吉田仁人
Story Relay企画
トップバッターとしてペンを手に取った彼が語る
『春は彼方』という作品
俳優同士が打ち合わせを一切することなく物語をリレー形式で繋いでいくFAST内の特別企画。そのトップバッターとして『春は彼方』という作品を生み出してくれたM!LKの吉田仁人さんに、執筆の裏話からバトンを受け取った方たちの物語を読んだ感想までをお聞きしました。
『春は彼方』× 吉田仁人(M!LK)
実は以前、3人の三角関係の物語という題材を考えていたんです。ただ、結末までは考えていなかったので「リレー小説」といったお話を聞いた時に「みんなに任せられる!」と思ってこの作品がぴったりだと思いました。ただ、最終的に僕が最後を書くことになったんですけど(笑)。題名の『春は彼方』に関しては、恋愛が始まったり彼女ができたりした時に「俺にも春が来た」と言うじゃないですか。秋人にとってその「春」を遥か彼方の遠いものにしたかったんです。『春は彼方』と“遥か彼方”、ごろも似ているし「か」を「は」に変えて、秋人に「春が来るのはまだまだ先」といった意味も込めてこの題名になりました。
なぜ3人だったんですか?
シェアハウスって色んな人の人間関係が交錯するじゃないですか。ただ家族で住んでいるだけでもトラブルから嬉しいこと、楽しいことまで様々に起こる中で、「じゃあ他人の3人が集まってさらに一人が女の子だったらすごい大変だよな」と思ったんです。学校の中ですら友達と好きな人が被ったりするといろんな感情が絡み合うじゃないですか。それが一つ屋根の下で繰り広げられる。その閉鎖空間での物語は面白そうだと思って3人のシェアハウスメイトを登場人物にしました。
他の方たちの話を読んでみていかがでしたか?
毎回「あぁ、そうです。よかった。」と思っていました(笑)。言葉には綴れないようなイメージしていた流れが僕の中にはあって。それがちゃんと流れてくれるか不安だったんですけど、そのイメージを全ての方が逸れずに書いてくださっていて安心しました。加えて色んな人の目線で話してくれているのもすごくありがたかったですね。
Highlight of 春は彼方
=2話/曽野舜太(M!LK)=
この子はもう「すごいな」と思いましたね。僕の手から離れて舜太が書きましたってなって読んだ時に一回頭を抱えました(笑)。「ちょっと待って、どういうことだ」と(笑)。比喩としてカマキリとフンコロガシが出てくじゃないですか。そこがとにかく面白くて(笑)。これは褒め言葉なんですけど、舜太って頭が良くて楽屋でも宿題とか一生懸命頑張っている真面目な子なんですよ。それを見ていたからこそ、カマキリとフンコロガシの例えがめちゃくちゃ面白かったですね(笑)。確かに、こういった感性は日頃垣間見えはするんです。描いた絵を見たりトークを聞いていたりすると「人と違う面白い個性を持っているな」というのは感じていたんですけど、文書にするとそれがまた顕著に見える感じがして。楽しく読ませてもらいました。
=3話/山中柔太朗(M!LK)=
彼は話を本筋に戻して、かつすごく繊細に書いていると思いました。柔太朗って普段、表情や感情を外にあまり出さないんですよ。楽しそうな時はあるんですけど、怒ったり嫌なことがあったりしたときのネガティブなものは自分の中で消化するタイプというか。なので、今回の表現を読んで、「内心ではこういったことをよく考えているのかな」と思いました。「普段からいろんなことを考えているんだろうな」と。この話で秋人のセンチメンタルな部分とか、ロマンチストな部分が表現されていて嬉しかったですね。
=4話/富田健太郎=
4話からだんだんと話が動いてきましたね。3人の出会い頭のシーンも描かれていて。あ、あとゆりちゃんの「人は撮らないの。大切な人を撮る時までとっておくの」という言葉。これは『春は彼方』全話のキーワードになったと思っていて。富田さんの話の動かし方がすごいと思いましたね。そして“春の大三角形”の表現もしてくださっているんですよね。これに関しては前半戦で説明してほしいと思っていたのでありがたかったです。
=5話/溝口琢矢=
ここからは怒涛のメッセージゾーンに突入ですよね。5話では秋人が恵比寿から新宿御苑まで幅広い範囲で行動していることが付け加えられて(笑)。5話までは会話文がけっこう少なめだったので、溝口さんが会話文をたくさん書いてくださっていたのが嬉しかったです。ゆりちゃんも秋人も「生きてるな」という感じがあって。2人の人柄がすごく見える話だったと思います。あと、「僕は地面に根を張ったかのようにその場から動けなくなった」という表現もすごく共感できると思いました。あるじゃないですか「うっそ!」みたいに思考が一時停止すること(笑)。そういう細かい秋人の表現が魅力的でしたね。
