鈴木伸之
映画『サラリーマン金太郎』
“自分も一歩踏み出してみよう”と思える作品
原作者、本宮ひろ志により、連載開始から30年、シリーズ累計発行部数3,000万部を誇り、これまでにもドラマ化、映画化がされてきた『サラリーマン金太郎』シリーズ。今回、令和版となる映画『サラリーマン金太郎』【暁】編【魁】編で三代目・矢島金太郎を演じる鈴木伸之さんに、出演が決まったときの気持ちや撮影エピソードのほか、金太郎の魅力などもお聞きしました。
©本宮ひろ志/集英社©2025映画
『サラリーマン金太郎』
<あらすじ>
【暁】編
青森県大間町でマグロ漁師をしていた矢島金太郎(鈴木)は、海で遭難していた老人、大和守之助(榎木孝明)を助けたことから、大和が会長を務めるヤマト建設に入社。持ち前の誠実さと行動力で大和会長や黒川専務(尾美としのり)の信頼を得ていく。しかし、ヤマト建設は、天下りしてきた元官僚の大島社長(橋本じゅん)に牛耳られようとしていた。金太郎は、大島社長の子飼いである事業部長・鷹司(城田 優)の計略にはまり、大和会長らを窮地に追い込んでしまう。金太郎らは形勢逆転のため、大島社長の不正の証拠をつかもうと奔走する。
【魁】編
金太郎は地熱発電所建設のプロジェクトを任され、九州の温泉町に赴任。工事現場を取り仕切る土木会社の一ツ橋社長は、下請け料とは別に2億円を要求し、支払われるまで工事のボイコットを宣言する。怒り心頭の金太郎は一ツ橋社長にケンカを挑むが、返り討ちにあい大ケガをしてしまう。療養中に、温泉旅館を手伝うようになった金太郎。発電所建設に反対する町民の思いや、さまざまな事情に気づいていくが、強大な黒幕の存在が浮かび上がり……。
本作への出演が決まったときの気持ちを教えてください。
『サラリーマン金太郎』という作品は、僕より上の世代の方々にとっては、知らない人はいないんじゃないかというぐらい大きな作品ですし、とてもアツい内容なので、撮影も大変なんだろうなと想像しました。でも金太郎は、今の閉鎖的な日本社会においても自分の気持ちにまっすぐで、言いたいことを言える人物なので、演じるのが楽しみでもあり、10代、20代のなかには『サラリーマン金太郎』を知らない方もいらっしゃるかもしれないので、令和の新しい金太郎を見ていただきたいという思いもありました。
実際に、撮影は大変でしたか?
今までにないくらい、(役として)毎日ワーワー叫んでいたので(笑)、喉が枯れてしまったり、アクションも多くて大変でしたけど、次から次へと撮影が進んだので、あっという間に終わってしまった感じがします。
原作をお読みになって、本作の魅力はどこだと感じましたか?
自分が言いたいことを言うのも難しい時代に、金太郎がいろんなことを代弁してくれる。そういった、老若男女誰もがスッキリする爽快感があるところかなと思います。金太郎の、物怖じせずにまっすぐ物を言えるところはうらやましいです。僕はわりと流してしまうタイプなので、真正面から突っ込んでいける金太郎はスゴいなと思います。裏表もなければ、相手によって態度を変えることもない。どんな相手であっても一人の人間として向き合って、話をしているんだなと、台本を読んでいても感じました。きっと金太郎のそういうところに、周りの人たちも心を動かされるのだと思います。
本作は、再生可能エネルギーや地熱発電など、現代日本の問題点が描かれていたりと、攻めた内容になっていますよね。
主人公が大きな力に立ち向かっていくという下剋上のお話なので、そのバックボーンとなるストーリーを大きく描かないといけない部分もあったのかなと。でも、そんな大きな物事や大企業でさえ、金太郎の利益を考えないまっすぐさに動かされてしまうんですよね。金太郎を見ていると、どんなに大きな問題であっても、人と人とがちゃんと話をすることで解決できるんじゃないかなと思えました。
撮影に向けて準備したことは?
フィジカル面では、筋トレやアクション練習をしました。今回の“金太郎”は令和版みたいな形にはなっていますが、どの時代でも、抱いている想いや考えは一緒なのかなと思うので、特に現代社会に寄せることはせず、原作の金太郎を演じることを意識して臨みました。この作品はどこまでもエンターテインメントで、現実的ではないところに需要がある気がするので、むしろ「こんなサラリーマン、いねぇよ!」と言われるくらい破天荒でもいいのかなと。
本作での金太郎は、どんなことを大事にして演じましたか?
