高杉真宙
フォトブック『I/my』
「撮られることを身構えなくなった分、距離の近さを感じてもらえたら」
2009年に俳優活動をスタートさせ、デビュー当時から変わらぬ爽やかなルックスと、様々な役を演じて培った演技力で一段と魅力を増す高杉真宙さんが、今年で俳優15周年を記念したフォトブック『I/my』(ワニブックス刊)を、8月7日に上梓します。本作は、雑誌「+act.」の連載「きり、とる。」で届けてきた写真と文章に加え、長崎の街を旅した撮り下ろしカットがまとまったフォトパートをまとめた一冊。高杉さんに、撮影で訪れた長崎県でのエピソードや本作に込めた思い、さらにご自身のこれからのことなど、たっぷりとお話ししていただきました!
©高杉真宙 Photobook『I/my』
撮影:石田真澄
ワニブックス刊
タイトルの『I/my』(あいまい)はご自身で決められたのですか?
いくつか案を出していただいた中で、「曖昧」って色々な意味を感じられるなと思ったんです。帯文にも「自分のカメラを持ち歩き、自分自身と向き合った」とありますが、ここに載っている写真は、連載で自分が撮ったものも撮ってもらったものも全てフィルムカメラで撮影したんです。なので、うまく撮れなかったものも結構あって「これ差し替えできますか?」って聞いてみたけど使ってもらえなかったものもいっぱいありました。
そういう意味での曖昧さもあるし、さっき担当の編集さんから「“自分の未来の曖昧さ=余白”みたいなことも感じ取れるよね」と言ってもらって、「なるほどな」と (笑)。そうやって色々な意味に取れる言葉だからいいなと思い、このタイトルに決めました。
キラキラした川の水面など、自然光がきれいに入っている写真が多かったですが、掲載する写真のチョイスはどのように?
最初に送っていただいた写真は枚数が凄く多かったんです。その中からまずは担当編集さんやスタッフの方たちと選んで、そこからさらに厳選していきました。僕としては、普段の取材などで撮っていただく写真とはまた違った感じの写真を選んだつもりなので、いつもだったら使わないような写真も結構あると思います。
特にお気に入りの一枚は、細い坂道を下っている後ろ姿を撮った写真(P43)。僕、引きの写真が好きなんですけど、このカットは「なんか自分っぽいな」と思ったし、長崎の坂というところも含めて気に入っています。このほかにも、旅の流れで自然と出てきた表情や行動を撮ってもらったので、今回の「曖昧」というコンセプトにも合ったかなと思います。
撮り下ろしのフォトパートは、まるで高杉さんと一緒に長崎を旅しているような気持ちになりました。撮影中はどんなことを思いながら行っていましたか?
撮影されているという感覚よりは、「あまり身構えず、撮られていることを意識しないでいる」ということを意識していました。もちろんカメラマンさんもそばにいて撮ってくれてはいるんですけど、自分が1人で旅しているような感覚をコンセプトにしたので、着ている服も自分の私服に近いものを選んでいただいたんです。
以前、「FAST」(22年3月)にご登場いただいた際の一問一答で、行きたい場所を「長崎」と答えていましたね。 実際に訪れてみて新たな発見などはありましたか?
以前、長崎に行った時の記憶は割と断片的で、学生時代に行った場所で覚えているのは坂ぐらいで、他はほとんど覚えていないんですけど、幼少期に行った場所はもう少し覚えているんです。昔は色々なものがもっと大きかった気がしたんですけど、自分が成長して身長が伸びた分、様々なものが自分の目線の高さにあって、「肉まん」と書かれた看板などが自分の目線が変わっているから「大人になって、またここに来たんだな」ということをすごく感じました。懐かしさというよりは、新鮮さの方が大きかったかもしれないです。
長崎を撮影場所に選んだ理由を改めて教えてください。
幼い頃、家族旅行で行ったことがあって、学生時代に修学旅行でも行ったことがあったんですけど、正直そこまで記憶がなかったんです。ただ「良かったな」っていうすごくふわっとした記憶の中で「また行きたいな」という気持ちはずっとあったんです。今回実際に訪れてみて、自分の中にある朧げな記憶のちょっとしたところに見え隠れする長崎の風景が明確になったので、よかったなと思います。
幼い頃の思い出と合致した場所や、印象に残っているものはありましたか?
やっぱり長崎は坂が多いなと思いました。幼い頃の記憶がほぼない中でも、長崎=坂の印象がすごく強くて、学生時代に友達と訪れた時も暑い中制服で坂を歩いた記憶があります。
あとは路面電車ですかね。当時は路面電車が走るような場所で生活していなかったから新鮮で、路面電車は長崎にしかないと思っていたんですけど、意外と色々なところにあるんですよね(笑)。そういうことを撮影中もよく思い出しましたし、長崎の町並みを歩きながら「ここ、来たことあるかも」と思いながら撮影したのは楽しかったです。
カステラやトルコライスなど、長崎名物も堪能されたようで!
