杉野遥亮
舞台『夜への長い旅路』
この旅路が、自分の一挙手を考える
キッカケとなりますよう――
Stage of FAST -Stage 24-
この世に生を受けた瞬間から、私たちと〈初めて〉との長い付き合いが始まる。誰もが〈初めて〉の背中を必死に追いかけては転び、やっとの思いで追い越し、新たな自信を手に入れてゆく。「獅子の子落とし」という言葉の如く、〈初めて〉が私たちを強くしてくれると言っても過言ではないだろう。初挑戦である舞台を「怖い」と語りながらも、力強く「指標にしてきた」と言い切った杉野さん。今の時代だからこそ届けたい、杉野さんの〈初めて〉の幕が上がるまであと少し―
COCOON PRODUCTION 2021
DISCOVER WORLD THEATRE vol.10
『夜への長い旅路』
撮影=Tadayuki Minamoto
<あらすじ>
1912 年、夏のある日の朝。俳優ジェイムズ・タイロンの別荘の居間で、家族が朝食後の団欒を楽しんでいる。しかしその会話から徐々に明らかになるのは、彼らの実像、家族を覆う暗い陰である。父ジェイムズは異常な吝嗇家であり、母メアリーは麻薬の常習者、長男ジェイミーは酒と女にだらしない放蕩息子で、次男エドマンドは肺を病んでいる。メアリーは昔、幼い息子ユージンを亡くしたことで罪の意識にさいなまれていた。その後にエドマンドを出産し、産後の病気をきっかけにモルヒネ中毒に陥ってしまったのだ。家族の確執が次第にあぶり出されていく中、再びモルヒネに手を出したメアリーが幻覚に襲われ始めて……。
<次男・エドマンド>
結核を患っているタイロン家の次男
エドマンド × 杉野遥亮
先日、演出家のフィリップさん(フィリップ・ブリーン)に、原作者であるユージン・オニールさんの生き様や家族のことをお聞きしたんです。そのお話を聞いた時に、“ユージン・オニール”という一人の人間を知ることが、エドマンドという青年を理解することに繋がると感じました。お話しした際に、フィリップさんが「私の時間はあなたの時間です(My time is your time.)」という言葉をくださって。「いろいろと聞いていいんだ」と思える環境を作ってくださったことへの感謝と同時に、聞くこと、知ること自体が役作りだと思いました。舞台自体が初めての経験なので、未知なものにぶつかることは怖いんですが、もう今は「ぶつかっていくしかない」と思っています。
俳優デビューから5年目。
様々な作品にご出演されている杉野さんですが
やはり〈初めて〉は怖いものなんですね。
そうですね。映像作品が初めて決まった時も「怖さ」はあったと思うんです。大勢の前で演技をする、知っている人たちと一緒に何かを成す、といった緊張からくる「怖さ」が。でも、舞台の「怖さ」はそれとは違っていて。初心者としての怖さというよりも、「お届けする人に失礼のない芝居をしないと」といった技術的な面での怖さを感じました。
舞台が決まった時よりも
少し時間が経った今の方が
「怖さ」は膨らんでいますか?
逆ですね。舞台が決まった時は、自分にも仕事にも自信を持てていなかった時だったんです。生き方に関しても軸を見つけられていない時だったので、不安な気持ちが大きくて。舞台が決まり、自分の中でこの舞台を一つの指標として日々を過ごすようになったことで、少しずつ「舞台に追いついてきたな」という感覚が持てるようになりました。
これから稽古を通して
さらに進化される杉野さんが楽しみです。
今回、作品の題材を聞いた時の
率直な感想を教えてください。
最初、舞台のお話を聞いた時は「『夜への長い旅路』という舞台を大竹しのぶさんと一緒にやります」という情報だけ伺っていたんです。舞台をやる、しかも大竹しのぶさんと、ということが衝撃過ぎて題材については深く考えていませんでした。戯曲を読んでみてユージンさんが苦しみながら生き描いた作品が、今を生きる人たちの光になるんじゃないかな、と思いました。
原作はかなり前に書かれた作品ですが、
「現代を生きる人たちに伝えたい」
と思う部分はありましたか?
ありました。むしろそういった部分が主でしたね。家族愛の問題って大なり小なり各家庭にあるものだと思うんです。家庭にある不安なども含めて「今の時代に必要な作品だな」と感じました。稽古が進んでいく中で、もっと深くそういった部分を理解していきたいと思いつつ、すでに共感している部分も多くて。ユージンさんの描いた「(家族なのに)ホッとできない、安心できない」という感覚や「愛しているのに憎い」と感じてしまう愛憎の部分は共感できるな、と。加えて、僕自身「自分は何のために何処から来たのか」と悩んだ時期があったので、ユージンさんの描く自分自身に対する考え方にも共感しました。
自身についての疑問に関しても共感されたんですね。
それを考えた背景として
自粛などの影響もあったんですか?
自粛中に自分の考え方などの断捨離をしたんです。自粛期間前、仕事に対してナイーブになっている自分がいて。「向いてないと思ったら辞めよう」、「楽しくないと感じるのが続いたら辞めよう」と思っていた時期があったんですよ。でも、自粛期間に入って決まっていた作品がガラッと変わっていく中で、芝居や仕事に対して一度ポジティブに向かう準備が出来て。そうして出会えたのが『教場Ⅱ』という作品。これまでもそうだったんですが、自分がナイーブになった時は、そのタイミングで出会う作品たちが「今、これが楽しい!」と思える自分まで連れていってくれていたんです。だから「ここまで続けてこられたんだな」と、改めて気づくことが出来ました。
Message for『夜への長い旅路』
僕、この作品を観客として観に行ったとしたら「自分だったらあそこでこんな風に声をかけただろうな」や「こうあればいいのにな」と感じると思うんです。だからといって、実際に家族に対して思い描いた自分で接することができているのか、というのはまた別の話で。だからこそ、観に来てくださった方々にはこの作品を通して思ったことを「家族にやって欲しい」。そして僕自身に対しても「やるべきだ」と伝えたい。この作品には、現代の人々が抱える家族愛へのヒントがきっとありますし、そのヒントは時代を超えて届くと信じています。寄り添ってくれる作品であり、後押ししてくれる作品でもあると思うので『夜への長い旅路』が家族や自分の在り方について考えるキッカケになってくれたら嬉しいです。
杉野遥亮
すぎの ようすけ
1995年9月18日生まれ。
熟考しながら経験を読み込む秀麗な横顔、自身の手で白紙のページに人間味を重ねてゆく25歳。
COCOON PRODUCTION 2021
DISCOVER WORLD THEATRE vol.10
『夜への長い旅路』
【東京】2021年6月7日(月)~7月4日(日):Bunkamuraシアターコクーン
【京都】2021年7月9日(金)~18日(日):
京都劇場
作:ユージン・オニール 翻訳・台本:木内宏昌
演出:フィリップ・ブリーン
美術・衣装:マックス・ジョーンズ
出演:大竹しのぶ 大倉忠義 杉野遥亮 池田成志 ほか
※Item Credit
シャツ¥31,900/ウジョー(エム)
他スタイリスト私物
【お問い合わせ先】
エム
東京都港区南青山5-15-14
03-3498-6633
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:NEMOTO(HITOME)
スタイリスト:伊藤省吾(sitor)
インタビュー・記事:満斗りょう