過去の実写版を拝見したのですが、金太郎はキャラクターが濃くて、どの時代でもブレないんです。なので、僕が普段、表に出さないような感情も全面的に出しながら、コミュニケーションや心の通じ合いという部分を大切にして演じました。この作品が、実写されたなかで一番愛される金太郎になったらうれしいな、という思いもあります。
たとえば、普段、表に出さない感情というと?
昨今は、自分の気持ちに対して共感性を求めるのが難しい時代になっている気がします。逆にいうと、一人ひとりが自尊心を大切にする世の中になってきているのかなと。でも金太郎は、他人の曲がったこともどんどん指摘していくキャラクターなので、そういう部分は演じていて気持ちがよかったです。ただ、“ワー!”と叫ぶシーンが多かったので、声がガスガスになってしまって(笑)。毎日、プロポリスのど飴を舐めながらがんばりました。あれは効きますね!
今、鈴木さんがおっしゃったように、金太郎は人とぶつかり合うことも厭わず、まっすぐに気持ちを伝えるところが魅力の一つですよね。
そうですね、計算がないところがすごく好きです。目の前のことに一生懸命ですし、相手によって態度を変えることなく腹を割って話しますし、その後のことを恐れずに、真正面からぶつかっていく。それは1本芯が通っているからできることだと思いますし、 “この人についていきたい”と思わせる所以なのかなと思います。
金太郎は人の懐にスッと入り込んでしまうキャラクターでもありますが、鈴木さんがコミュニケーションを図る際に心がけていることはありますか?
僕は人見知りで、あまり自分からグイグイいくことはなく。どちらかというと、ほかの人のやりたいことやその人の目的の邪魔にならないようにいるにはどうしたらいいかな? と考えるタイプなんです。それが協調性につながったらいいなと思ったりするのですが、歳を重ねるにつれて、もっと人の懐に入れる人間になりたいという思いも強くなってきたので、最近は、勇気を振り絞って自分から声をかけてみようかなと思っているところです。
本作では座長を務めましたが、共演者の方に積極的に声をかけたりなどは?
今回の現場は、榎木孝明さんや浅野温子さんといった大御所の方々もたくさんいらっしゃって、みなさんのほうから歩み寄ってきてくださったので。撮影を円滑に進められましたし、すごく助けてもらいました。
特に撮影が大変だったシーンを教えてください。
(【暁】編の)冒頭の海のシーンは大変でした。船首から飛び降りて、ずーっと泳ぎ続けなければいけないのですが、50メートルぐらい泳いでもカットがかからなくて。きっと、ドローンでの撮影もあるし、広い画でも撮っているんだろうなと思っていたのですが、100メートルぐらい泳いでもまだカットがかからなくて。さすがに体力の限界を感じて手を挙げたら、船がバーっと助けにきてくれたんですけど。理由を聞いたら、単にカットをかけられるスタッフさんが、僕の船の周りにいなかっただけという(笑)。
そのシーンは一発OKで?
いや、2回撮影しました。というのも、海面から船までの高さがけっこうあったんです。僕、高所恐怖症で。1回目に撮った映像を確認したら、飛び降りるときに(恐怖で)カラダがくの字になっちゃってたんです。そこは冒頭のシーンでもあるし、カッコよくキメなきゃいけないと思って(笑)。唯一、「もう1回やらせてもらっていいですか?」とお願いしたシーンです。
©本宮ひろ志/集英社©2025映画
『サラリーマン金太郎』
【暁】編の大きな盃でお酒を飲む場面も印象的でしたが、あのシーンも一発OKだったのですか!?
いや~、あれは2発はムリですね(笑)。あの盃、デカすぎて、500ミリリットルぐらい入れても全然溜まらないんですよ!結局、1、2リットルぐらい入れたのかな。「とりあえず、一気飲みしてほしい」というオーダーだったので、3、4分かけて長回しで撮影しました。溺れるかと思いました(笑)。
アクションで印象的だったシーンは?
