北村匠海
映画『とんび』
この作品を通して、繋がりを考える
きっかけになれば嬉しい
2008年に小説として発行され、これまで二度のドラマなど、長く語り継がれてきた『とんび』。今回、そんな歴史ある作品が初の映画化。父と子の関係を描く同作において、北村さんは息子である市川旭(アキラ)を好演した。幼くして母を失い、ぶっきらぼうながらも優しい父の元で、まっすぐに育つ。そんな切なく美しいバックグランドを北村さんはどのように受け止め、演じたのか。
映画『とんび』に出演が決まった時、どんなお気持ちでしたか?
まず、こんなにも長く受け継がれてきた作品だということに驚きました。今回、監督を務められた瀬々(敬久)さんは、阿部さん直々のオファーだったそうで、監督の作り上げる『とんび』の世界はどういったものになるのか、現場に入る前から楽しみでした。
高校生から壮年まで、さまざまなアキラを演じられたと思いますが、各世代での違いは意識されましたか?
僕は思春期真っ盛りの時のアキラから入り、一日で一つの年代をこなして、一日おきにアキラの年齢がどんどん変わっていきました。でも、その演技を通して人の本質は大きく変わらないと感じたんです。18歳から24歳、50歳になって、言葉や考え方は変わるかもしれないですが、本質は変わることはない。なので、演技において細かいことはやっているのですが、そこまで過度に表現するというのはありませんでした。
北村さんから見てアキラはどんな人物でしたか?
アキラは父親の反面教師でとてもしっかり者で、でも実はナイーブで弱い一面もあり、たくさんの周りの人たちに助けられながら生きている。色々な人たちの血が流れている男の子なんですよね。そうやって育ったアキラが最後に子供を持ち、また命のバトンを繋いでいく。それはまさに、小説からドラマ化され、現代で映画化された『とんび』という作品の生き方と近いと感じています。
北村さんとアキラがリンクしているポイントはあったりしますか?
元々、役と自分がリンクするかどうかというのは、あまり意識していないんです。でも、父親に対してのアキラの気持ちが分かる瞬間はありました。18歳頃の反抗期を経て、大人になるにつれて不器用な父親の優しさに気づいていく。父親のタイプは全然違いますけど、その過程は僕も同じでした。子供の頃は上手くに話せなかったけど、大人になるとすごく色々話せるようになりました。そこの親和性はありましたね。
役の作り込みというか、子供を保育園に迎えにシーンはとてもリアルでした。
子供との接し方の経験がなくて、実際に気まずい部分もあったというか(笑)。保育園に迎えに行ったあとのシーンとかも、やっぱりどう接していいのか分からなくて。でもそれってきっと、とてもリアルだったのかなと思います。
阿部さんと北村さんが実の親子では?と思うほど、仕草や表情が似ているシーンがたくさんありました。
阿部さんとの演技の中で、自然とそうなったんだと思います。阿部さんは僕が参加する前から子供時代のアキラとずっと接してきて、父と子の空気感がしっかり作られていて、僕はそこに飛び込んだ形です。
監督とはどういった話をされましたか?
「『とんび』という作品は長く続いてきたけど、君の思うアキラを演じればいい」と最初に言っていただきました。あと現場で、監督は“本当にこの映画が好きなんだな”と強く感じましたね。普段は物静かなんですが、作品をよくしようと最後まで粘って、現場で一番心が熱い方でした。なので、短い期間の撮影でしたが、とても充実感のある現場になりました。
撮影を通して一番長い時間を過ごしたのは阿部さんでしたか?
そうですね。阿部さんから話しかけて下さることが多く、ずっと他愛のない話ばかりしていました。お子さんの話とか、格闘技の話とか。とてもチャーミングな性格をされているんです。でも撮影に入るとずっと現場にいらっしゃって、片時も離れない。それぐらい全力でヤスを演じられていて、この作品に対する想いが伝わってきました。この作品が大好きなのだなと。
最後に作品の見どころをお願いします。
『とんび』ではアキラの成長など沢山の時間の流れが、すごく分かりやすく描かれています。画面を通して垣間見ることで、親だったり、子供だったり、いろいろな目線で楽しんでもらえたらと思います。この作品を通して、ヤスとアキラのように、繋がりを考えるきっかけになれば嬉しいです。
北村匠海
きたむらたくみ
落ち着いた雰囲気でインタビューに答えてくださった北村さん。落ち着いた中に熱いものを感じたインタビューでした。北村さんの発するひとつひとつの言葉がアーティスティックで美しい。そんな印象を受けました。撮影ではスタッフも息を飲むようなかっこよさでした!素敵な取材ありがとうございました!
映画『とんび』
大ヒット公開中
原作:重松清「とんび」
出演:阿部寛 北村匠海 杏 安田顕 大島優子 濱田岳 宇梶剛士 尾美としのり 吉岡睦雄 宇野祥平 木竜麻生 田中功補 嶋田久作 村上淳 鷹赤睨 麻生久美子 薬師丸ひろ子
※Team Credit
カメラマン:田中丸善治 / zenharu tanakamaru
ディレクション:半澤暁
インタビュー:山根将悟
記事:山根将悟/近谷奈生