藤原大祐
映画『俺ではない炎上』
初羽馬はいけ好かないところがあるけど愛らしさもあるキャラクター
SNS冤罪の恐怖を鮮烈に描いた浅倉秋成の小説「俺ではない炎上」が、待望の実写映画化!SNSという“日常”を題材に、サスペンス、ユーモア、家族、社会などあらゆる要素が絡み合い、まさに現代に生きるすべての人に問いを投げかける本作で、大学生インフルエンサー・住吉 初羽馬を演じる藤原大祐さん。お芝居をするうえで心がけたことや共演者とのエピソード、SNSについて思うことなどを伺いました。

©2025「俺ではない炎上」製作委員会©浅倉秋成/双葉社
<あらすじ>
大手ハウスメーカーに務める山縣泰介(阿部 寛)は、ある日突然、彼のものと思われるSNSアカウントから女子大生の遺体画像が拡散され、殺人犯に仕立て上げられる。家族も仕事も大切にしてきた彼にとって身に覚えのない事態に無実を訴えるも、瞬く間にネットは“炎上”状態に。匿名の群衆がこぞって個人情報を特定し、日本中から追い回されることになる。そこに、彼を追う謎の大学生・サクラ(芦田愛菜)、大学生インフルエンサー・初羽馬(藤原)、泰介の取引先企業の若手社員・青江(長尾謙杜)、泰介の妻・芙由子(夏川結衣)といった様々な人物が絡み合い、事態は予測不能な展開に。無実を証明するため、そして真犯人を見つけるため、泰介の決死の逃亡が始まる―――。

映画『俺ではない炎上』で藤原さん演じる住吉 初羽馬は、どんなキャラクターですか?
この作品は、世代間ギャップが一つのテーマになっているんです。山縣泰介の年齢層と、住吉初羽馬の年齢層のギャップ。そのなかで、初羽馬は若者を象徴する役なのかなと思っていて。若干、鼻につくというか、気に食わないところはあるけど、どことなく愛らしさもある。そんなイメージで演じました。
ご自身との共通点はありますか?
そんなにないかもしれない。僕は、トーストにイチゴジャムは塗らないし(笑)、ごはんを食べながらケータイも見ないし。そもそも、SNSをそんなに見ないので。強いて言うなら、車を運転することぐらいですかね(笑)。
芦田愛菜さん演じるサクラのことを警戒しながらも、翻弄されていく初羽馬の姿がリアルでした。芦田さんとは、事前に話し合いなどはしたのでしょうか。
作品についての話し合いは、そんなにしなかったです。他愛もない話をいっぱいしましたけど。お芝居に関しては、本当に引っ張っていただいたというか。芦田さんのグルーヴに混ぜてもらったという感じです。
初羽馬がサクラに詰め寄られるシーンは、迫力がありました。
あのシーンは、すごく楽しみでした。芦田さんが、どんなふうに演じるのか。僕自身は、何も考えずに挑みました。きっと、芦田さんが素晴らしい球を投げてくれるだろうと思ったので。

プランをまったく持たずに臨むのは、怖くはなかったのですか?
そのシーンを撮影する前日に、監督とごはんを食べながら、「明日、あのシーン(の撮影)ですね」という話をしたんです。監督は、「でも、芦田さんとだから大丈夫だよ」と言ってくれて。僕も、「そうですね。明日は、何も考えずに現場へ行きます」と答えました。もちろん、自分からも球を投げられるように努力はしていますが、芦田さんのお芝居にものすごく強いパワーがあるので。僕は、それを受けて返すだけで成立するというか。
撮影当日、監督からも特に指示などはなく?
そうですね。僕、撮影現場では、監督とモニターの前でしゃべることが多かったのですが、そのシーンの「カット!」がかかった後は、「想定していたものとは違ったけど、今のが正解だったね」と言ってくれました。「芦田さんのあのお芝居だったら、初羽馬はああなるよね」って。
その場で生まれたものを大事にするということですよね。
僕は、この作品で、正義と正義のぶつかり合いみたいなものが描かれていると思っているんです。正義と正義がぶつかったときに、どんな化学反応が起こるのか。あのシーンは、まさにその化学反応を見た気がしました。“うん、初羽馬ならそうなるよね”という表情をしているはずなので、ぜひ、見て確かめてください。
初羽馬は初羽馬なりの正義を持っていると。
はい。だから、サクラの迫力に押されてはいるけど、100対0で負けているわけではないというか。だって、初羽馬は「僕は悪くない」と言いますから。

