水上恒司
自分を見失いそうになった時は、“直感”を信じる
現在公開中の映画「本当にあった話(の話)」に出演している水上恒司さん。インタビュー後編では、水上さんが語る独自の演技論、そしてプライベートでの意外な素顔や価値観に迫ります。
作中では、みんなで食事をしているシーンで夛田が突如「グルテンフリーは陰謀論ですか?」と問いかける場面がありますよね。あの瞬間から「この人、何か様子がおかしいぞ……」と一気に不気味さが際立ち、徐々に役と同化していくように見えました。役の変化やグラデーションについてはどう意識されていたのですか?
人間にとって「思い込むこと」ってすごく楽なことだと思うんです。例えば自分の子どもでも、配偶者でも「この人はこういう人間だ」と決めつけてしまう方が考えるエネルギーを使わずに済みます。
でも、それってものすごく危険なことですよね。自分の血がつながった両親でさえ「こんな一面があったのか」と驚くことがあるくらい、人間の底知れなさって測り知れないじゃないですか。夛田という男は、「自分の中の信じるもの」に逃げ込んでしまい、楽な道を選んでしまった人間だとも言えます。ただ、思い込みが強くなればなるほど、そこから凄まじいエネルギーが生まれてくる。そのエネルギーがどんどん増幅していくグラデーションは、台本にもしっかり書かれていました。
その変化のグラデーションを、現場ではどのように表現していったのでしょうか?
周囲から見た時に「どんどんあいつの様子がおかしくなっていくな」「狂気が深まっているな」と感じてもらえるように、グラデーションの精度を意識していました。特別な計算というよりも、思い込みの深度が深まっていくプロセスを丁寧に重ねていきました。
© 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作
委員会
役者さんによっては「役に呑まれる」「役と同化して抜け出せなくなる」という方もいますが、水上さんご自身はそういった共感や、一体感を感じることはありますか?
それで言うと、僕は「役に憑依する」という言葉があまり好きではないんです(笑)。目の前にカメラやスタッフさんが大勢いる時点で、まったく普通の状態じゃないですし、僕はずっと緊張しているんですよ。その中で「役に憑依しました」なんて、僕には到底言えません。その緊張感や非日常の中で「いかに生々しく、リアルに、自然に演じるか」と考えた時、僕がやるべきことは「緻密な計算」なんです。
「感情」ではなく「計算」から自然な芝居を生み出すのですね。
そうです。このキャラクターはどういう言葉や態度にイラッとするのか。台本に書かれた感情に到達するためには、現場で何を聞き、何を見て、何を感じ、何の匂いをピックアップすればいいのか。そういうことを頭で徹底的に計算して現場に入ります。現場に行けば、想定外のロケ環境や、相手の役者さんの予想外の芝居が飛んできます。でも、緻密に計算した強固な土台があるからこそ、その場で起きたことに対して柔軟かつ自由に対応できるんです。だからこそ、感覚だけで「憑依したんだよね」と言うのはすごく臭いなと思ってしまう(笑)。僕自身はあまり共感しないですね。
もちろん、何年も続く大河ドラマのような長期的な作品であれば、ふとした瞬間に「あ、今何も考えずにその人になれていたな」と感じる瞬間はあるかもしれません。それはそれで素晴らしいことですが、今の段階で「憑依」という言葉を使うのは、やっぱり照れ臭いし嘘っぽいなと思ってしまいます。僕はしっかり計算しないと立ち打ちできないですね。
本作の撮影現場で特に楽しかったことを教えてください。
楽しかったのは、夛田が人前や1人の女性の前で長々と喋るシーンです。僕自身は長台詞が苦手なんですけど(笑)、今回の原作や脚本の言葉は自然と身体に入ってきて、呼吸がしやすかったんです。夛田の思考回路がスッと理解できた感覚がありました。それから、これは実際に映像に使われたかどうかは分からないんですが、相手が喋っている時に、僕(夛田)がその言葉を遮るように息を吸って言葉を出そうとする、という細かな芝居を仕掛けたんです。
なぜ、そのような仕掛けをしてみようと思われたのでしょうか。
会話において、相手のセリフを聞いている側のリアクションってめちゃくちゃ重要で、観客の想像力を広げる種になると思っているんですね。相手の言葉を食うように言葉を発しようとする動作を入れるのは、演じていてすごく楽しかったです。
今作は2週間というとてもタイトなスケジュールで撮影したので、全体的にまったく余裕がなかったのですが、スタッフ全員が「声を掛け合って最高の作品を作ろう!」という熱量に溢れていて、本当に救われました。共演した佐々木蔵之介さん、黒木華さん、小池栄子さんといった素晴らしい役者さんたちも力が抜けた見事なお芝居をされていて、現場でご一緒できたことは大きな財産です。
ここからは水上さんご自身のプライベートな一面について伺わせてください。映画では周囲を巻き込む強いキャラクターを演じていましたが、普段、ご友人や周囲の方といる時はどんなポジションですか?