(【暁】編に)品川駅前でカップルともめるシーンがあるんですけど。朝7時ぐらいだったのかな?(演技で)「おらぁ!」って殴り合っていたら、通勤ラッシュのサラリーマンが、“何をしているんだろう”みたいな顔で通り過ぎていくんです。でも、俺(金太郎)もサラリーマンなんだよな?って(笑)。そんな違和感を覚えつつ、がんばってデカい声を出し続けました(笑)。
共演者のなかで、特に印象的だった方は?
浅野さんです。今回がはじめましてだったのですが、お芝居も魅力的ですし、ものすごくやさしいです。今、「誰のことを一番尊敬していますか?」と聞かれたら「浅野温子さん」と答えるぐらい、衝撃を受けました。
役者としては、どんなところに魅力を感じたのでしょうか?
力強さですね。いっさい迷いがないんです。ホントに加代さん(浅野の役名)にしか見えないし、豪快さもありますし。浅野さんは、スゴい長ゼリフがあったんです。しかも、地熱がどうとか難しい説明ゼリフもいっぱい入っているのに、間違えたところを見たことがないし。ホントに恐ろしいくらいスゴい方でした。また違う作品や役で、ぜひご一緒したいです。
思い出に残っている浅野さんとのエピソードを教えてください。
撮影期間中に、浅野さんが誕生日の日があって。お酒が好きと聞いていたので、日本酒をプレゼントしたんです。実は、一番好きなのは焼酎だったみたいなんですけど(笑)、すごく喜んでくれて。ホントにやさしいなと思いました。
城田優さんとの共演は、ひさしぶりですよね。
ドラマ『GTO』でご一緒して以来ですね。当時、僕は19歳だったので、10年ぶりくらいにお会いしたのですが、またご一緒できてとてもうれしかったです。今回、“えっ、城田さんがそういう役回りなんだ!?”みたいな役なのですが、現場では常に明るく盛り上げてくれて。一緒のシーンはあまりなかったのですが、空き時間には一緒にお菓子を食べたりしたのが思い出に残っています。
本作の公開を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
令和の時代に不足しがちな部分がたくさん詰まった、爽快感のあるアツい作品です。観た後はとてもスッキリしますし、“自分も一歩踏み出してみよう”“明日からがんばろう!”という気持ちになれる作品だと思うので。ぜひ、大きなスクリーンで観てほしいです!
鈴木伸之
すずき のぶゆき
1992年10月14日生まれ。
お芝居ではとても漢らしいイメージのある鈴木さんですが、お話ししてくださる時はとても物腰低く、丁寧にお話しされるのが印象的で、インタビューでもこちらの話に相槌を打ちながら尋ねて答えるというよりも、会話をしているように自然に答えてくださる素敵なお人柄でした。真面目なお話では爽やかに、楽しいお話ではとてもにこやかに、インタビューでは終始表情が豊かでした。後編では過去のデビュー当時と変わったことや変わらず続けていること、また以前FASTで答えてくれた質問に改めて答えてくれています!お楽しみに!
最近の出演作に、テレビドラマでは、フジテレビ『バントマン』(‘24)、フジテレビ『忍者に結婚は難しい』(‘23)、映画では、『劇場版 ラジエーションハウス』(‘22)、『東京リベンジャーズ』(‘21)などがある。
©本宮ひろ志/集英社©2025映画
『サラリーマン金太郎』
キャスト:【暁】編
鈴木伸之
城田優 石田ニコル 文音 影山優佳
竹島由夏 米倉れいあ 山口大地 斎藤さらら 前田瑞貴 川合智己 佳久創
橋本じゅん 尾美としのり 浅野温子
榎木孝明
【魁】編
鈴木伸之
城田優 石田ニコル 文音 影山優佳
竹島由夏 米倉れいあ 山口大地 斎藤さらら 前田瑞貴 川合智己 佳久創
草川拓弥 水谷果穂 勝矢 斉藤陽一郎 八⽊将康 市川知宏
中⽥喜⼦ 本田博太郎 尾美としのり 浅野温子
榎木孝明
原作:「サラリーマン金太郎」/本宮ひろ志(集英社刊)
監督:下山 天 脚本:田中眞一
企画・製作:TIME 制作:楽映舎
主題歌:【暁】編:BALLISTIK BOYZ「Get Wild」 【魁】編:GENERATIONS 「Cozy」
配給:ライツキューブ ティ・ジョイ ©本宮ひろ志/集英社©2025映画『サラリーマン金太郎』製作委員会
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:下川真矢(BERYL)
スタイリスト:中瀬 拓外
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