佐藤寛太
音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』
「きっとカムパネルラに恋をする」
そんな彼の銀河の泳ぎ方に迫る―
Stage of FAST -Stage 19-
音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』
<あらすじ>
「お父さんからラッコの上着がくるよ」、少年ジョバンニは今日もクラスメートのザネリにからかわれていた。 遠い外国の海に漁に出たまま戻ってこない父に、ラッコの密猟をして逮捕されたという悪い噂が立っていたの だ。今日は星祭りの夜、耐えられなくなったジョバンニは町外れの丘に登り、一人星空を見つめる。すると汽車 の音が聞こえ、気がつけば客車の中、目の前には親友のカムパネルラもいて。銀河のほとりを走るその汽車は、 実は死者の魂を天上へと運ぶ汽車であった。途中で乗り降りする奇妙な人々。二人は「ほんとうの幸い」を探して、どこまでもどこまでも一緒に進んで行こうと決意するのだが・・・。
カムパネルラ × 佐藤寛太
今回このお仕事に関わるまでどんな話か知らなかったんですが、この舞台が決まって台本より先に「どんな作品なんだろう」と原作を読んだんです。台本と原作でカムパネルラの印象が違いましたね。台本でのカムパネルラはどこか神格化されている部分があるんです。そういった意味でも「演じわけが難しいだろうなあ」と思いますね。死という概念を得る前と得た後でもきっと違うだろうし。普通にみんなと教室にいる時と銀河鉄道に乗っている時とでは同じ役だけど全然違う人物になる気がしています。そして今回は何といっても音楽劇。上映時間にしては台本のページ数も圧倒的に少ないんです。きっと音楽や抽象的な表現方法がけっこう舞台のなかで大切になってくるんだと思います。それに伴って僕の演じ方も「ストレートプレイとは違ってくるんだろうな」と感じています。
8月中旬から稽古が始まったと伺いました。
自分一人で台本を読んでいる時と、
稽古に入った後とでは解釈に変化はありましたか?
今はこのようなご時世なので必要なシーンごとに役者が集まって稽古をする、といった形をとっているんです。なのでまだ共演者の方全員はお会いできていなくて…。ただやっぱり、役のイメージは自分一人の時に掴んでいたものよりも稽古に入ることで膨らみましたね。何がすごいって今回は生で伴奏がつくんですよ。そして音楽が本当にいいんです。今聴いているのはまだ録音された音源なんですが、挿入歌としてアメユキ(さねよしいさこ)さんが歌ってくださる曲のメロディーが今までに聴いたことのないようなメロディーで。初演の25年前に作られた曲らしいんですが、実は『銀河鉄道の夜』の舞台とはまったく違うところで作られた曲なんだそうです。その曲が演出の白井さん(白井晃)の世界観とシンクロしたとお聞きしました。僕も含めて、次に何が起こるか分からないようなワクワク感をずっと持たせてくれる作品になると思います。音楽の使い方とかすごい贅沢なんですよ。一人でイメージしてても全く自分の想像が追い付かなかった部分が見えてきて、やっぱり音楽の力はすごいと思い知らされましたね。
全体図を見るのが今から楽しみですね!
そうですね。怖さもありつつ…ですね(笑)。僕自身、カムパネルラという少年がこの舞台の稽古を通して一番変わるんじゃないかと思っているんです。「この演じ方だとお客さんに僕の伝えたいことが伝わらないな」という感覚に絶対になると思っていて。とりあえずは白井さんに従いつつ、自分のやりたいようにやってみて、そこからいろいろとイメージを変えて模索していけたらいいなと思っています。
稽古に入る前の台本の時点で
読めば読むほど作品への考え方に
変化があったとお聞きしました。
そうなんですよ。この作品は宮沢賢治の未完成の作品と呼ばれている作品らしくて。宮沢賢治さんの世界観のひとつの集大成のようなものと感じています。実際、『銀河鉄道の夜』に出てくるワンシーンや一言のセリフが他の宮沢賢治作品にも出てくるんです。そういった発見も読んでいてすごく楽しかったですね。今回の作品は『銀河鉄道の夜』の原作を読めば分かるようなものではないと思ったので、今でも他の宮沢賢治作品を読みながら自分の中で感じるものを大切に『カムパネルラ』を探しています。
私たち観客も宮沢賢治の他の作品を読んで、
繋がる部分があるかもしれないですね。
僕らとしては今回の舞台を観た後に「『銀河鉄道の夜』の小説を読みたい」と思ってもらえるのも嬉しいんですが、同時に「宮沢賢治の有名な作品はこんな作品だったのか!」と観た方が納得できるような作品にできたら一つの目標達成かなと思っています。童話とはいえど難しい作品だと思うんです。だからこそ観る人によって全然感じ方や解釈も違うと思うんですが、そんな中でも一つの答えを提示できたら嬉しいですね。
元々、読書好きな佐藤さんですが
このお話が来た時どう感じましたか?