あのセリフを聞いたときは、“あっ、それを言ってしまうんだ!?”と思いました。
僕も“そう言ってしまったんだ!?”と思いました(笑)。あのセリフは、すごく現代っぽいですよね。僕だったら、きっと自分が悪いと思う気がします。
お芝居中に芦田さんの放つパワーというのは、どのようなものでしたか?
エネルギーが100になるまでの速度がスゴかったです。じわじわとアクセルを踏んでいくのではなくて。炭で火起こしをすると、少しずつ火が大きくなっていくじゃないですか。そうではなく、ガスコンロにスパッと火が点く感じ?そのおかげで、こちらもぶわっと火が点いて感情が燃える、みたいな。
主演の阿部 寛さんについては、情報番組のインタビューのなかで、「そんなに言葉があるシーンじゃなかったんですけど、目の奥から伝えてくださるエネルギーみたいなもので、お芝居しながら感動していました」とコメントされていましたね。
阿部さんは、画面越しでもエネルギーを感じていましたが、実際にお芝居を目の当たりにしたら、単純に表情とか顔とかではない、目に見えないエネルギーというか、訴えかけてくるエネルギーがスゴくて!それを受けたとき、初羽馬として、自分がしてしまったことをすごく後悔しました。
投稿をリツイートしたことを?
はい。だから、役としてなるべき感情に、阿部さんが導いてくださったということですね。

そのシーンの撮影前は、あまり阿部さんとお話しすることはしなかった?
そうですね。僕が個人的に、阿部さんとあえて、あまりお話しする機会を設けたくなかったというのもあって。というのも、交わるはずのない二人がSNSを介して交わってしまうというところが、この物語の肝なので。お互いにまったく素性を知らない二人が出会うことに意味があると思って。本当はもっとお話ししたかったのですが、役としての立場を優先してグッと我慢しました。
撮影はオール浜松ロケだとお聞きしました。餃子好きな藤原さんですが、名物の浜松餃子は召し上がりましたか?
もちろん!泊まっているホテルの前に、浜松餃子の無人販売のお店があって、冷凍された状態で売っていたんです。それがホントにおいしくて!僕、自分の家の餃子が一番好きなんですけど、それに似た、野菜が多めのしっとりとした餃子なんです。東京に戻るときは必ず買って帰り、会う人会う人に配って。すっかり“浜松餃子配りニキ”になっていました(笑)。
浜松餃子のお店で食事をすることはなかったのですか?
撮影期間中は、お店にごはんを食べにいくこと自体、あまりなかったんです。監督に、たまに連れていっていただいたぐらいで。
そういう場では、監督とどんなお話を?
お仕事の話もしましたし、監督がワイン好きなので、ワインの話を聞いたりもしました。でもやっぱり、『俺ではない炎上』の話をたくさんしました。「俺は、こういう映画にしたいんだ」みたいにアツく語ってくださると、やっぱりうれしくて。翌日からの撮影がより楽しみになりました。

ご自身のお芝居のヒントになったりも?
すごく救われました。監督との距離が近いと、現場で意見交換がしやすいというか、迷ったときに「どうですか?」と聞きやすいんです。そういう関係値を築けていたので、あまり迷うことなく演じられた気がします。
泰介は逃走しているうちに、自分の思う自分と、周囲の人たちの思う自分にはズレがあることに気づきます。藤原さんは、周囲からの見られ方などを普段から意識していますか?
あまり意識しないですね。ただ、外見と中身のギャップはあると思います。
というと?
思ったよりかわいくない(笑)。僕は自分の顔を客観的に見ることはできないのでわからないですけど、たぶんルックスがちょっとかわいい寄りなんでしょうね。「もうちょっとかわいいと思ってた」と言われることは多いです。
あっ、実際に言われるのですね!?
めちゃくちゃ言われます(笑)。

でも、あまり気にしない?
外見通りにしてみてもうまくいかなかったんです。僕もなかなか芸歴が長くなってきまして、いろいろな時期を経たんです。そのなかで1回、“かわいい応対をする”というフェーズも通ったんですけど、不適合だったようで、うまくいかなくて。ウソはよくないなとあきらめました。取り繕っているのって、やっぱりバレるじゃないですか。
外見的なところでいうと、ここ一年ほどでグッと精悍な顔つきになったように感じます。年齢的なこともあるとは思いますが、意識の部分での変化はありますか?
感情が、あまり激しく上下しなくなりました。もちろん、うれしいことがあったらアガるんですけど、悲しみや怒りによってサガることがなくなりました。もちろん、一瞬ピクッと怒りの波形を描くことはあります。でも、1回深呼吸したら、2、3秒後には“うん、オッケーオッケー”みたいな。
それはスゴい!怒りが原動力になっている人もいるなかで。
もともとは僕もそうだったんです。うーん、入れ物としての藤原大祐は感情がないという感じですかね。役とか、曲を書くときのストーリーとかに感情を乗せることは、もちろんできるんです。あと、映画を観て泣くこともめっちゃありますし。
藤原さんというと、涙もろいイメージがあります。
涙もろいですね。けど、それを止めることもできるんです。感動映画を観るときは、泣きにいっているところもあって。サウナに汗をかきにいくのと同じ感覚ですね。だから、感情をゼロにして観ることもできる。

