北村匠海
映画『しびれ』
すべての感情の枕言葉に愛がある
9月25日に公開を控える映画『しびれ』で、言葉を失い、怒りを抱えながら生きる青年・大地を演じた北村匠海さん。大地を形づくる「怒り」とその根底にある「愛」、役を通して見つめ直したご自身の過去、20年間歩み続けてきた表現活動への思いまで、じっくりと伺いました。
©2025「しびれ」製作委員会
<あらすじ>
⽇本海沿いの町に暮らす少年、⼤地は、幼少期に暴君のようだった⽗の影響から⾔葉を発しない。今は⺟の亜樹と暮らしているが、夜の仕事で⽣計を⽴てざるを得ない亜樹はほとんど家に帰らず、⽣活は苦しい。やがて亜樹と共に叔⺟の家に⾝を寄せるが、どこにも居場所はなく、ひとりで過ごしては内気になっていった。⼤地は⽗の⾏⽅を求めて⽣家を訪ねることを決意。これを境に、彼の運命は⼤きく揺らいでいく―――。
まず、台本を読んだときにどのように感じましたか?
また、大地にはどのような印象を持ちましたか?
数年前に、企画書とその時点での台本をいただいて、そこで初めて大地と触れ合いました。内山(拓也)監督と出会ったのはそれよりもっと前で、『アンダードッグ』という映画を撮っている最中でした。本作は半自伝的な話でもあるのですが、内山監督の人生をのぞかせてもらうと同時に、今に至るまでどうやって生きてきたのかという感覚が、自分と似ているなと思ったんです。
同じ出来事を経験してきたわけではなくて、社会や生きること、家族にまつわる愛に対する感覚。その度合いや方向性に共鳴する感覚がすごくあって、オファーを受けました。
でも、一番最初の段階では、大地は僕が感じ取るに、怒りや悲しみがもっと強かったんです。その後、内山監督が道を進み、さらに生きていくにつれて、脚本も光に向かう話に変わっていきました。
僕はあまり、役と自分の似ている部分を考えるタイプではないですけど、自分の人生が向かっていくタイミングとしても、「そうそう、光に向かっていきたいよね。みんなで行こうね」という感覚が、大地を通して監督と結ばれた感覚がありました。
幼少期から青年期に至るまでの大地を演じた4人に共通する“目”がすごく印象的でした。
幼少期を演じた3名の俳優の演技をどう捉え、役作りをしたのでしょうか?
彼らの芝居を現場で見ることは一度もありませんでした。スケジュール的にできなかったのもありますが。でも、監督が僕や彼らを信じているということもあって、スタッフのみんなが撮影の思い出や、大地というものを見守ってきた時間を自然と話してくれる現場だったんです。
それを聞けただけで、僕は大地を生きられる、もう大丈夫だと思えたし、この映画で大地を演じた僕らがやったことは、本当に「何を見るか、何を見つめるか」ということなので、そこへの迷いは現場に入った段階でありませんでした。彼らが何を見つめてきたのかを、現場が教えてくれたというか。
完成したものを見たときに、自分は間違っていなかったと思いました。それと同時に、映画が完成して初めて大地という人間を客観的に見たとき、愛おしく思えたんです。それは僕もそうかもしれないけど、一緒に大地を歩んでくれた、僕ら4人が成し得たことだと思います。
北村さんはこれまで、誰かの幼少期を演じることもありましたね。
そうした経験が、今回バトンを受け取る側として活きたことはありますか?
そうですね。思い返せば、いろいろな方の幼少期を演じてきました。僕は岡田将生くんの幼少期を一番演じているのかなと思いますけど、最も思い出深いのは『重力ピエロ』という映画です。
当時はもちろん言葉の意味も知らず、すごく無垢なまま演じていました。大人になってみると、「すげえな」と思ったりするんですよ。
大地を演じた彼らが、何をどこまで頭で考えてやったのかは分からないけど、今の彼らにしかできない、絶対に忘れちゃいけない芝居をしていて。それを受け取る側として、何て言うのかな。
僕は昔、『シュアリー・サムデイ』という映画でも幼少期役を演じました。当時11歳で、監督は小栗旬さんでした。僕自身に「子役」「幼少期の役」という認識があったんですけど、小栗さんはそうではなく、「君は主役だからね」と言ってくれたんですよ。その言葉をすごく思い返しました。
だから、本当に全員が主役だし、この映画で自分が第4回横浜国際映画祭の最優秀男優賞をいただいたときも、これは僕がもらった賞ではなく、「大地」がもらった賞だと思いました。彼らが大人になったときに再会して、この話ができたらなと思ったりします。
先ほどのお話にも出てきましたが、公式インタビューでは「僕が抱えていたものは怒りそのものでした」とコメントされています。
その「怒り」について、もう少し詳しく教えてください。
大地の人生を見つめてもらうと、生きることに対して、自分が一歩進むことに対して、その原動力が怒りしかないんですよね。怒りや憎しみといった、ある種ネガティブな感情を内包して、大地は生きていく。それは、そうならざるを得ない人生だったのかもしれないけれど。