=6話/松岡広大=
6話は初のゆりちゃん目線!いや~、本当にありがたいです。ゆりちゃん目線を書く時に、どうしても大切にして欲しかった「異性からも同性からも好かれる人間性」がちゃんと表現されていて感動しました。松岡さんの書いてくださったゆりちゃんを見ると、すごく繊細な女の子であることが分かるし嫌味もないんですよね。ゆりちゃんがとにかくすごく“ゆりちゃん”なんです。ゆりちゃんには、普通の人が「何なの?」と思われるような部分でも、それを凌駕するほどに「あの子は仕方ないよね、あの子には勝てないよ」くらいの人で居て欲しかったので、本当にそんな人物像になっていて嬉しかったです。この最後の2文「カメラと、自分が水に溶けていかないように、私を抱きしめて守る。心の傷の鮮血、桜の花びらが地面に溶けていく。」の表現も好きだったな。あとはこの話の秋人に読者としてゾッとしました。ロマンチストって裏を返すと思い込みの強い人でもあるじゃないですか。ちょっと理想を大きくしすぎているから、絶望の仕方が周りの人にまで染みてしまうような。ここまでで3人それぞれのベースがきちんと定まってるんですよね。
=7話/吉村卓也=
ベースが固まってからの第7話。7話、すごかったです。「ほら、写真撮るよ。秋人くんケーキ持って。」の会話で「え?何で?」と思ったら「先輩かーい!」みたいな(笑)。秋人、葵、ゆりの3人でこれだけ長いこと話を繋ぐのもすごいけれど、ここで新たに2人の登場人物が出てくるのもすごいですよね。起承転結でいう“転”の部分。しかもコロッと話が変わったと思ったら、最後の数行でグッと本筋に戻るんですよ。本当にすごいと思いました。この一話だけで美里さんと純平さんの人格が伝わってくる部分、会話の一つひとつにそれぞれの性格がくみ取れるような言葉が組み込まれている表現の方法などは「なるほど」と勉強になりました。男性が書いているはずなのに、女性の登場人物のキャラがパッと思いつくところもさすがですよね。
企画の話が来た時の感想を教えてください。
以前、マネージャーさんに「今後どんなことがやってみたい?」と聞かれたことがあって、その時に「書き物、エッセイや旅のコラムをやってみたいです」とお伝えしたことがあったんです。今回「小説」と言われて「小説!?」となったのを覚えています(笑)。でもエッセイや自分の随筆のようなもの以外にもいろいろと考えていたので、何個か考えていたストーリーの中から一個出してみようと思って。すごく考え込んでいた作品だと自分の思っていた結末になってしまった時が悲しくなっちゃうので、逆に最近考えて結末を考えていないものを出すことに決めました。そこからは「楽しい!」の一点張りでしたね。ちょうどタイトルもそのくらいで考えました。“春”という「明るさ」や「暖かさ」、「新しい何かが始まる」ことの象徴的な季節にすごくブルーな人間がいる。名前にも“春”と真逆の“秋”を入れてみたりして。“秋”って一番切ない季節のイメージなんです。まだ楽しい思い出とともに暖かさも残っている…だけどもう今はここにはない、みたいな。そんな風に頭の中でどんどん設定ができていって、パズルのピースが気持ちよくハマっていく感じがすごく楽しかったです。「皆さんにこう書いてほしいな」「どんな風に繋がるんだろう」とワクワクしっぱなしでした。
吉田さんのトップバッターが
あっての企画でした。
本当にありがとうございます。
では最後に、
この企画を終えての感想をお願いします!
何だか「え?打ち合わせした?」というくらいに全然3人がぶれないで在ってくれて驚きました。もっとガチャガチャしちゃうと思っていたら、きちんとストーリーの本筋も通っていて。一話で僕が書かせてもらった設定を、それぞれに皆さんがくみ取ってくださって完成した物語だと思います。皆さんの読解力と発展させる構想の練り方に感歎しました。皆さんにお礼を言って回りたいくらいです(笑)!
吉田仁人
よしだ じんと
1999年12月15日生まれ。
ボーカルダンスユニットM!LKのリーダー。
世界に浮遊する些細なマテリアルの光を見つけ、丁寧に繊細に表現する才に長ける20歳。
※Item Credit
全て本人私物
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:金田紗世子(MAKE ON)
ディレクション:町山博彦/半澤暁
インタビュー・記事:満斗りょう