兵頭功海
映画『18歳のおとなたち』
強要はしたくない。少しでも親のことを考えるきっかけになれば
近年では、ドラマ『下剋上球児』のほか、CMなどでも活躍している俳優の兵頭功海さんが「FAST」に初登場! 3月1日公開の映画「18歳のおとなたち」では、少年院を出所し、成人式の実行委員を引き受ける18歳の役を演じています。役についての思いや、作品を通して伝えたいことなどをお聞きしました。
©︎ゴールデンシネマ
<あらすじ>
少年院を出所した18歳の不良・成田誠(以下、マコト・兵頭功海)は、女手一つで育ててくれた母親とけんかをして以来、家に帰らずにいた。そんな彼のもとを教育委員会の職員・山田菜摘(久田莉子)が訪れ、「成人式の実行委員になってほしい」と依頼する。一度は断るマコトだったが、幼いころの夢を思い出し、映画を作ることを条件に役目を引き受ける。引きこもりのカケル(黒田昊夢)やインフルエンサーのスイ(三原羽衣)ら同級生も加わり、マコトは素人ばかりの映画製作に挑むのだが、主演が行方不明に…。
本作の出演が決まったときの気持ちを教えてください。
今回はオーディションだったのですが、台本と作品の概要が書いてあった資料を読んで、マネージャーさんたちと「これは兵頭にピッタリだね」、「絶対にやりたいし、やります!」と前のめりに話していたんです。なので、オーディションも自分らしくできたし、その結果、無事この役を演じることができて嬉しかったです。
台本を読んだ感想は?
マコトは思ったことをまっすぐに伝える人だったので、一歩間違ってしまうと見ている人がマコトのことを「ウザい」とか「なんか鬱陶しいな」と、恨まれる人になってしまいそうだなと思ったんです。なので、マコトのまっすぐな言葉のどこか裏に、彼の持つ愛情や愛嬌、優しさが垣間見えたり、「なんかかわいいな」と思えたりするポイントを作ることは心がけていようと思いました。
マコトは頭に血が上りやすいところもあるけど、友達のため、誰かのために一生懸命になれる思いやりや優しさがある人でした。ご自身と共通点はありますか?
僕もマコトと同じで、まわりの空気を読んで自分の意見を飲みこんだりはしないタイプですね。「これは間違っているな」と思ったら、自分の意見を譲らないところは似ているかなと思います。
この年になってケンカをすることはないけど、意見をぶつけ合うことは割と多いです。仕事のことでマネージャーさんと言い合うことや、若い頃は母とぶつかり合ったり、幼馴染ともよくケンカをしたりしていました。
マコトを演じてみて、どんなところに面白さを感じましたか。
マコトの行動によって、次々と周りの人が巻き込まれていく過程は演じていても楽しかったです。映画として客観的に見ても、あれだけ周りを巻き込める人っておもしろいし楽しそうだなと思いました。 最初はみんな全然違う顔をしていたのに、マコトと関わることで周りの人の顔がコロコロ変わって、マコトに対してもどんどん優しくなっていくんです。人と人との距離が近くなっていく過程がすごい良いなと思いながら演じていました。
他の登場人物たちもそれぞれが抱えているものがありましたが、マコトが抱えている「少し暗いもの」を演じる時、どんなことを意識されましたか?
僕はマコトにとって暗いことは何もなかったのかなと思っているんです。これは僕の解釈ですが、人を殴ることも少年院に入ったことも世の中からしたら良くないし、悲観的なことかもしれないけど、自分の正義を守ろうとして人を殴ったことがただ悲しいことだったのかというとそうでもない気がしていて。なので、母親への反抗も「悲しい」というよりは、どちらかというと「怒り」の方が強かったと感じました。
思春期の頃って、そのぶつけることのできない、行き場のない怒りの矛先をなぜか親に向けがちじゃないですか。作中でマコトが、自分のために大変な思いをして働き詰めになっている母親に向かって「なんで俺なんか産んだんだよ」と言うセリフがあるのですが、それも裏を返せば「そんなに大変な思いばかりしないで、もっと自分を大切に生きていいんだよ」という優しさでもあるんじゃないかなと思いました。
映画の後半で、親と子供の関係性について涙を流しながらスイに伝えるシーンは胸が熱くなりました。スイやマコトのように、親子関係で悩む人に何かアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。
僕は「自分の親なんだから優しくしてあげて」とか「親なんだから感謝しろ」とは思っていないんです。例えば、ご飯も作ってくれずにほったらかしにするような親の元で育った人にしか分からない苦痛があるから、その人に対して「親に感謝しよう」なんて口が裂けても言えないです。なので、この映画を見て「親に感謝してほしい」なんて、正直思っていません。