でも、この映画は愛の話であって。母に対してですけど、愛しているから怒りを覚えるし、愛しているから憎しみがあって、愛しているから悲しくもなるし、愛しているから寂しい、ということです。
怒りという感情も一つではなくて、大地が過ごしたすべての時代に、まだ「怒り」という概念がない頃からあったけど、その色はそれぞれ違うような感じがしています。
でも、この物語は最後、僕が車に乗って母を連れ、光に向かっていく。怒りを忘れるということではなくて、忘れられない記憶とともに、その怒りが雪のように溶けていくような感覚はありました。
撮影初日は本当に怒りそのものをまとっていきましたけど、そんな自分が少しずつ雪解けしていく感覚がありました。すべての感情の枕言葉に愛があるから、愛がないと怒りも生まれないんだなと。それも、大地を演じるうえでの学びだったかもしれないです。
僕は日常で、人に怒ったりできない人間なんですよ。でも、友人に「匠海は本当に人に興味がないよね」と言われたことがあって。僕はそんなつもりはなかったけど、怒れないということは、そういうことなのかもしれないと思ったり。
大地は言葉を失いましたけど、実はすごく優しいやつなんだと思うし、怒れるということは、人を思う力があるんだなって。だから、ずっと生きていられたんだなとも思います。
劇中ではセリフがほとんどなく、怒りをまなざしや表情で表現する姿が印象的でした。
そうした演技について、内山監督とはどのようなお話をされましたか?
監督とのコミュニケーションは、言葉というより、ほぼハンドサインみたいなことが多かったです。「何を君が見るか」だ、という。
これは大地だけではなくて、現場にいたスタッフさん全員がそうだったと思うんですけど、「今、全員で何を見るか。その先頭を切るのは大地だけど、何を見つめるかだよ」というのは、キーワードでした。
だから僕は、見つめるということだけをしました。見つめることは、忘れないことだし、残ることだし。記憶には匂いもあるし、景色として覚えていたりもする。それが美化されることもあるけど、忘れちゃいけないものを、この映画と大地を通してたくさん見ました。
見ることができたから、こういう作品になったんだと思うし、自分にとっても、忘れてはならないものの連続だったなと思います。
大地のタトゥーやピアス、コート、部屋に飾られたアート、車などにもこだわりを感じました。
あのテイストはどこから生まれ、監督とはどのように話し合いながら作ったのでしょうか?
また、役作りにどんな影響がありましたか?
すべての始まりがどこかは分からないですけど、衣装合わせの段階で、タトゥーの話や何を着るかということも含めて、匂いも香水合わせのようなことをしたり、そういうところから大地を作っていきました。
ある意味、僕の演じる青年期になってからタトゥーが増えたり、洋服も含めて大地が何をまとうか。それはたぶん、偽りでもあるし、見栄でもある。でも確実に、大地が選んできた道でもあって。決して道を踏み外したわけではなく、彼にとってはすべてが、明日を迎えるために必要だった。そういう生の実感が詰まっていたんだろうなって。
だからタトゥーも、自分を汚す、穢す、傷をつけるようなことが大地には必要で、すべてに意味がある。あの車も、ただかっこいいから乗っているわけではなくて、すべてが大地の生きるために必要なピースだったと思います。
車について僕は案を出していませんが、自分が思い描くものとすべて重なっていたので、疑いはまったくありませんでした。美術を見た瞬間に「そうだよね」と思えたんです。
家にもアートが飾られていますけど、ものすごく閑散とした無機質な部屋で。そのちぐはぐさも含め、あの部屋には大地の悲しみも、冷たさも、温かさも詰まっている。
マフラーを巻くシーンがすごく思い出深いですけど、あの瞬間だけ、あの部屋が明るく見えたんです。やっと色が入ったというか。それは愛を知った、愛を感じた瞬間ですよね。そういう一つひとつのものや場所が、大地をかたどるために必要だったと思います。
役作りで香水を使う方もいますが、今回は決まった銘柄を使われたのですか?
そうですね、使いました。スタイリストさんとも「そうだよね」という共通認識があって。用意していただいたものをつけ比べながら、「これじゃないかな」と決めました。
僕は役によって香水を変えますし、つけない役も多いんですけど、今回は役に入るために必要な要素としてすごく大きかったです。
匂いは、他者に何を感じさせるか、何を香らせるかということだから、大地を演じるうえで本当に大事な要素でした。
今回の役を演じている最中、あるいは演じた後に、ご自身の過去と改めて向き合うことはありましたか?
ありましたね。自分が人生において何を感じてきたか、ということです。僕の家族はすごく温かくて、今でも家族仲がいいですし、この間も家族とご飯に行ったりする仲なんですけど。
でも、自分自身に巻き起こった出来事を振り返ると、僕の根源は正直悲しみにもあふれていて。8歳から俳優をやっていると、いろいろな経験をするので、その経験を思い返す瞬間はすごくありました。
出来事そのものを振り返るというより、大地を演じるうえで、「人生を生きてきて、自分は何を抱えてきたんだろう」「今、何を抱えているからこの作品と出会ったんだ」ということを考えました。
それは悲しみなんだけど、自分で作る音楽の歌詞でも、愛を歌ったものがすごく多いんです。オファーを受けたとき、自分が今向かうべき方向、今何を言葉にするのかということと、内山監督と自分がそれぞれ歩んできて、今何を形にしなきゃいけないのかということが一緒というか。僕のテーマも愛だし、生きることだし。
僕は、もう5分後10分後には死ぬかもと思って生きているようなところがあるんです。何があるか分からないというか。自分の身の回りで本当に何が起きるか分からない人生だったから、それもテーマだったので。
大地を演じて、改めて自分が生きてきて何を感じてきたのかを、思い返す瞬間は多かったですね。
本作のタイトル『しびれ』にちなみ、仕事やプライベートでしびれた瞬間はありましたか?
いっぱいありますけど、そうだな…… 以前、「あ、死ぬ」と思う体験があったんです。
千原ジュニアさんと僕が出演した『スライス・ザ・ワールド 渋谷スクランブル交差点からまっすぐ地球1周してきた!』という旅番組があって、僕はモロッコとアメリカに行きました。
モロッコのカサブランカ空港からタンジェまで、飛行機で飛ぶんですけど、風の影響などで着陸に失敗して。聞いたこともない悲鳴と、「これはもう死ぬんだな」と思うレベルの揺れで。2度着陸しようとしたんですけど、できませんでした。その間も、悲鳴が鳴りやまないぐらい揺れているんですよ。ただ着陸できない、ということではなくて。
着陸しようとして揺れた瞬間に、もう自分は死ぬんだなという、ある意味、走馬灯みたいな時間もありました。そこからカサブランカ空港に戻り、そこには着陸できて。陸路で約6時間かけてタンジェへ向かうことになったんですけど。
あの時、乗客全員でバスに乗って、みんなで朝食を配り合いながら食べて見た朝日が、しびれる体験でした。
劇中で大地は歩みを止めない人物として描かれています。
北村さんご自身が歩みを止めずに続けていることはなんですか?
それはもう、「芸能における表現活動」としか言えないかなと思います。8歳からノンストップなので。たくさんの素敵な映画に出会わせてもらったり、ドラマに出させてもらったりしてきました。
初めての仕事はCMでしたけど、そこから今に至るまで20年間、ずっと仕事をさせてもらっています。どうして自分は歩み続けられたんだろうと思ったりもするし。でも、それはひとえに、作品との出会いの運がよかったからなのかなと。
中学生や高校生の頃は、進路として何になろうというものがなかったタイプで。でも、続けてこられたのは、好きだからだと思います。演じることや、音楽をやることが好きだから続けているんだろうし。
親からは、子役の時や中高生ぐらいのとき、本当に「いつでも辞めなさい」「いつだって自分が思ったタイミングで辞めなさい」と言われていました。ある意味、何の呪縛にも縛ることなく、干渉しすぎず僕を応援してくれていたので。歩みを止めずにやってこられているのかなと思います。
北村匠海
きたむら たくみ
1997年生まれ。
2008年『DIVE!!』で映画デビュー。2011年に4人組バンド「DISH//」を結成し、メインボーカルとギターを担当する。『君の膵臓をたべたい』(17)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の新人賞を受賞。近年の主な映画出演作に『東京リベンジャーズ』シリーズ『明け方の若者たち』(21)、『とんび』(22)、『スクロール』『法廷遊戯』(23)、『悪い夏』『金子差入店』『愚か者の身分』(25)、『ほどなく、お別れです』『SAKAMOTO DAYS』(26)など。
大地の怒りの奥にある愛、そしてご自身の根源にある愛について、率直に語ってくださった北村さん。これまで表現活動を振り返り、「好きだから続けている」と話す言葉からも、20年間の歩みが伝わるインタビューとなりました。
コンクリートを背景にした撮影では、レザージャケット姿でのアンニュイな表情とクールな眼差しが抜群にかっこいい! 北村さんの凛とした立ち姿と、内側に熱を秘めているような独特の空気感も相まって、素敵な写真をたくさん撮影することができました。今後ますますのご活躍を応援しております。北村匠海さん、約4年ぶりのご登場ありがとうございました!
©2025「しびれ」製作委員会
映画『しびれ』
2026年9月25日(金)公開
出演:北村匠海 宮沢りえ 榎本司 加藤庵次 穐本陽⽉ 奥野瑛太 ⾚堀雅秋 ⾚間⿇⾥⼦ / 永瀬正敏
監督・原案・脚本:内⼭拓也
配給:NAKACHIKA
※Item Credit
ジャケット¥501,600、Tシャツ¥52,800、パンツ¥104,500、ブーツ¥212,300(アワー レガシー)、リング¥73,500(トムウッド)
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:小原梨奈
スタイリスト:丸尾里奈
インタビュー・記事:小谷康貴