鈴鹿央士
舞台『リア王』
観てくださる方々に光を感じてもらえる役でありたい
日本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を今日的な視点で上演する「DISCOVER WORLD THEATREシリーズ」の第15弾となる『リア王』に、エドガー役で出演する鈴鹿央士さん。初舞台にしてシェイクスピア作品に挑む彼に、作品や役どころの印象や楽しみにしていること、初舞台にかける思いなどをお聞きしました。

<あらすじ>
ブリテンの王であるリア(大竹しのぶ)は、高齢のため退位するにあたり、国を3 人の娘に分割し与えることにした。長女・ゴネリル(宮沢りえ)と次女・リーガン(安藤玉恵)は巧みに甘言を弄し父王を喜ばせるが、末娘・コーディリア(生田絵梨花)は実直な物言いしかできず、立腹したリアに勘当され、それをかばったケント伯(横田栄司)も追放される。コーディリアは勘当された身でフランス王妃となり、ケントは風貌を変えて素性を隠し、リアに再び仕える。リアは先の約束通り、ゴネリルとリーガンを頼るが、裏切られて荒野をさまようことになり、次第に狂気にとりつかれていく。リアを助けるため、コーディリアはフランス軍とともにドーバーに上陸し、父との再会を果たす。だが、フランス軍はブリテン軍に敗れ、リアとコーディリアは捕虜となってしまう。ケントらの尽力でリアは助け出されるが、コーディリアは獄中で殺されており、娘の遺体を抱いて現れたリアは悲しみに絶叫し……。

公式コメントに「いつか舞台に挑戦してみたいと思っていた」とありましたが、どのような理由でそう思ったのでしょうか。
僕が所属している事務所は、勝地 涼さんや鈴木 杏さん、あとは加藤拓也さんという劇作家の方など、舞台に精通している方が多いこともあり、事務所の方が、よく観劇に連れていってくれたんです。いろいろな舞台作品を観ているうちに、いつか自分もやってみたいと思うようになったんですけど……いざ(舞台出演が)決まると、すごく緊張します。
その緊張は、何に対しての?
舞台って、毎日が本番じゃないですか。ドラマや映画にもそういう面はありますが、舞台は1度始まったら巻き戻せないので、そのスリルもあるし。お客さんが目の前にいるというその空気感も、どういう感じなんだろう?とか。あとは、台本を覚えられるかな?という不安もあります。ですが、すごく楽しみなことも多いです。ドラマや映画だと、1度撮影したら、撮り直しがない限りそのシーンをやることは2度とないけど舞台は、本番に向けて1冊の台本を何回も繰り返しやって、その作品を深掘りする作業を毎日できる。それは、舞台経験のある人から「すごくいいことだよ」と言われるので、今から楽しみです。
初舞台でシェイクスピアというだけでも大きな挑戦かと思いますが、キャストのお名前を聞いたときの率直な感想は?
スゴいチャレンジだなと思いました。でもきっと、僕にとっての初舞台をこのシェイクスピアで、このメンバーのなかに入って挑戦しても、なんとかやっていけるんじゃないかと思ってもらえたのかなと。だから、もうやるしかない!でも、初めての舞台というのは1回きりで。その“初めて”で、こんなに素晴らしい先輩方と同じ舞台に立てるなんて、ホントに幸せ者だと思うので。楽しんでやっていきたいという気持ちもあります。
ポジティブですね。
そうですね。僕、人との出会いの運は人一倍強いと思っているんです。それは決して、ナルシストだからとかじゃなくて、そう思っていると運が強くなっていくらしいんです……という考え方で生きていたら、ちょっとポジティブになれました(笑)。
「リア王」は、シェイクスピア四大悲劇と言われ、多くの人が大まかなストーリーを知っている物語です。台本をお読みになって、現時点ではどういう作品だと感じていますか?
たしかに、リア王やエドマンドとかも、いろいろな面で悲劇ですよね。権力を手に入れたときの人間の裏というか、闇みたいな部分が描かれている作品だとは思うんですけが、今、エドガーとして台本を読んでいると、そのなかでも前を向いて生きていく希望みたいなものを担っているんだと感じるんです。人間の本質や闇がすごく目立って見えるなかで、ふと希望が見えたりすると、“あっ、生きていこう”と思えたりするのがいいなと思います。昔の時代に書かれた作品ですが、描かれているのが人間の本質みたいなところなので、時代は違えどすごく共感できるし。シェイクスピア作品が、時代を超えて上演され続けている理由が、少しですがわかった気がします。だから、(台本を)読んでいてももっと理解したいと思うし。“このセリフや表現から枝分かれするものって、何なんだろう?”と考えるのが、今、楽しみの一つになっています。

