春は彼方
第二話
作 曽野舜太
もちろん
僕たち3人は仲がいい。
隠し事など、したことがない。
いや、隠してるか。
密かに僕は、ゆりちゃんに想いを寄せている。
ゆりちゃんには到底言えないが
親友の葵にもまだ言ってない。
今更恥ずかしくて言えるわけがないし、葵とゆりちゃんが一線を越えたかなんてまさか聞けるわけもない。
この怪訝な気持ちはどうしたものか・・。
一か月ほど前のある晩のこと。
僕が疲れて寿司屋のバイトから帰ると、2人が家から出ていくのを目撃した。
僕は息を潜めながら、後をつけた。
2人は山手線に乗り込むと恵比寿で降りた。
僕の慣れないスパイの仕事は順調に進んでいったが、五差路の信号で2人は止まった。
僕は錆びれた電柱にこそっと隠れ、鋭い一瞥を与えた。
街の灯りで赤く染まった白息の中で葵とゆりちゃんは接吻(キス)をしていたのだ。
その光景は、僕の人生を最も狂わせた刹那となり、大きなカマキリに身体を裂かれたというよりはむしろ人間サイズのふんころがしに冷たいコンクリートの上を転がされたようだった。
僕の心はくしゃくしゃに丸められた紙となった。
丸めた紙に文字を書いても歪んでみえる。
何かを包もうとしても、ごわついてしまうし、激しく広げようとすると破れてしまう。
どんなに心尽くして広げてみても、もう二度とシワが消えることはないだろう。
第三話へつづく
【著者】
曽野舜太(その しゅんた)
2002年5月3日生まれ。
スターダストプロモーション『恵比寿学園男子部(EBiDAN)』のメンバーであり、
ボーカルダンスユニット『M!LK』の最年少メンバー。
M!LKは、2014年11月結成、佐野勇斗、塩﨑太智、曽野舜太、山中柔太朗、吉田仁人からなる5人組ボーカルダンスユニット。 〝今この瞬間の感情〟を収めた楽曲や、エモーショナルで強いメッセージ性が話題を呼び、注目を集めている。 グループ名には「何色にも染まることの出来る存在に」という意味が込められており、メンバーは音楽活動に留まらず、ドラマ、映画、舞台、モデルと幅広く活躍している。 2019年にリリースした結成5周年アニバーサリーシングル「ERA」はトータルセールス10万枚を超え、ゴールドディスク作品として認定された。 2020年3月11日には待望の3rd AL「Juvenilizm-青春主義-」をリリース。