水上恒司
映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
この作品には色々な愛の形がある
現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』で、ヒロインの最愛の人・村山愛助役を演じている水上恒司さんがFASTに初登場! 12月8日に公開の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』では、福原遥さんとW主演を務めます。本作は、汐見夏衛さんによる同名小説を実写化したラブストーリー。特攻隊員の佐久間彰を演じている水上さんに、役についての思いや、作品を通して伝えたいことなどをお聞きしました。
©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
<あらすじ>
親や学校、すべてにイライラした毎日を送る百合(福原遥)は、ある日母親とケンカをして家を飛び出す。目をさますとそこは1945年の戦時中の日本だった。 偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、彼と過ごす日々の中、百合は彰の誠実さと優しさに惹かれていく。だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だったー。
本作への出演について、
初めにどんな感想をもちましたか?
今までも戦争を扱った作品はたくさん作られていると思いますが、なぜ今の時代に、このタイミングでこの作品(以下、「あの花」)を公開する意義があるのかを考えた時に、最近読んだイスラエルの歴史学者・ユヴァル・ノア・ハラリさんの著書『サピエンス全史』の中で、僕が撮影当初から思っていたことと同じような言葉を使われていたんです。それが「あの花」を公開する意義に繋がっているなと感じました。弱い存在だったホモ・サピエンスが、いかにして競争に勝ち抜き、地球上で繁栄し支配するまでに至ったのかが記されている長編なのですが、僕がそう感じたのはどこの部分なのか、ぜひ読んでみていただきたいです。
©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
演じられた彰のバックボーンや本当の気持ちは
作中ではあまり描かれていませんでしたが、
その辺りはどのように
探っていったのでしょうか。
台本の中では彰のことを語る瞬間がほとんどなかったので、僕はそこに書かれてあることを忠実に守って演じましたが、その中に難しさと魅力的な部分もありました。中でも、僕は「なぜ彰があそこにいるのか」ということに対して、演じる側としても映画を見る方々も色々な解釈ができると思ったし、そうであってほしいと願っています。
あの時代に、百合のような
自分の考えをはっきり言う女性に惹かれる
というのもかなり大きいですよね。
そこも含めて、彰は本当に様々な解釈ができる余地がたくさんありました。もしかしたら彰も百合と同じ時代の同じ学校にいて「あの子かわいいな」って思っていたけど、百合よりも少し先にあの時代にタイムスリップしていて、それが永遠にループしているのかもしれない。だとしたら、彰のあの達観さも説得力が出てきますよね。現代からタイムスリップして、自分の使命を何十回も繰り返して「俺は百合を守らないと死ねない。これを繰り返さないといけない」という呪いにかかっている、ということだって考えられるじゃないですか。
確かに、あの年齢で
あんなに達観視できるところをみると、
勘ぐってしまうところはありますね。
あそこまで日本のことを俯瞰で見ることができて、自分の宿命みたいなものも冷静に見れている人間だからこそ哀しさが生まれるので、そんな設定や捉え方も僕はありだなと思います。
台本以外に、
役をつかむうえで参考にしたことは?
撮影する2か月ほど前に戦争や特攻隊に関する色々な資料を頂いたのですが、実際に生き残った特攻隊の方のインタビュー映像もあったんです。その中で、出陣の前夜に天井にある木目の数を数えていたことや、妙に興奮して眠れなかったというお話があったのですが、僕たちにも大なり小なり悩みがあって、それに葛藤し、ギラギラして眠れなかったというのはよくあることなので、とても親近感を感じました。
この時代だったからということもありますが、
彰を含め、自分を犠牲にしてでも
国や誰かを守るという考えに
寄り添うことはできましたか?
僕が小学2、3年生の時に母方の祖父が病気で亡くなったのですが、初めて人の死に触れたのがその時だったんです。僕は祖父のことが大好きだったのでとてもショックでしたが、世の中には不幸な事故や事件も含め、大事な人を亡くされている方も大勢います。そういう報道を見たり聞いたりしていると、まだまだ「死」というものが分かっていない僕が意見できることはないですが、当時の状況を考えると犠牲は仕方がなかったのかなという考えもあると思うんです。その犠牲があったから今僕たちは生きているし、いつ僕たちが「犠牲者」の立場になるかも分からないですから。
©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
それは日本だけでなく、
太古から世界中の国や地域で
起きていることですね。
それこそ、日本がいつ争いに巻き込まれるかも分からないですし、もしかしたら僕がいつかタイムスリップするかもしれない。そういったリスクが隣り合わせにありながら僕たちは今を生きている。だからこそ、毎日を楽しみたいと思ったり、目の前の大事な人との時間を大切にできたりするんじゃないかな。作中で、百合がタイムスリップする前に父親に対してよくない言葉を使ってしまったけど、現代に帰ってきてその考え方が変わったように、目の前にある今日という1日を生きることを大切にしようって思えると思うんです。
強い思いを持って臨まれた本作ですが、
完成した作品をご覧になった感想は
いかがですか?