現時点では、エドガーをどんな人物だととらえていますか?
最初は、周りの人たちにくらべると、危機感のたりない人なのかなと思いました。でも、台本を読んでいるうちに、家族への信頼や忠義心が強くて、それをずっと見失わずに進んでいる人なんだと思うようになって。エドガーは途中で、「哀れなトム」と名乗る物乞いに扮して登場するのですが、そうしながらも、自分の芯として持っている正義感は決して捨てない。そこが難しいな、というのが今の印象です。エドガーは「リア王」という作品のなかで、人の闇を見たりしながら成長していく役だと思うので、それを舞台上でどう表現するか。とても悩みますが、作品のなかで光を担う人だから。観てくださる方々に、沈むだけじゃなく光を感じてもらえる役でありたいと思います。
彼なりの正義を持って動いているという。
そうですね。お父さんに対しても、義弟に対しても、リア王に対しても。
ご自身と重なる部分はありますか?
いやぁ、僕はそんなカッコよく生きていないので(笑)。エドガーの生き方は、ホントにカッコいいと思うんです。今の時代って、信頼関係とか友人関係とか、些細なことで揺れ動いたりして苦しいじゃないですか。でも彼は、自分が信じるものを信じて、自分の正義を貫く。そういう人でありたいとは思うんですけど、なかなか難しいですね。
昨年、演出のフィリップ・ブリーンさんにイギリスでお会いする機会があったと伺いましたが、そのときの印象を教えてください。
ロンドンのカフェでお会いしたのですが、とてもやさしい方でした。僕が初舞台だということをご存じで。以前、フィリップさんが、同じように舞台が初めての俳優さんと日本で一緒にお仕事をしたことがあって。次にその方が舞台に出演したときに観にいったら、すごく背中が大きくなって見えたというお話をしてくださったんです。だから、「そんなに怖がらなくていいよ」と言ってくださいました。そのおかげで、1度でも舞台を経験すると変わるものがあるのかなと前向きになれました。ただ、会って5分で「ボイトレに行ってね」とも言われました(苦笑)。
現在、ボイトレは行っているのですか?
はい。ご自身も歌手や舞台俳優をやられている先生に付いて、ボイトレをしていただいています。最初に「とりあえず歌ってみましょう」と歌ったときに、「歌い方を知らない、音階や音程を知らない喉だ」と言われました。

そういう表現があるのですね。
たとえば、本来の「ド」と違う音が出ているらしくて。でも、ちゃんと歌を聴きながら歌うと、正しい音を出せているみたいなんです。僕は河島英五さんの「時代おくれ」という曲が好きなのですが、先生が課題曲にしてくださりました。最近は、「時代おくれ」を正確に歌えるようになるのを目標に練習しています。河島英五さんの力強い声の出し方も、喉の筋肉を動かす練習になるみたいで。逆に、高いキーを出す練習には、郷ひろみさんの楽曲を歌ったりしています。あと、日本語の言葉遊びのような表現に慣れるというか、読み解く力をつけるために、「詩を毎月読んでください」とも言われました。
今回の舞台出演で、特に楽しみにしていることは?
成田(凌)さんは、メンズノンノの先輩で。僕が「メンズノンノモデルオーディション」でグランプリをいただいたときに、成田さんからトロフィーを受け取ったんです。そんな出会いから始まって、今回、兄弟役で……まぁ、僕が兄!?という驚きはありましたけど(笑)、がっつりご一緒できて、しかも劇中には戦うシーンもあるので楽しみです。
役者の先輩や仲間から、舞台についてのアドバイスなどはいただきましたか?
上京してから2年間、同じ事務所の岐洲 匠と京典和玖と3人で住んでいたことがあるんです。僕以外の2人はよく舞台に出演しているので、今回、僕が初舞台を踏むことになって「いよいよきたか」と言われました。アドバイスとしては、何か言われたかな?……あっ、「最初は、セリフが入らないと思うじゃん?でも、稽古で同じシーンを一日に何回もやるから、次の日、朝起きたら(セリフが)入っているんだよ」と言われて。今はまだ、“本当か~?”という気持ちですけど(笑)。
不安もある?
役者の方が、「稽古に入るときには、全部のセリフが入っていました」とかおっしゃるのを、よく聞くじゃないですか。でも今、自分も台本を読みながらセリフを覚えているんですけど、まったく入ってこないんです。覚えられないセリフはノートに書いて、声に出しながら覚えようとしても、やっぱり難しくて。それに、今は自分の解釈だけで読み解いているけど、稽古が始まったら読み方が変わるかもしれないし。舞台が初めてすぎて、何を準備したらいいかもわからなくて不安もあるので。舞台経験豊富な2人に大丈夫だと言ってもらえて、少し気持ちがラクになりました。
(取材時点で)お稽古が始まるにあたり、現在の心境を教えてください。
1つの部屋で、みんなで時間をかけて考えたりという作業は、ドラマや映画ではあまり経験できないことなので。お芝居が好きな方が集まって、お芝居について詰めていく空気感は楽しいんだろうなと思うし。僕にとって、舞台はホントに新しい世界なので、目に入るもの全部が楽しく見えるんじゃないかなって。実際に、僕が初めてお芝居をした現場はそうだったんです。だから、今回もそうだったらいいなって……あっ、あと!匠くんと和玖くんに「舞台期間は生活リズムが規則正しくなるよ」と言われたんです。“この日は、この時間で終わります」というのが決まっているから、健康になるって。だから、それも楽しみです。健康になります(笑)。

