鈴鹿央士
『かそけきサンカヨウ』
はじめて台本を読むときに頭の中で再生される
“言葉の感覚”を大切にしている
映画『かそけきサンカヨウ』では静かに人の個性や人間関係が描かれる。その中で主人公と同じ悩みを持ち、淡い恋の相手を演じる鈴鹿央士さん。デビュー作の『蜜蜂と遠雷』から順調にキャリアを積み上げている鈴鹿さんは、この独特な雰囲気を持つ作品で、役者として何を手に入れたのか。鈴鹿さんが作品に挑む時に大切にしてること、そして作品への想いを語っていただきました。
『かそけきサンカヨウ』
<あらすじ>
女子高生の国木田陽は幼いころに母の佐千代が家を出て以来、父の直と二人で暮らしていた。しかし父の再婚によって平穏な日常は一変し、新しい母・美子とその連れ子で4歳のひなたとの新たな暮らしが始まる。そんな家庭環境への戸惑いを、陽は自分と同じく家族に悩む同級生の清原陸に明かす。一方で実の母への思いを抑えられなくなった陽は、陸と共に画家である佐千代の個展を訪ねることにする。
『かそけきサンカヨウ』の原作は
読まれましたか?
実は、読んでないんですよ。撮影前に今泉監督と話した時、「鈴鹿くんは読んでも読まなくてもいいかな」とおっしゃられて。今泉監督は原作を凄く大切にされていますが、僕が変に原作に引っ張られすぎるのも良くないと頭の中で計算していたのかなと思います。悩んだ末にちょっとした賭けでしたが、読まずに撮影して、撮影が終わった後に読みました。
では、演じられた清原陸のイメージは
どうやって創り上げたんですか?
『かそけきサンカヨウ』は『水やりはいつも深夜だけど』という短編集の中の一つの作品で、陸が登場するところ以外を読みました。『水やりはいつも深夜だけど』を読んでから脚本を読んで、本読みの段階で監督と話し合って、“映画の陸”を創り上げていきました。
鈴鹿さんから見た陸は
どんなキャラクターでしょうか?
この作品に出てくる人たちはみんな優しいんですけど、陸はその中でも特に優しいと思っています。自分が大変な時でも人に当たることもしないし、陽への思いもちゃんと自分の言葉で伝えますし、問題を解決するために母との話し合いの場を自分から設けたり。僕は普段、気持ちを言語化することがうまくできないので、陸の誰とでもしっかりと話せる部分はいいなと思いながら演じていました。
鈴鹿さんと陸はどこか似ていませんか?
雰囲気は似ていると言われますが、陸ほど優しくはなれないです (笑)。陸は相手のことも自分のこともしっかりと考えられる、優しさのトップ・オブ・ザ・トップ。僕は誰かがうまくいって、そのとき自分が問題を抱えている状況だと素直に祝福できないと思うんです。でも陸も複雑な心境になっている場面があったので、振り返ってみるとやっぱり似ているのかも(笑)。
鈴鹿さんが役を練り上げるときに
大切にしていることはなんですか?
はじめて台本を読むときに頭の中で再生される“言葉の感覚”を大切にしています。俳優として最初に出演した『蜜蜂と遠雷』の時は、台詞を自分の言葉にするために何度も練習していましたが、監督に「繰り返す工程も大切だけど、言葉の新鮮さも大切にして欲しい」とアドバイスをいただきました。映画やドラマだとテスト撮影やリハーサルで何度も台詞を言うので、本番の時には初めての言葉ではなくなるじゃないですか。でも、作品の中では初めての言葉になるので、そのバランスを取るために新鮮さが一番保たれている瞬間、つまりは台本を初めて読むときの感覚は大切にしています。
最初に台本を読んだ時、
誰の声で再生されるんですか?
自分の声ですね。自分が普段言わないような言葉を役で言うときは、どっちに寄せようか悩みます。自分を出すのか、消すのか。人によって違うと思いますが、自分を消して100%役になる人と、役を自分に近づけていく人。僕はちょうどその中間になりたいです。今は役と自分を行き来しながら、顔や体型、声のトーンなどで“自分がこの役を演じる意味”が欲しいなと思っています。
作中で「幼い頃の一番最初の記憶は何?」とありますが、
鈴鹿さんは何か覚えていますか?
ちょっと不思議な記憶があります。昔、家族で住んでいた部屋を上から見下ろしている光景です。そこには赤ちゃんの自分がベッドに寝ていて、ベッドの近くには兄が立っていました。その家は僕が1歳のころに引っ越しているので、正確な記憶ではないのですが、なんとなく僕の家だという感覚があります。自分を俯瞰から見ている記憶って不思議ですよね。赤ちゃんの頃に幽体離脱したのかな(笑)。
確かに不思議な記憶ですね。
最後に作品を楽しみにされている方への
メッセージをお願いします。
先日、今泉監督のラジオで原作者さんが「違和感なく見れました」とおっしゃってくれて、それが一番嬉しい言葉でした。0から作品を創った方が違和感を感じなかったというのは、原作のファンの方にも自信を持って届けられると思います。
『かそけきサンカヨウ』は主人公・陽の国木田家、陸の清原家のふたつの家のお話でもあるし、同時に陽と陸の恋愛の話でもあり、色んな見方ができる作品です。映画の結末は言えませんが、陸と陽の恋愛の結末は個人的にはすごく良いものだと思っています。好きな人同士の関係、家族の形は本当にいろいろあって、見てもらう人によってそれぞれ違った感想があると思います。作品を見て自分はこう思ったという感情を大事にしつつ、“みんな正しい”“みんな違って、みんないい”と思ってもらえたら嬉しいです。
鈴鹿央士
すずか おうじ
2000年1月11日生まれ。
インタビュー時にペン型の録音機に興味津々だった鈴鹿さん。いきなり無邪気な表情で場を和ませてくれました! インタビュー中も常に柔らかい雰囲気で、ひとつ一つの質問に身振り手振りを加え、丁寧に答えてくれて好印象。撮影では非常にリラックスして、時々ふざけたり、撮影現場も笑顔に溢れていました!ベビーフェイスに反して高身長でスタイルも良く、表情がジェットコースターのようにコロコロ変わり、魅力的なお写真が撮れました!
『かそけきサンカヨウ』
10月15日(金)より新宿テアトルほか全国ロードショー
監督:今泉力哉
原作:窪美澄『水やりはいつも深夜だけど』角川文庫 所収「かそけきサンカヨウ」
出演:志田彩良 井浦新 鈴鹿央士 中井友望 鎌田らい樹 遠藤雄斗 石川恋 鈴木咲 古屋隆太 芹澤興人 海沼未羽 鷺坂陽菜 和宥 辻凪子 佐藤凛月 菊池亜希子 梅沢昌代 西田尚美 石田ひかり
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:金田紗世子
ディレクション:半澤暁
インタビュー:山根将悟
記事:山根将悟/近谷奈生