水上恒司
たくさんの人たちの支えがあって
僕は今を生きている
2018年にドラマ『中学聖日記』でデビュー後、『MIU404』やNHK大河『青天を衝け』など次々と話題作に出演している水上恒司さん。最近では、月9ドラマやコント番組への初出演のほか、個展を開催するなど活躍の場を広げています。インタビュー後編では、そんな水上さんが出演している映画『あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。』の具体的なシーンをより深堀したお話のほか、自身が「幸せ」を感じる食べ物のことや最近読んだ本など、プライベートについてもお聞きしました。
映画『あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。』
<あらすじ>
親や学校、すべてにイライラした毎日を送る百合(福原遥)は、ある日母親とケンカをして家を飛び出す。目をさますとそこは1945年の、戦時中の日本だった。 偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、彼と過ごす日々の中、百合は彰の誠実さと優しさに惹かれていく。だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だったー。
映画では同世代の共演者の方もいましたが、
撮影現場で楽しかったエピソードを
教えてください。
一番楽しかったのは野球のシーンの練習です。スタッフの皆さんからも「水上はあそこが一番生き生きしていた」と言われます(笑)。あのシーンで彰はピッチャーをしていますが、本当はバッターとして打ちたかったんですよ。でも、大人数で野球をやるのは久しぶりだったし、(嶋﨑)斗亜くんたちが「僕もやります」って言ってくれたので「みんなでやろうぜ!」ってワーワーできたのが楽しかったですね。最年長の上川(周作)さんが誰よりも動いていました(笑)。
戦争を扱った作品ですが、
暗さや重さだけではなく
どこか明るさも感じたのは
チームワークのおかげもあったようですね。
そうですね。残酷な部分は作品自体が十分伝えていますし、キラキラしたところを見せれば見せるほど別れの悲しさが増すと思うんです。俳優部もそういうことを分かっていたので、「俺らは数日後には敵の艦隊に突っ込むけど、生きている間は楽しくやろうぜ」みたいな感覚は、言葉にせずとも共有できていたと思います。
みんなで野球をしたりご飯を食べたりといった
出撃までの楽しい時間を過ごしてみて、
どんなことを感じましたか?
作中で彰と百合がかき氷を食べるシーンがあるのですが、僕はあの瞬間にきっと彰は「俺行きたくないな」と思ったと思うんです。福原さん演じる百合が「美味しい」と言いながら嬉しそうにしている姿を見て「この子ともっと生きていきたいな」と思っただろうし、彰を演じる身としてそういう風に表現したかったところでもありました。
百合を見つめる彰の優しい眼差しの奥には、
そういう思いも込められていたのですね。
なかなか見えない彰の数少ない本心みたいなものが、あそこでポロっと出た瞬間だと思うんです。特攻隊として出撃することを分かっているから、楽しい思い出はなるべく作らないでいたいと思う人もいると思うんですよね。そういう人からすると、あそこはとても辛いシーンなんです。「まだ生きていきたいけど、自分は敵の艦隊に突っ込まないといけない」という特攻隊の思いを知っているからこそ、あそこのシーンの残酷さが分かる。残酷でもありますが、もしかしたら彰が一番嬉しかった瞬間かもしれないですね。
かき氷を食べた百合が
「幸せな味」と言っていましたが、
水上さんが「幸せな味」と感じる瞬間や
食べものはありますか?
みそ汁ですかね。「幸せの味」というか、やっぱり美味しいなと思いますし、海外に行けば行くほど、帰国してみそ汁を口にした時「あ~日本に帰ってきた」って感じます。みそやしょう油、納豆などの大豆を使った食べ物って、日本人のDNAや骨の髄まで浸透しているというか、この味は僕たちには切っても切り離せないんだろうなと思います。
Instagramのストーリーズで
自炊動画を度々アップされていますが、
作っている時は幸せを感じますか?
楽しいとも思いますし、当たり前にご飯を食べることができているのは本当にありがたいなと思います。それは今回彰を演じた経験を通して、より強く思うことです。何不自由なく食事ができるのも、お仕事をいただけることも、たくさんの人たちの支えがあって僕は今を生きているということを考えると、心から「いただきます」「ごちそうさまでした」と思えます。
前編で、歴史学者の方の本を読まれたと
仰っていましたが、
その他に最近おすすめがあれば教えてください。
『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(今井むつみ著)という本は面白かったですね。言語学者の方が世界中にたくさんいて、言語の中にも進化だったり、歴史だったり、色々な分野があるけど、最終的にたどり着くのは「オノマトペ」らしいんです。じゃあその「オマトペって何だろう」ということを本書で書いているのですが、僕がその本のことを知ったのはSNSなんです。ある母親の方が「これから子育てしていくのに、この本を読んでよかった」っていう投稿を見て、面白そうだなと興味を持ちました。僕はどちらかというと、オノマトペを使うのは反対派だったんですよ。でも、あえて使った方がいいんだなっていう考えに変わった一冊でした。
最後に、もし今の時代に彰と会えたら、
どんなことを聞いてみたいですか?
「なんでそんなに飄々としているんですか?」ですかね。とは言え、そういう風に役を作ったのは僕なんですけど(笑)。時代が故に自分の意見を言えなかったということもあったと思いますが、きっと彰はそういう部分を自身の美学にしていたと思うんです。自分のことはさておき、誰かのために自分の気持ちを向けていく奉仕精神のような部分がある人なので、きっと今の時代の人が見ると「どうして言いたいことを言わないんだろう?」と思うところもあるのですが、それが彰の良さだと思ってもらえたらうれしいなと思っています。
水上恒司
みずかみ こうし
とてもきれいな言葉でお話しされる水上さん。どの質問に対しても、言葉を選びながら丁寧に誠実に答えてくださっていた姿がとても印象的です。オノマトペのお話には周りで聞いていたスタッフ陣も興味津々でしたが、盛り上がり序盤で残念ながらタイムオーバーに。ぜひまた続きを聞かせてください! FAST初登場、ありがとうございました!
1999年5月12日生まれ。
最近の出演作に、映画『OUT』(‘23)、NHKスペシャル『アナウンサーたちの戦争』(‘23)、CX『真夏のシンデレラ』(‘23)、藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ『テレパ椎』(‘23)などがある。現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』に村山愛助役で出演中。
(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
全国公開中
■原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
(スターツ出版文庫)
■主演:福原遥、水上恒司
■出演:伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、
上川周作、小野塚勇人、出口夏希
坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子
/松坂慶子
■主題歌:福山雅治「想望」
(アミューズ/Polydor Records)
■監督:成田洋一
■脚本:山浦雅大 成田洋一
■製作:映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
■配給:松竹
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:Kohey(HAKU)
スタイリスト:川崎剛史
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/緒方百恵