ分かる
久住の成長や変化はありますか?
ドラマでは、最初は「自分のこの(木島)先生に対する気持ちは何なんだ」というところから始まって、「あ、俺、この人のことが好きなんだ」ということに全話を通して気づいていく春彦の心の変化を描いていたんですが、今回の映画でその「想い」が「愛」に変わったと感じました。一人の人のことを深く愛して、「恋」が「愛」に変わっていく変化を観てくださる方にも感じ取っていただきたいです。春彦自身でいうと、大学生から社会人になったことで少しの「疲労感」を感じている気がします(笑)。大学生の時のようにふわふわはしていられないですし、意識的に「大人としての責任感」が少し出てきたんじゃないかな、と。そこは春彦の人間的な成長だと思いますね。
自由奔放な木島先生に比べて
久住は本当に一途ですよね。
そうなんですよ。だから「なんでこんなに好きなんだろう?」と役を作るうえでずっと考えていました。普通、こんなに人を好きで居続けられることってなかなかないじゃないですか。ましてや遠距離で2年も会っていなくて、向こうからのアプローチが望むようにはないのにずっと好きでいられるって…本当にすごいことだな、と(笑)。
言葉では説明できないような想いなんですね。
今回の恋愛が男女間での恋愛ではなく、『木島理生』という人間に恋をしているのが一つ深い愛たる所以なのかな、と思いました。その人自体が好きだから揺らぐことがないんだなって。
すごく「言葉」を大事にされている
作品だと感じたのですが、
この作品を経て、
猪塚さんが感じた「言葉」や「文字」の
魅力はありますか?
この映画の中で春彦が一番欲しているのは木島先生からの「言葉」なんですよ。「自分のことをどう思ってくれているのか、どう考えているのか」を言葉で伝えて欲しいんです。春彦の想いと照らし合わせて、「今まで自分自身は人にどんな伝え方をしていたか」について考えましたね。ドラマで「口述筆記」というものをやったんですけど、改めて文字で表現する機会が本当になくなったな、と思って。「言葉を書く」って、思ったことを話すよりももう一つ自分の考えていることの先をいっている気がしたんですよね。案外、自分の思っていることや伝えたいことは「文字」にした方が伝わるのかもしれないな、と感じました。
カタチに残るのは「文字」ですもんね。
そうなんです。僕、家族に手紙を書いたりすることがたまにあるんですけど、文字を書こうとした瞬間に急に内容がまとまらなくなることがあるんですよ。すごく考えて、日々思っていることのはずなのに文字に残そうとすると「あれ?」みたいな(笑)。文字を書くことってSNSなどに入力するのとはまた違うじゃないですか。パソコンや携帯で入力するのと違って「文字に想いを込めないといけない」というのが手紙などを書くと、より分かるんですよ。改めてこの歳になって文字を書くことの大切さを考えましたね。僕は職業柄お手紙を頂くことが多いんですが、ファンの皆さんが何枚も何枚も便箋にびっしり書いてくださるわけですよ。自分が手紙を書くことによって、皆さんが手紙を書いてくださることのありがたさが身に染みて分かりますし、それだけ僕のことを好きでいてくれて応援してくださっていることが伝わってきて感動しますね。
「言葉」の素敵さはもちろん、
映像も静かな美しさが続く作品だと感じました。
猪塚さんの考えるこの作品の美しさはなんですか?
とことん純粋な人間愛を追求している姿ですかね。冷静に観たら本当に単純なラブストーリーなんですが、「人間と人間が愛し合う気持ち」みたいなものを監督も含めて、携わっている方々が丁寧に表現されているので、是非、そこの美しさを感じていただきたいです。
三木康一郎監督との撮影の中で
印象的だった場面はありますか?
僕がすごく印象的だったのは、三木さんが最初の段取りの時に「このシーンのこのセリフを君たちはどう思ってる?」と、僕ら役者の気持ちの流れを第一優先で大事にしてくださること。監督さんによっては「このセリフはここで言って、こう動いてもらって」と細かく指示を出される方もいらっしゃるんですが、三木さんは「まず、自分の気持ちの動くがまま動いて」と役者に任せてくださるんです。どの役者がどんな動きをしても完璧に撮ってくださるので「すごいな」と思っていた時に、三木さんにお話を聞く機会があって。どうやら、撮影をする前に三木さん自身で最低でも3パターンは僕らの動きを想定しているらしく。一つ目は三木さんが思った「こう動くんじゃないかな」というパターン、二つ目はそうではない役者が思うであろう動き方、三つ目はそのどちらでもなかった時の動き方、それぞれの撮り方を準備している、と。「だから何がきても動じずにいられるんだよ」と仰っていて、僕も「だからこんなにお任せすることができるんだ」と確信しました。
自由に芝居をしていても
「あ、それできたか」と思われるんですね。
で、それをちゃんと綺麗に撮る方法を用意してくださっているんですよね。計算して、狙ってやられていることを知ってさらに信頼を置けましたし、「もう身を任せてとにかく全力で芝居しよう」と思いました。ドラマの撮影からそういった方法だったんですが、そのお話を聞いたのは映画の撮影の時だったんですよ。それまでは「役者の気持ちを大事にしてくださってありがたいな」とは思っていましたが、今回このことを知って「もう僕らの考えていることなんてお見通しなんだ」と思いました(笑)。「やっぱりそうですよね、さすがです」という気持ちです(笑)。
監督との関係も
さらに厚くなったんですね。
パートナー役の竹財さんとの
お芝居はいかがでしたか?
ドラマの時、春彦は急に現れた竹財さん演じる『木島理生』という不思議なキャラクターが発したことに影響を受けていた印象があったんです。なので、とにかく竹財さんのお芝居を見て、感じたままを春彦として表現しようとしていたんですが、今回の映画ではその構図が逆のことが多くて。春彦が会えなかった2年半で貯めた気持ちや想いをぶつけていく、といった面で、僕のほうからアクションを起こすことが多かったんです。竹財さんは僕がどんな芝居でぶつかっても、ちゃんと『木島理生』として受け止めて反応してくださり、とてもありがたかったです。
まさに「信頼」ですね。
そうですね。すごく嬉しいし恐縮なのですが、竹財さんは僕のことを「信頼できる役者だと思ってる」とよく言ってくださるんです。「ここの芝居はこうしよう」と話さなくても、セリフのやりとりなどで「通じ合っているな」と思うことができるので、僕自身も竹財さんとの芝居に安心感を感じています。
Highlight of
『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』
ドラマ『ポルノグラファー』が「恋」だとしたら『プレイバック』は「愛」の物語だと思っています。その「愛」が2年半という月日を経てすれ違い、ぶつかり合う。思いっきりぶつかり合った末に2人がどういった言葉で愛を結んでいくのか、その2人の純粋な愛のカタチを観ていただければいいな、と思います。たくさん喧嘩してたくさん愛し合うので、そこはもう、とにかく凝視してください(笑)。
猪塚健太
いづか けんた
1986年10月8日生まれ。
人のコアな場所に優しく寄り添い、渾然とした人間らしさまでも徹頭徹尾“愛”を持って演じ抜く34歳。
『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』
2021年2月26日(金)全国映画館にて3週間限定公開
監督・脚本:三木康一郎
出演:竹財輝之助 猪塚健太
松本若菜 奥野壮 小林涼子 前野朋哉/吉田宗洋 大石吾朗
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
インタビュー・記事:満斗りょう