これまでけっこうコメディタッチな作品が多かったので、こんな文学的な作品をやらせてもらえると聞いた時は嬉しかったです。こういった作品を観たり演じたりすることで役者の幅を広げることができると思っているので今から楽しみですね。演出の白井さんとご一緒できるのも嬉しかったですし、誰もが聞いたことがある作品の中で大役を担えるのはすごくありがたいと思いました。
台本の時点で世界観が独特ですよね。
今からどう噛み砕いていこうと思われていますか?
原作で書いてあることが台本にはあまり書いてないんです。なので原作通りのカムパネルラを演じると、台本上の彼とは違ってしまうと思っています。まだ稽古が始まったばかりなんですが、白井さんとはいろいろとお話させてもらっています。でもこの作品は「言葉じゃ伝わらないな」とも思っているんです。『銀河鉄道の夜』という作品に対してのイメージが多種多様にありすぎて、言葉でいろいろ言ってもきっと共演者内ですら伝わらない部分もあるんじゃないかな。演じていく中で各々が答えを見つけて一つの作品を作っていく状況になっていくと思います。僕自身、「カムパネルラ役としてこういうことを大事にしたい」や「このシーンはこういったイメージですよね」というゴールは何となく見えているんですけど…いや、その答えもまだ正解なのかは分からないんですが(笑)。ただ、「一つ道を見つけられたらいいな」と思っています。
音楽劇というのも佐藤さんにとって初の試みですよね?
そうなんですよ。今回の作品は音楽が本当にすごいと思っているので、逆に音楽を奏でてくださるミュージシャンの方々が「お芝居がいいな」と思ってもらえるような芝居をしたいです。音楽チームと力を合わせてやっていく形の作品は初めてなので、お互いにずっと尊敬し合える環境の中で作品を作っていきたいと思っています。
佐藤さんの考える音楽劇『銀河鉄道の夜』の見どころ
この作品は今の時代にすごく合っている作品だと思うんですよね。というのも、死生観に触れることって日常の中であまりないじゃないですか。例えば「お腹空いたな…」と思ったとしてもコンビニに行けば100円でおにぎりが食べられちゃうわけだし、「自分って簡単に死んじゃう存在」だとほとんどの人が意識していないと思うんです。何かに圧倒されたり、“自身の死”を感じて自分の人生の生き方を考える経験がない中で、この作品は自分の死んだ先のことまで考えるような作品になると思います。「死」に向かう心の準備、自分が「死」を迎えた時にそれまでの人生をどう思うのかを考えるキッカケになると思っています。出ている僕がこんなことを言うのもなんですけど、すごく学びの多い作品になるはず。そこが僕が考えるこの作品の一番の見どころですね。なかなか日常では感じられないようなことを感じることができる作品であり、観ている間ジョバンニと同じ夢を見られるような作品になるんじゃないかな。この作品を観た後、きっと劇場を後にする人たち全員が違う感情を抱いていて、それは誰とも共有できないような感情になると思います。それは孤独になることでしか味わえない感情だと思うので、貴重な経験を劇場にしに来てもらえればと思います。
カムパネルラを演じる上での意気込み
自分の役に関してはまだ稽古が本格始動する前(撮影は8月中旬)なんですが、僕の役が皆さんが「死」というものを体感するフィルターになると思っています。最初は「この人何を考えているんだろう?」とすごく遠い存在に感じるかもしれないけれど、観劇し終わった後、帰り道や下手したら一週間後、一か月後にふと「カムパネルラってあの時こんな気持ちだったんじゃないか」と考えてもらえる瞬間がくると思うんですよ。その時に答えが出たり、シンクロしたりできるような役を演じられたらいいな、と思っています。何だろう…例えば自分の友達の良いところや可愛いところを見つけた時って自分だけの秘密になるじゃないですか。宝物みたいな瞬間というか。そんな瞬間を与えることのできるようなキャラクターを演じさせてもらうので、この舞台の上演中には答えが出ないようなお芝居をすることも僕の一つの役割かもしれないです。観終わった後も「何だかあいつのこと考えちゃう」というようなカムパネルラを演じたいですね。伝わりますか(笑)?
伝わります。もはや「恋」ですよね…?
そうですね。性的な意味の「恋」じゃなくて、存在に対しての「恋」。僕、台本を読む前と読んだ後で考え方がすごい変わったんですよ。だからそれと同じ感覚…いや、それ以上の感覚を観てくださる方に伝えたいと思っています。それを自分が背負うとなるとしんどい部分もあるんですけど(笑)。でも、そのくらい素晴らしい作品だと思うので是非観ていただきたいですね。きっと僕の中ではこの先もずっとカムパネルラがいるんだと思います。そんな役に出会えて本当に幸せです。
詳しくはFAST公式Twitterにて
佐藤寛太
さとう かんた
1996年6月16日生まれ。
劇団EXILEのメンバー。陽射しを浴びる若木のような吸収力と美しい青々しさ、自分軸と子供心を抱きしめる24歳。
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』
日程:2020年9月20日(日)~10月4日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
原作:宮沢賢治 脚本:能祖將夫 音楽監督:中西俊博
舞台美術:小竹信節 歌:さねよしいさ子
演出:白井晃
出演:木村達成 佐藤寛太 宮崎秋人 / 岡田義徳 ほか
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:KOHEY
スタイリスト:平松政啓
インタビュー・記事:満斗りょう