上村侑
映画『許された子どもたち』
身を投じきった主演作を
“作品”として受け止められるようになるまで
FASTピックアップの「NEXT BREAK」の
言葉を届けるこのコーナー。
今回は、映画『許された子供たち』の好演で
注目を集めた18歳の上村侑さんに迫りました。
映画『許された子供たち』
<あらすじ>
その衝撃的なタイトルと内容により物議を醸した監督作『先生を流産させる会』(11)で長編デビューを果たした内藤瑛亮が、再び自主映画のフィールドで世に放つ待望の新作。近年は『ライチ☆光クラブ』(15)や『ミスミソウ』(17)といった原作物の商業映画でメガホンを取ってきた内藤監督が「“撮りたいから撮る”という映画作りの原点に立ち返った」と語る本作は実際に起きた複数の少年事件に着想を得て、いじめによる死亡事件を起こした加害少年とその家族、そして被害者家族の姿を描いたオリジナル作品である。本作を制作するにあたり、撮影前には小学生から高校生までの16人の子どもたちを対象としたワークショップが開催された。そこでは、少年犯罪を扱った映像作品をテキストにした演技レッスンや、実際の少年事件に関する資料の朗読、ゲスト講師による少年法の解説など、映画制作という枠を超えた“教育的”アプローチが取られ、撮影前から参加者に問題意識を育ませる手助けになった。こうしたワークショップを経て開始された撮影は、監督のこだわりから、2017年の夏、年をまたいで翌年の冬、そして春に断続的に行われた。季節による風景の変化や役者の成長を取り込み、作品に豊かな広がりを加えていった。『先生を流産させる会』と同時期から長年温め続け、ようやく実現にこぎつけた内藤監督渾身の一作は、我々に様々な問いを投げかける。果たして子どもを殺した子どもは罪とどう向き合うのか。周りの大人たちはそんな子どもをどう受け止めていくのか。いじめや少年事件という社会問題を通じて、現代に蔓延する生きづらさを鋭く切り取った本作は、観る者の価値観や倫理観を激しく揺さぶるに違いない。今、内藤監督による“教育映画”2時間目が開始を告げる。
<市川絆星(いちかわ・きら)>
中学一年生の不良少年グループリーダー。同級生の倉持樹(くらもち・いつき)を日常的にいじめており、いじめのエスカレートによって樹を殺してしまう。
FAST初出演ありがとうございます!
読者の皆様に自己紹介をお願いします。
上村侑と申します。今年の春に高校を卒業しました。好きな食べ物はラムネとお肉で、休みの日はスポーツをやったり好きなジャズ音楽を聴いたりしています。ジャズ好きになったキッカケはスティービー・ワンダーさん。他のジャズミュージシャンの方の音楽を聴き始めたのはここ最近です。ミュージックアプリに自分のよく聴いている曲に関連した曲を自動でピックアップして再生してくれる機能があるんですけど、その機能を活用しているうちにどんどんハマっていって。先ほど(撮影中)流していた『Hard to Handle』(The Black Crowes)という曲は『アメリカズ・ゴット・タレント』という海外の公開オーディション番組で13歳くらいの女の子がめちゃくちゃカッコよく歌っていたのをキッカケに好きになりました。
俳優になったキッカケ
小さい頃から人前に出るのが好きで、よくふざけているような子供でした。中学1年生の頃に学校に行けない時期が半年間ほどあって、何もやっていない僕を見かねた母親から「何かしていないと人としてダメになっちゃうよ」という話をされたんです(笑)。ただ、当時の僕はやりたいことが多すぎて、何をするにしても目指すべきものが見つからなかったんですよ。そんな時に「俳優になればやりたいこと、やりたい職業が全部演じられるんじゃないか」と思って(笑)。そこから俳優を目指すことにしました。
特に「やりたい!」と思っていた
職業は何だったんですか?
すごく普通なんですが、警察官とかパイロットとか子供の夢が詰まったカッコイイ職業です。役として考えるのであれば、アクションありきのボディーガードとか、陰のある暗殺者とか…(笑)。身体を思いっきり動かせる職業であれば何でもやりたいと思います。
確かに俳優さんであれば、
そのどれもが経験可能ですよね。
俳優として大きな一歩となった
映画『許された子供たち』の主役。
決まった時の感想を教えてください。
内藤監督(内藤瑛亮)のオーディション兼ワークショップに2ヶ月ほど通って、ある日、ワークショップ参加者が一名ずつ呼ばれて役を言い渡される日がありまして。内藤監督から「市川絆星役、主役だよ」と言っていただいたんですが、その時は「そうなんだ」と思ったくらいであまり実感がなかったんです。「そっか、主役か~。みんなと楽しく映画作れればいいや。」みたいな(笑)。撮影をしている時も「主役だから頑張らないと」みたいなプレッシャーは特になく、ずっとその感覚が続いていました。「主役だ」という実感が湧いたのは初号試写の映像を観た時。何百人ものクレジットの中で自分の名前が一番最初に出てきた時にグッとくるものがありましたね。「これだけの人に支えられて主演をやらせていただいてたんだな」と。
ワークショップの段階で
映画の題材についてのお話はあったんですか?