まずはなんとか形になってよかったなと思います。正直なところ、日本が与えた被害も含め、残酷なことも伝えられたらという僕自身の思いは「あの花」をやるにあたってはブレーキになることなんです。この作品ではそういう部分をあえて描いていないので、そういったところを僕がやりたい、表現したいと思うと彰ではなくなってきてしまう。かといって、彰を含めみんなの中にドロドロした部分がないわけではなく、見せていないだけなので、そこはスタッフの方々とうまく折り合いをつけながら作っていきました。
役や作品を演じて、
伝えたいことを教えてください。
やっぱり愛ですかね。戦時中は今の僕たちには想像ができないような大変な状況でしたが、それでも人と人の間に愛が芽生えて、その愛が育まれ、繋がったから僕たちは今ここに存在している。この映画では、彰と百合の関係以外にも色々な愛の形があるんです。例えば、松坂(慶子)さん演じるツルさんのように、ただひたすら若者たちを支えてあげたいという愛、伊藤(健太郎)くん演じる石丸と出口(夏希)さん演じる千代ちゃんの愛の形や、上川さん演じる寺岡さんの家族に対する気持ちや、(嶋﨑)斗亜くんが演じる板倉の愛の形。そういった色々な愛の形をあの当時の表現としてやっているので、現代に生きる方々が見てどういう風に思うのか気になります。
メッセージとしては
どんなことを伝えられたらいいなと思いますか?
自分の思いをちゃんと伝えることだったり、大事な人を大事にしたいと思う気持ちだったり、そういう普遍的なものを伝えたいです。あとは、僕たち世代の方々やこれから生まれてくる子供たちに「戦争を知らない」という悲劇が生まれないようにしたいというのが願いですね。
「日本でも戦争が起こっていた」
という史実を知らない、
興味も持たないという新たな悲劇ですね。
戦史上、被害者と加害者がはっきりと分かれているものはほとんどなくて、両者が曖昧な立場にあると思うんです。少なくとも僕が受けてきた教育では、日本が被爆国であることと、特攻隊をはじめ、こういう人たちがいて僕たちは今生きているんだということで、日本が与えてきた被害や暴力みたいなことはあまり教育されてこなかった。僕らはそれを知らないが故に、ある意味戦争というものに対して冷めた世代だからこそ冷静に見られる一方で、ただ「被害者」という意識だけではダメだなという意識が芽生えました。なので、この映画をきっかけに「戦争ってどんなことが起きていたんだろう」と少しでも興味を持っていただけたらいいなと思っています。
水上恒司
みずかみ こうし
どの瞬間を切り取っても圧倒的にかっこいい水上さん。力強く真っ直ぐなまなざしにはモニター越しでも一気に引き込まれ、横顔の美しさは自然と声が漏れてしまうほど。誠実さと落ち着きが滲み出るようなお写真となりました。インタビュー後編では、映画についてのお話に加え水上さんご自身のお話も伺っております! お楽しみに。
1999年5月12日生まれ。
最近の出演作に、映画『OUT』(‘23)、NHKスペシャル『アナウンサーたちの戦争』(‘23)、CX『真夏のシンデレラ』(‘23)、藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ『テレパ椎』(‘23)などがある。現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』に村山愛助役で出演中。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
12月8日(金)公開
■原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
(スターツ出版文庫)
■主演:福原遥、水上恒司
■出演:伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、
上川周作、小野塚勇人、出口夏希
坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子
/松坂慶子
■主題歌:福山雅治「想望」
(アミューズ/Polydor Records)
■監督:成田洋一
■脚本:山浦雅大 成田洋一
■製作:映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
■配給:松竹
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:Kohey(HAKU)
スタイリスト:川崎剛史
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/緒方百恵