あらためて、『リア王』の公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
ロンドンでフィリップさんにお会いしたとき、「新しい『リア王』を作りたい」とおっしゃっていたんです。だから、舞台好きな方には“あの「リア王」がこうなったのか!”と感じていただけるはずですし。舞台を観るのが初めてという方にも……今回、僕も初舞台で初シェイクスピアですが、台本を読みながら“こんなにも伝わってくるメッセージがあるんだ!”と、言葉の力強さやパワーを感じたので、きっと楽しんでもらえるのではないかと。難しく感じるところがあったとしても、“この表現はどういうことなんだろう?”と考えながら観るのも楽しみの1つだと思います。キャストも錚々たる顔ぶれですし、ぜひ観にきてください。

鈴鹿央士
すずか おうじ
2000年1月11日生まれ。メンズノンノ専属モデル。
お忙しい中で取材の時間をいただきましたが、鈴鹿さんらしいインタビューと撮影のお時間となりました。大勢の前でかしこまったように話される姿や撮影ではついついはっちゃけてしまう姿などを拝見し、たくさんの経験をされていても変わらないピュアさが素敵でした。これからもたくさんの挑戦や経験を積まれても、変わらないピュアさや核となる部分を大切にされている鈴鹿さんのご活躍を応援しております。ご登場ありがとうございました。
最近の出演作に、テレビドラマでは、フジテレビ『嘘解きレトリック』(‘24)、テレビ東京『闇バイト家族』(‘24)、テレビ朝日『ゆりあ先生の赤い糸』(‘23)、映画では、『花まんま』(‘25)、『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(‘24)などがある。

Bunkamura Production 2025
DISCOVER WORLD THEATRE vol.15
『リア王』
NINAGAWA MEMORIAL
作:ウィリアム・シェイクスピア
上演台本・演出:フィリップ・ブリーン
出演:大竹しのぶ、宮沢りえ、成田 凌、生田絵梨花、鈴鹿央士、
西尾まり、大場泰正、松田慎也、和田琢磨、井上 尚、吉田久美、比嘉崇貴、青山達三、
横田栄司、安藤玉恵、勝村政信、山崎 一
【東京公演】 2025年10月9日(木)~11月3日(月・祝) THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【大阪公演】 2025年11月8日(土)~16日(日) SkyシアターMBS
※Item Credit
■ジャケット
プライス:参考価格
ブランド名:NEZU YO-HINTEN
お客様お問い合わせ先名:NEZU YO-HINTEN
お客様お問い合わせ連絡先:@nezu.yohinten〈IG〉
■中に着たシャツ
プライス:参考価格
ブランド名:NEZU YO-HINTEN
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■パンツ
プライス:参考価格
ブランド名:NEZU YO-HINTEN
お客様お問い合わせ先名:NEZU YO-HINTEN
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■靴はスタイリスト私物
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:阿部孝介(traffic)
スタイリスト:朝倉豊
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿
