磯村勇斗
映画『若き見知らぬ者たち』
今を一生懸命生きている人たちが『見知らぬ者たち』
近年では、高齢化社会の現代日本の歪みを突いた映画『PLAN 75』や多様性について深く考えさせられる『正欲』など、厳しい現実や社会問題も含めたさまざまなテーマの作品を次々と体当たりで演じている俳優の磯村勇斗さん。10月11日公開の映画『若き見知らぬ者たち』では、亡き父の借金を抱え、母の介護をしながら昼夜問わず働く風間彩人を演じています。そんな磯村さんに、演じた役への思いや作品を通じて伝えたいメッセージなどをお聞きしました。
©2024 The Young Strangers Film Partners
<あらすじ>
亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働く風間彩人(磯村勇斗)。父の背を追って始めた総合格闘技の選手となった弟の壮平(福山翔大)も、借金返済と介護を担いながら、練習に明け暮れる日々を送っている。そんな息の詰まるような日常のなかでも、恋人である日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいという思いが、彩人のかすかな希望だった。しかし、彩人の親友である大和の結婚を祝う幸せな宴会が開かれた夜、思いもよらない暴力によって、彼らのささやかな日常がもろくも奪われてしまう。
映画を拝見し、こんなに余白と余韻のある作品は久しぶりでした。磯村さんが脚本を読んだ時の
第一印象はいかがでしたか。
新しいなと思いました。僕が演じる主人公の彩人は中盤で必死に守ってきた大切な生活が突然奪われるようなある展開をみせるんです。そういう展開は思いついても、なかなかそれを形にする人はあまりいなかったので、それを内山(拓也)監督が今作でしっかりと作り上げていったところに面白さを感じました。
脚本には「……」やト書きも書いてあるんですけど、そこを役者に委ねられて演じることって割と多いんです。それは決して悪いことではないんですけど、内山監督はちゃんとその「……」がどういう心情なのかをしっかり書いてくださっているんです。だから、監督の意図とズレることなく流れをつかんで気持ちを作っていくことができました。
磯村さんが撮影に入る前と演じられた後で、脚本の感じ方や捉え方に何か変化はありましたか?
完成した映画を見ても、最初の段階で僕の中にあったものと大きな違いを感じたことはなかったですね。それくらい内山さんの脚本が正確で、どこに着地するかをしっかりと見据えたうえで描かれているなと感じました。もちろん、文字が映像になることでより鮮明に物事が見えたという部分はありますが、感覚としては大きな差はありませんでした。
母親の介護に父親の残した借金の返済と、一人ですべてを抱えようとする彩人でしたが、
どうやって気持ちを寄せていったのでしょうか。
彩人を演じるうえで「どれだけスムーズさを削るか」が重要な気がしていました。日々労働しながら母親の介護をして、弟のお金の工面もして、社会的にもどんどん追い詰められて心身がすり減ってしまっている状態なんです。だから、彩人は衣食住がちゃんとしてない、生活も含めて全部が欠陥している。そういった彼の精神と肉体をどう最初に作っておくかというところを大事にしていました。
あとは、現場での霧島さんのたたずまいや、福山さんの格闘家としての役作りを見て、それをどんどん受け取っていきながら役を作り上げていった感じです。
彩人が母親にかける言葉も言い方も、切ないほど優しかったのが印象的でした。
母親を演じた霧島さんが本当に深いところまで役を作ってらっしゃって。現場に来た時の目が違うんです。そのおかげで自分は何もしなくて済むくらい助けていただきました。
彩人と母親のシーンは映画では一部分しか描かれていませんが、時には母親に対して強い言葉を使ったり、怒鳴ったりしたこともあったかもしれない。そんな自分と葛藤しながらも、母親にはいつも優しく接しようと努めてきた彩人を表現しようと心がけていました。どんなにつらいことがあっても、日々生きることを諦めない姿を見せていきたいなという思いがありました。
精神的にもつらい役どころでしたが、
注目してほしいところはありますか?
彩人がどう生きているかを素直に見てもらえたら、それだけで嬉しいです。それが結果的に、後半でほかの人たちがどう彩人のことを見てきたかに繋がるので、彩人が何を見て、何を感じているかを同じ視点で体感していただけたらと思います。
タイトルになっている「若き見知らぬ者たち」の意味をどうとらえていますか?
人によっていくつもの捉え方があると思うので、僕から「こうだ」とは明言できないです。ただ、ひとつ言えることとしては、著名なわけでも、何か特別な才能があるわけでもないけれど、今を一生懸命生きている人たちを僕は「見知らぬ者たち」だと思っています。例えば、今やっていることが後々どこかで沢山の人に知られるかもしれないじゃないですか。今「見知らぬ者」として一生懸命生きている姿を、このタイトルは表現しているんじゃないかなと思います。
この作品を通して伝えたい
メッセージを教えてください。
彩人は母の介護やいろいろな圧力など、生活的にも精神的にもずっと苦しい中で、なんとか首の皮一枚で繋がって生きているような状態です。特に中盤以降で彩人にのしかかってくるシーンは、今の時代を象徴するようなメッセージにもなっていて。どうしても抗えない理不尽さや圧力というのは僕も強く感じていることなので、共感できる部分も多く、とても惹かれました。
そんな彩人の生き様に共鳴する人もいるかもしれません。だからといって生きる希望になるかというと、それはまたちょっと違うかもしれないですが、同じように息苦しさを感じながら生きている人たちが世の中にはきっとたくさんいて、決して一人ではないっていうところは、もしかしたら誰かにとって少しの救いになるのかもしれない。そうなってくれるように願っています。
磯村勇斗
いそむら はやと
1992年9月11日生まれ。
取材は夏の暑い中での取材でしたが、暑そうな表情を一切見せず爽やかな顔つきと少しキリッとした大人の顔つきで入ってこられた磯村さん。オレンジ色の硬めの皮のパンツがとても似合っていて、自然と着こなされている磯村さんはとても素敵でした。撮影では、場所を何度も変更をしたりポージングをお願いしましたが、撮影中も終始快く「わかりました!」とおっしゃってくださり、とてもカッコよく素敵な表情をカメラに向けてくださいました。後編では磯村さんのご出身である静岡の話やサウナのお話などをお伺いしております。ぜひお楽しみに!
最近の出演作に『月』(‘23)、『正欲』(‘23)、テレビドラマでは、TBS『不適切にもほどがある!』(‘24)、NHK Eテレ『東京の雪男』(‘23)、映画では、10月公開予定『八犬伝』(‘24)などがある。
©2024 The Young Strangers Film Partners
『若き見知らぬ者たち』
磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太
伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良
滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか
原案・脚本・監督:内山拓也
©2024 The Young Strangers Film Partners
10月11日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
※Item Credit
カーディガン ¥79,200
パンツ ¥134,200/共にセファ
(サカスピーアール TEL:03-6447-2762)
その他スタイリスト私物
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:佐藤友勝
スタイリスト:笠井時夢
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/有松駿