春は彼方
第一話
作 吉田仁人
僕は今までの人生で、たくさんの友達を作ることも、他人に誇れる何かを手にすることもできなかったけれど、親友はいるし、想いを寄せる人も実はいる。そんな今に満足しているからこそ、ここでこの生活を始めることは、人生最大のチャンスでもあり、人生最悪のピンチでもあった。
高校生活が終わりに差し掛かった、一年前の二月のこと。
放課後馴染みのカフェで、親友の葵が急にこんなことを言い出した。
「あのー、俺から提案があってだな。」
珍しく内容のある話が聞けそうで、僕とゆりちゃんは耳を傾ける。
「俺らってさ、四月から東京の学校になるわけで、そしたら一人暮らしじゃん?一人暮らしって家賃はもちろんだけど、その他にもめちゃくちゃ金かかるっぽいんだわ。」
「あぁ、確かに。考えてなかった。」と、僕は、注文したクリームソーダのアイスを溶かしながら相槌を打つ。
「私も探してるけど、なかなか良い物件ないんだよね…」と、新商品の苺のケーキをカメラに収めてから、ゆりちゃんは小さく「いただきます」をした。ゆりちゃんは四月から僕と同じ東京の大学に通う。三人で一緒の大学に行けたら良かったのだけれど、葵は美容の専門学校に行きたかったらしい。
そんな葵が予想通りの二人の反応に少し満足しながら
「だからさ、三人で一緒に住んじゃおうよ。」
と言った。この突拍子もない提案に、なぜかゆりちゃんもノリノリで、三人での共同生活が幕を開ける事となった。
そこからの毎日は、とても幸せだった。慣れない都会での生活も、二人が近くにいたから楽しいと思えた。
だけど、最近は少しおかしい。二人の様子がどうも変だ。
例を挙げればキリがないが、葵がコンビニに行く時、なぜかゆりちゃんも一緒に行く。朝、ゆりちゃんが葵のトレーナーを着ている。極めつけは、葵の「ゆり」呼びだ。いつからゆりちゃんを「ゆり」と呼び始めたんだ。「ちゃん」はどこにやったんだ。そんな大きな変化に気づかないとでも思っているのだろうか。しかもそれに返されるゆりちゃんの零れんばかりの笑み。
これは、完全に僕にとって、絶対に楽しい展開ではない。
【著者】
吉田仁人(よしだ じんと)
1999年12月15日生まれ。
スターダストプロモーション『恵比寿学園男子部(EBiDAN)』のメンバーであり
ボーカルダンスユニット『M!LK』のリーダー。
M!LKは、2014年11月結成、佐野勇斗、塩﨑太智、曽野舜太、山中柔太朗、吉田仁人からなる5人組ボーカルダンスユニット。 〝今この瞬間の感情〟を収めた楽曲や、エモーショナルで強いメッセージ性が話題を呼び、注目を集めている。 グループ名には「何色にも染まることの出来る存在に」という意味が込められており、メンバーは音楽活動に留まらず、ドラマ、映画、舞台、モデルと幅広く活躍している。 2019年にリリースした結成5周年アニバーサリーシングル「ERA」はトータルセールス10万枚を超え、ゴールドディスク作品として認定された。 2020年3月11日には待望の3rd AL「Juvenilizm-青春主義-」をリリース。