なぜ、そのように達観した境地に?
なんでなんですかね。落ち込んでいられるほど余裕が……時間がないのかもしれない。
本作では、SNSの恐ろしい一面が描かれていますが、一方で、作品の感想を直に受け取れるなど、よさもあると思います。SNSを通しての反応で、うれしかったものがあれば教えてください。
僕のことを応援するようになってから、毎日、朝が楽しくなった、みたいな言葉はすごくうれしいです。僕の曲を聴きながら通勤・通学をすると、ハッピーな気持ちで朝を迎えられるということなのかな?僕は、自分のことを好きになって何かをしてもらいたいというよりは、僕の届けたものによって、ちょっといい気分になってもらえるくらいの距離感でいたいんです。例えるなら、ステーキではなく、食後のアイスみたいな。アイスコーヒーでもいいけど、“あー、なんか落ち着いたー”と感じてもらえるぐらいがいいなって。
本作は、観た後に家族に連絡をしたくなる映画でもあります。藤原さんも本作に携わって、そんなふうに思ったりしましたか?
たしかに、そういう作品ですね。でも僕、もともと母とすごく仲がいいので、あらためて話をする必要がないんですよね。週2ぐらいのペースで会っているし、もう友達みたいな感覚なんです。
では、あらためて、『俺ではない炎上』の公開を楽しみにしてる方へメッセージをお願いします。
この作品はSNSがテーマになっていて、1件の投稿で人生を狂わされてしまう一人の男性のお話なのですが、僕は、物語のキーパーソンとなる住吉 初羽馬を演じています。すごく身近に感じられる、自分にも起こり得そうなストーリーですが、コミカルに描かれていて、クスッと笑えるシーンも多いと思います。気軽に映画館に来てもらえると、お持ち帰りいただける“何か”があるかもしれないので。ぜひ、観てもらえたらうれしいです。

藤原大祐
ふじわら たいゆ
2003年10月5日生まれ。
前回、今年の2月に窪塚さんと一緒にご登場いただいた藤原さん。別のお仕事の後にFASTの取材のお時間をいただきましたが、フレッシュな元気で撮影とインタビューにお応えいただきました。またまだ暑さが残る中での撮影では、ニットにジャケットと暑さに耐えながらも、『暑い』など、一切弱音などこぼさず、色々なポージングをしてくれました。お仕事に対する真面目さと純粋に好きだという気持ちが溢れていたのがとても印象的でした。後編では、過去の質問から撮影を終えた『ちはやふる』での、エピソードなど盛りだくさんです。お楽しみに!
最近の出演作に、テレビドラマでは、日本テレビ『ちはやふる-めぐり-』(‘25)、テレビ朝日『伝説の頭 翔』(‘24)、NHK総合『柚木さんちの四兄弟。』(‘24)、関西テレビ・フジテレビ『リビングの松永さん』(‘24)などがあり、映画では、『大きな玉ねぎの下で』(‘25)、『リゾートバイト』(‘23)、『追想ジャーニー』(‘22)、『モエカレはオレンジ色』(‘22)、などがあり、10月31日より公開の『(LOVE SONG)』も控えている。

©2025「俺ではない炎上」製作委員会©浅倉秋成/双葉社
タイトル:『俺ではない炎上』
公開表記:2025年9月26日(金)全国公開
キャスト:阿部寛
芦田愛菜 藤原大祐 長尾謙杜
三宅弘城 橋本淳 板倉俊之 浜野謙太 美保純 田島令子
夏川結衣
原作:浅倉秋成『俺ではない炎上』(双葉文庫)
監督:山田篤宏
脚本:林民夫
音楽:フジモトヨシタカ
主題歌:WANIMA/おっかない(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
配給:松竹
クレジット:©2025「俺ではない炎上」製作委員会©浅倉秋成/双葉社
※Item Credit
・ジャケット ¥59,400
・パンツ ¥41,800
・ニット ¥41,800
全て CULLNI(カナ表記:クルニ)
《読者問い合わせ先》
CULLNI FLAGSHIP STORE(カナ表記:クルニ フラッグシップ ストア)
03-6416-1056
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:山口公一 (スラング)
スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc.)
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿
 