ただ、なんとなく親との距離感がある人や、少し関係がこじれている人に「なんだかんだ言って、今の自分がいるのは親に色々やってもらったからなんだな」と心の中で思ってもらうだけでもいいし「大人ってなんだろう」と考えるきっかけになったらいいなと思います。
試写を見た高校生たちのコメントにも「親について考えるきっかけができた」という声がありましたが、そういう気持ちになっただけで充分なんですよね。
多分、見る人によって解釈が変わる映画だし、ひとりひとり親のあり方が違うので、それでも親に感謝できない人がいても、それはそれでその人たちのあり方なので、決して強要はしたくないんです。ただ、もしこの映画を見て親に感謝する気持ちを持った人が1人でも増えるのであれば、ちょっとだけ幸せなお手伝いができたのかなと思います。
「18歳は大人?子ども?」という映画のテーマにちなみ「これができたら大人」と思うことや、兵頭さんが思う「大人の定義」を教えてください。
僕もずっと分からなかったんですけど、今回の映画の取材をしていただいている中で気づいたことは、大人になると段々小さくなっていく気がしたんです。これは僕のイメージですが、大人になると周りの空気を読んで我慢することも増えるし、どんどん窮屈になって、自分の幅が縮まっていく感覚があって。
子どものころってよく寝るし、門限を破って怒られてもまた遅くまで遊んで泥だらけになって帰ってくるみたいに、自分のしたいようにしていたじゃないですか。そういう自由さがあった分、子どもの方が大きく見えるんですよね。僕は年を重ねても、そういう子ども心はいつまでも忘れずにいたいし、「もういい歳なんだから」とやりたいことや夢を諦めずに「年齢なんて関係なくない?」という気持ちを、マコトに気づかせてもらった気がします。
最後に、公開を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
「18歳のおとなたち」は、見る人の年代や家族の環境などによって見方や価値観の違う映画だと思っています。先ほども言ったように、自分と親との関係や「大人ってなんだろう」と考えるきっかけになったり「年齢を気にせず、やりたいことをやるべきだ!」と思ったりする瞬間がこの作品の中にあるかもしれません。何かひとつでもみなさんが気づき、考えるきっかけになったらいいなと思うので、自分なりの答えを見つけて帰ってほしいと思います。
兵頭功海
ひょうどう かつみ
1998年4月15日生まれ。
お会いしてすぐ、「FASTさんに出たかったんです!」と第一声に言ってくださる素直な兵頭さんにスタッフはとても嬉しく感じたスタートとなりました。撮影ではオンオフを上手に切り替えられている姿はとても印象的で、スイッチが入った時の兵頭さんの表情はとても豊かで素敵でした!写真では、横になったりと色々なポージングをご本人でされていてカメラマンもスタッフもすごいと発してしまうほどでした。撮影合間も周りと気さくに話してくださったので、自然ととても明るい雰囲気の撮影となりました。
最近の出演作に、テレビドラマでは、日本テレビ系『となりのナースエイド』(‘24)、TBS系『下剋上球児』(‘23)、読売テレビ・日本テレビ系『COOD-願いの代償-』(‘23)、WOWOW『ドロップ』(‘23)、WOWOW『ドラフトキング』(‘23)、映画では、『消せない記憶』(‘23)などがある。
©︎ゴールデンシネマ
「18歳のおとなたち」作品概要
兵頭功海 三原羽衣 黒田昊夢 久田莉子
黒田アーサー 金子みひろ 阿部亮平 デビット伊東
奥野太陽 東瑞輝 上野山夢輝(子役) 長谷川晏(子役)
中島知子 雛形あきこ
監督・編集:佐藤周
脚本:磐木大
製作:千田幸博
プロデューサー:木谷真規
2024年3月1日(金)よりTOHOシネマズ 新宿ほか全国公開中
撮影:安岡洋史 照明:目黒裕太郎 録音:黒沢秋 美術:東京美工
装飾:今泉直人 スタイリスト:石橋万里 ヘアメイク:董冰 助監督:土山晃憲
協力プロデューサー:ワダシンスケ キャスティング:吉澤豪起 唐松公次
AP:髙橋亜美 制作担当:渡辺亮太 制作進行:岡田義生 デザイン:泉智尋
美術協力:片山くるみ 音響効果:伊藤誠 劇伴:吉村彰一
ポストプロダクションプロデューサー:稲村剛義
宣伝プロモーション:橋加那子 西村雄大 渡邊彩那
宣伝協力:髙木真寿美 配給協力:山口和浩 金野祥子
音楽:四月の魚
主題歌「ぎんいろをふりまきながら」(作詞:福留瞬 作曲:吉村彰一 歌:サブリナ)
企画制作:エクセリング
宣伝配給:レイワジャパン
配給協力:Santa Barbara Pictures
©ゴールデンシネマ
2023/日本/88分/カラー/ビスタサイズ/2KDCP/ステレオ
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:木内真奈美
スタイリスト:Shinya Tokita
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/有松駿