それは完全にコミュニティや相手によりますね。友人同士でも、聞き役に徹底して話を受け止める時もあれば、自分がマシンガントークをする時もあります。ただ、目上の方や先輩方とご一緒させていただく時は、割と自分から率先して喋ることが多いです。場を盛り上げたり、会話のきっかけを作ったりすることが自分の役割だと思っているので。相手が「話したいのかな」と感じた時は、すっと聞き役に回ります。常に相手の表情や顔色を見て立ち振る舞いを変えていますね。
FASTは「カッコいい人」を追い続けているのですが、水上さんが思う「本当にカッコいい人」とはどんな人物ですか?
「自分の弱さを素直に見せられる人」ですね。自分の弱みや情けない部分、恥を大衆や人の前にさらけ出すのって、すごく勇気が要ることですし、決して簡単なことではないじゃないですか。できれば隠しておきたいのが人間ですよね。でも、それをサラッと言えてしまう人を見ると「うわ、この人めちゃくちゃカッコいいな」と思います。恥を忍んで弱さを見せられる人は、本当に大人でカッコいいと思います。
過酷な現場や多忙な日々の中で、自分を見失わないための「リセット法」や「軸」はありますか?
リセット法はないですね! きついものはきついです(笑)。僕にとっての一番の解決策は、とにかく睡眠をとること。絵を描いたり料理をしたりする時間も以前はありましたが、それは時間に余裕がある時にやることであって、やるべき仕事がある時期はとにかく寝ます!
自分を見失いそうになった時は、「自分の直感」を信じるようにしていますね。その時、自分がどう感じたかという第一印象は概ね合っていることが多いんです。直感を信じて大事にしてあげること。それが自分自身を保つための唯一の軸かもしれません。
最後に、作品を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
観終わった後に「面白かった!」と感じていただけたら、ぜひご自身の言葉でご家族やご友人にその面白さを伝播させてほしいです。SNSでも口コミでも構いません。主演として、皆さんの心に何か一つでも残るものや持ち帰っていただける感情があれば、それに勝る幸せはありません。ぜひ劇場で楽しんでいただけたら嬉しいです。
水上恒司
みずかみ こうし
1999年5月12日生まれ。
最近の出演作に、Prime Originalドラマ『犯罪者』(‘26)、Netflix『ソウルメイト』(‘26)、フジテレビ『シナントロープ』(‘25)、WOWOW『怪物』(‘25)、映画では、『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』(‘26)、『TOKYO BURST-犯罪都市-』(‘26)、『WIND BREAKER / ウィンドブレイカー』(‘26)などがある。また、2027年秋公開予定の映画『アンダードッグ-日本初のW杯出場を決めたポンコツ男-』への出演も控える。
インタビューでは「リセット法はないですね! きついものはきついです(笑)」と笑ったり、友人との関係性について率直に話してくださったりと、作品についてストイックに語る姿とはまた違った、親しみやすい一面も垣間見ることができました。「自分の弱さを素直に見せられる人がカッコいい」。そう語る水上さん自身の、飾らず、考えたことを率直に届けてくださる姿がとても印象に残った取材となりました。
© 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作
委員会
■タイトル:『本当にあった話(の話)』
10 月 2 日(金) テアトル新宿 ほか 全国ロードショー
■出演:水上恒司 黒木華 山下美月 大東駿介
山本浩司 / 小池栄子 / 佐々木蔵之介
■原作:鴻池留衣『本当にあった話(の話)』(文藝春秋)
■音楽:Maika Loubté
■監督・脚本・編集:武井佑吏
■配給:東京テアトル/murmur
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:Rina Kajiwara
スタイリスト:藤長祥平
インタビュー:根津香菜子
記事:根津香菜子/相澤花菜