北村匠海
映画『さくら』
作中で光る「家族の形」と「家族のチカラ」
全ての家族に同じ形など一つもない
「日常」というものは誰の中にも存在しているにも関わらず、一つとして同じ形をしていない。だから私たちは相手を理解しようと、時に遠ざけようと必死に生きていく。彼が演じる“男の子たち”はいつだってどこか自分自身に悩んでいる。そんな誰もが経験する脆さが美しい。その美しさが「人間らしさ」と同じ質感で共鳴するが故に、彼の“芝居”から“声”から目が、耳が離せないのだろうか。圧倒的に「北村匠海」であるはずなのに、すべてが無色透明に見えるのは何故?ドラマチックを体現する彼に聞いた作品の話―
映画『さくら』
©⻄加奈⼦/⼩学館
©2020「さくら」製作委員会
<あらすじ>
音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくる。スーパーのチラシの裏紙に「年末、家に帰ります」と綴られた手紙を受け取った長谷川家の次男・薫は、その年の暮れに実家へと向かった。母のつぼみ、父の昭夫、妹の美貴、愛犬のサクラとひさびさに再会する。けれど兄の一(ハジメ)の姿はない……。薫にとって幼い頃からヒーローのような憧れの存在だったハジメは、2年前のあの日、亡くなった。そしてハジメの死をきっかけに家族はバラバラになり、その灯火はいまにも消えそうだ。その灯火を繋ぎ止めるかのように、薫は幼い頃の記憶を回想する。それは、妹の誕生、サクラとの出会い、引っ越し、初めての恋と失恋……長谷川家の5人とサクラが過ごしたかけがえのない日々、喜怒哀楽の詰まった忘れたくない日々だ。やがて、壊れかけた家族をもう一度つなぐ奇跡のような出来事が、大晦日に訪れようとしていた─。
<長谷川薫>
長谷川家の次男。モノローグを使って長谷川家の物語を進めてゆく。優しく穏やかな青年だが、どこか憂いを秘めた雰囲気がある。
長谷川薫 × 北村匠海
薫はキラキラ輝く眩しい兄と自由奔放な妹に挟まれた長谷川家の次男。あまり表には出さないものの、兄や妹に比べて自分に個性がないことへの劣等感を実はずっと持っている子だと思いました。僕としては「すごくネガ(ネガティブ)が強い子だな」という印象でしたね。
作品の中で薫の変化が見えたんですが、
それは薫自身の力で変化していったんですかね?
家族全員が一(吉沢亮)の死を乗り越えて、サクラという一匹の犬のおかげで更生していく。その過程で薫が一人でネガティブな部分を克服したというよりは、家族が兄の死を乗り越えていくにあたって彼も前を向いていけるようになっていったんだと思います。
「現代における家族の形を映像化したい」
というプロデューサーさんの想いがこもった今作。
北村さんの考える「現代の家族の形」はどんな形ですか?
「家族の形」は本当に人それぞれで、当たり前に家族について「幸せ」だと思っている人もいれば、そうじゃない人もいるんじゃないかと。一概に「家族の形」に正解はないんですよね。長谷川家という一見幸せな家族に立ちはだかった大きな壁。その壁に家族全員がぶち当たってバラバラになって…と、そんな状況の中に描かれた「笑い」に、この作品における家族の魅力を感じました。長谷川家の根底にあるのは笑顔。家族に生じた歪みにも、怪我をした一にも笑顔で接することができる家族なんです。監督からはそういった家族の「笑い」を描きたいと聞いていたので、長谷川家の家族の在り方は「笑い」の上に成り立っているものだということを意識しました。
家族団らんのシーンでは
クスッと笑える部分もありましたね。
家族のシーンは撮影していてすごく楽しかったです。台本があったシーンもあるんですが、何気ない会話の中にはちょこちょこアドリブもあったりして。撮影というよりは普段の家族団らんを撮られているという感覚のほうが強かったですね。セリフの掛け合いではなく、すごくリアルにみんなが喋っている現場でした。
この物語は薫のモノローグで進行していきますが、
実際に演じられている部分とナレーション部分で
声の意識は変えられましたか?
薫の主観か俯瞰かの違いは意識しました。シーンに色をつけたくなかったので、観ている人がナレーションに左右されないようにはしていましたね。今までに経験したナレーションは心の奥底の心情、いわゆる心の声を当てるものだったんですが、今回はストーリーテラーのような役割じゃないですか。もちろん薫の心情も少し挟まれるけれど、基本的には小説を読んでいるような感覚。ただシンプルに進行していく役割を担えたのがすごく新鮮でしたし、ある種「お客さんと同じ目線になれたらいいな」と考えていました。
まさに「テラー(語り手)」ですね。
サクラ(ちえ)ちゃんのいる現場はどうでしたか?
癒されていましたね~。割と過酷でタイトなスケジュールだったんですけど、みんなちえちゃんに癒されながら頑張っていました。僕も犬を飼っていたり、他のキャストの皆さんも動物好きだったので、みんなに愛される現場の中心的存在でしたね。演技も天才で「全部理解してやっているんじゃないか?」と思うくらい。すごくお利口で素晴らしい役者さんでした。
Message from 『さくら』
By Takumi Kitamura
この作品をやっていて「家族」の形についてすごく考えさせられました。今年は人と会えない期間もありましたし、身近な人を想ったり心配したりする機会が増えた1年だったと思います。この作品を観て改めて「家族って自分にとってどんな存在なのか」とそれぞれに考えていただけたらな、と思います。
北村匠海
きたむら たくみ
1997年11月3日生まれ。
世界の柔らかな部分を優しく汲み取り、繊細なカオスさを匠な演戯で“人の真中”に届けてくれる23歳。
映画『さくら』
2020年11月13日(金)全国ロードショー
原作:西加奈子 監督:矢崎仁司
出演:北村匠海 小松菜奈 吉沢亮
小林由依(欅坂46) 水谷果穂 山谷花純 加藤雅也
趙 珉和 寺島しのぶ 永瀬正敏
チームクレジット
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:深見真也(Y’s C)
スタイリスト:鴇田晋哉
ディレクション:町山博彦
インタビュー・記事:満斗りょう