トルコライス、めちゃくちゃ美味しかったです。それまでトルコライスのことを全然知らなかったので「トルコライスって何だろう」と思ったら、ピラフやトンカツがワンプレートに入っていてボリュームもありましたけど、また食べたいなと思いました。あと、角煮まんも美味しくて、滞在中に2回食べられたのは嬉しかったです。
次に狙っている都道府県はありますか。
石川県とか北海道ですかね。僕、アジとかサバとか青魚に目がないんですよ。プライベートで旅行するときも、一番の目的は「食」なので、美味しい海鮮を堪能したいです。
雑誌『+act.』の連載「きり、とる。」では、AからZ順の英単語をテーマにした写真と、
その時々で思ったことやその言葉から連想する思い出などを書かれています。改めて見てみて、何か気づきはありましたか。
自分の2年半がすごく凝縮されている感じがしたし、こうやって一冊にまとめてもらって嬉しい反面、その時々で自分が感じたことや思ったことをそのまま書いて載っているから「この時ってこんなこと思っていたんだ」みたいな気恥ずかしさもちょっとあります。
自分が何か変わったというよりは、少しずつ心境の変化があったんだろうという感じがしました。その時に携わっている作品によって思うことも考えることも様々で、きっと違うと思います。この期間で舞台をやっている時期が2回あったのですが、その時の回の文章を読み返すと、自分でも「なんでこんなこと考えていたのかな」と思うことはあります。
連載の中でも「Secret」(雨の浅草で、人々が行きかう足元を撮った回)は、写真も文章も印象的でした。普段だったら気づかない、見えないようなところをカメラ越しに見てみて、どんなことを感じましたか?
あの日は、考える時間が多かった一日だったんです。土砂降りの中をずっと歩いていて、「早く帰りたいな」と思っていたんですけど、たまたま川の近くにいた鳥を見ていたら、帰ることを忘れて1時間ぐらいボーッとしていたんです。そういう時間が東京の観光名所である浅草の中でも生まれるんだなとか、急いでいる人たちの足元からここにたどり着くんだなということを思った記憶があります。
7年前に出版された2nd写真集『20/7』と比べて、違いやご自身の気持ちに変化はありますか?
距離感ですかね。これまで出してきたものは、割と「決めカット」のような、飾っているものが多かったんです。だけど今回は「フィルムカメラの良さや味は決めるような写真じゃないよな」という気持ちがあったので、普段だったら見せないようなところもさらけ出してみることが大切なのかなと思いました。なので、親しみやすさを少し意識して、フィルムカメラだからこその温かさや距離の近さを感じてもらえる一冊になったかなと思っています。
連載をしてきたことで、出不精だったのが徐々に外に出られるようになったそうですが、これから増やしてみたい趣味はありますか。
カメラを片手に散歩に行けるようになったのと、最近はジムにも行き始めたので、今やっとその「2歩分」は外に出るようになりました(笑)。なので、3歩目は何か習い事を始められたらいいなと思っています。
これまでもずっと好きで、もはや自分の一部でもあるゲームやマンガ、アニメは僕の人生の中でかなり重要なものになっていますが、それ以上に合うものにまだ出会っていないだけで、もしかしたらもっとハマるものがあるかもしれないですよね。それをこれから探していけたらいいなと思います。
21年に独立され、さらに幅広いジャンルでのご活躍をされていらっしゃいますが、ここまでの歩みや道のりを振り返ってみて、いかがですか。
正直なところ、独立する前の12年よりも、そこからの3年の方が長く感じています。きっとそれは、考えることが多くなったからだと思うんです。それまでも、もちろん色々考えてはいたけれど、さらにその他のことと並行して、自分でしっかり考えていかなきゃいけないことが多くなりました。
最近では、海外に進出したり、企画から参画したりする役者さんも増えてきましたが、高杉さんはいかがですか?
一時期、興味があったこともありましたが、なんか違うなと思ったんです。どうしたって、僕は「クリエイター脳」ではないんです。またいつかそこへの興味が出ることがあるかもしれないけど、それについて今は全く考えていなくて、今はただただ、作品についてだけを考えていく生活というのが幸せかなと思っています。
最後に、今回のフォトブックはご自身にとってどんなものになりましたか?
これまで写真集やエッセイを出した時も毎回同じ気持ちですが、自分の一部を切り取っている感じがします。自分の目線や考えを切り取って、一冊の本になったという感覚が大きいです。
写真を見て「自分でもこういう表情するんだな」と思うことは逐一ありました。僕、唇をとがらせていることが多いんです(笑)。多分、どこかが動いていないと落ち着かないんだろうな。「決めていない」分、素の自分に近いから、ちょっと滑稽な写真も3枚に1枚ぐらいの割合であるので、ぜひそんな写真も楽しんでいただけたらと思います。
高杉真宙
たかすぎ まひろ
1996年7月4日生まれ。
中の緑色のシャツがとても爽やかで高杉さんのイメージにぴったりだなと感じたスタイリング。改めてお会いするとお顔の小ささに何度も驚かされました。撮影では少し暑い中でしたが建物に面した階段で撮影をさせていただきました。撮影前に暑いことをスタッフが伝えると「全然大丈夫です」と笑顔で応えてくださいました。蒸し暑い中でしたがそれに負けないぐらい仕事の熱量あるかっこよさで撮影中では終始カッコよくいてくださいました。インタビューでは、最初から最後までスタッフの顔と目線を合わせて話してくださるのがとても印象的でした。中でも取材終了後は深々とお辞儀をしてくださり、とても丁寧で誠実なお人柄でした。
約1年ぶりではありましたが、年齢を重ねるごとに素敵なこだわりを持ち、努力されている高杉さんのことを応援しております。
久しぶりのご出演ありがとうございました!
最近の出演作に、テレビドラマでは、NHK大河ドラマ『光る君へ』(‘24)、日本テレビ『となりのナースエイド』(‘24)、フジテレビ『わたしのお嫁くん』(‘23)、映画では、2024年公開予定の『オアシス』(‘24)、東京リベンジャーズシリーズ(‘23)などがある。
©高杉真宙 Photobook『I/my』
撮影:石田真澄
ワニブックス刊
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:堤紗也香
スタイリスト:菊池陽之介
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/有松駿