「いじめ」が題材の映画を作ることは最初からアナウンスされていました。ワークショップ内でいじめについての討論をしたりもしましたし、人のやった悪いことを自分がやったように話す、といったレッスンもして。何だかずっと道徳の授業を受けているような感覚でした(笑)。
いざ台本を読んでみてどんな印象をもたれましたか?
特に「やりづらい役だな」といった印象はなかったと思います。それまでワークショップで「いじめる側の心理状況」などを学んでいたおかげで「なるほど」と、気持ちが分かる面もありましたし。台本に描かれているキャラクターの中で「絆星は演じやすそうだな」と思ったのを覚えています。
濃ゆい2か月間だったんですね。
2ヶ月のワークショップを経て、
考え方に変化はありましたか?
意外とあまり変わらなかったかもしれないです。僕自身も私生活でいじめに触れることがあったので「いじめられる側」と「いじめる側」、どちらの気持ちも分かる部分があって。変化とは違うんですが、2ヶ月を経てそこの感覚がより研ぎ澄まされた気はします。
実際に撮影期間に入ってみて、
現場はいかがでしたか?
撮影自体は夏編の撮影と冬編の撮影あわせて約1年ほどあったんですが、夏編は比較的にみんなとワイワイするシーンが多くて楽しかったです(笑)。冬編が始まってキャストも内容も変わってからは、撮影の空気感がガラッと変わりましたね。今まで「いじめる側」だった絆星が「いじめられる側」になることで、僕自身もキャストのみんなと楽しく和気あいあい、とはいかなくなって。内藤監督からの「このシーンの時はあまり他の人とは話さないほうがいいかもしれない」といったアドバイスも頂き、役者として「こういうところまで役作りするものなんだな」と学ばせていただきました。
お話していると、
とても明るい上村さんですが撮影中に私生活で
絆星に引っ張られることはありましたか?
めちゃくちゃあったと思います(笑)。撮影当時はまだ中学3年生で、演技経験もほとんどない状態だったので「演じよう」と思うとどうしてもわざとらしくなっちゃう気がしていて。なので、とことん『市川絆星』の人格と「上村侑」の人格を一つの身体で共有させようとしていました。一番グレていた時期だったと思います(笑)。当時の話を母親や担任の先生に聞くと「非行少年っぽさがどんどん激しくなっていっていた」らしく…(笑)。撮影が終わって、自分から絆星が完全に抜け切るまでに半年くらいかかりました(笑)。半年後に事務所の社長から「顔が優しくなったね」と言われた時に「あ、絆星が抜けたな」と思いましたね。
どのシーンの撮影も思い出深いと思います。
中でも特に覚えているシーンはありますか?
冬編の討論会のシーンは本当に精神的にまいりそうでした(笑)。あれだけクラス全体が敵に見えることなんてそうそうないですし、撮影が終わって眠りにつく時もみんながガヤガヤしている雰囲気が残響しているんですよ。「実際にいじめられている子やいじられている子たちは、もしかしたらこんな気持ちなのかな」と思うと、生きづらいだろうな、と。あの撮影を経験して、頭では分かっていたけれど心では分かりきれてなかったと気づきました。
中学3年生でその経験をして、
気づきを得るなんてすごいです。
完成した作品を観てみていかがでしたか?
初めて完成した作品を観たのが、絆星が完全に抜けきった高校2年生の9月だったんです。作品があまりにリアルすぎるが故に「自分の思い出」のように感じたのを覚えています。「あぁ、過去にこういうこともあったよね」って。だんだんと歳を重ねるうちにやっと客観視できるようになってきて、「この作品を本当に届けたい人は誰?」というのを考えることができた時に初めて、“作品”として観れるようになったと感じましたね。
毎日映画コンクール
スポニチグランプリ新人賞を受賞されたり、
衝撃的な題材を扱った作品としても
注目を集めましたが
周りからの声はいかがでしたか?
声としては二極化していました。作品の本質を捉えて「こういう訴えがあったよね!」といった感想を言ってくださる方もいれば、「何か映ってたね!」という感想を言ってくる友達もいて、「いや、そりゃそうだろ!」って(笑)。どちらの感想でもすごく嬉しかったんですけど(笑)。いろんな感想や受け取り方があって、僕自身新たな発見をたくさんさせてもらいました。映画が公開されて「良い作品に巡り会えたな」と思う反面、これから自分が発言していく内容などに「気を付けないといけないな」と思うことも増えてきた気がします。
反響を受け取ったからこその意識の変化ですね。
今後、上村さんのやってみたい役を教えてください。
絆星の印象がなくなるほどの良い人の役をやってみたいです(笑)。絆星の印象は絆星のままで残っていて欲しいんですけど、「上村侑」としては絆星の怖い印象を拭いたい気持ちもあり…(笑)。僕、「ザ・芸能人」というよりは「なんか探したらこんな人いそうだよね」と思われるような人間味のある役者さんになりたいんです。とにかく人間らしい、自然な演技のできる役者になりたいと思います。
現在18歳の上村さんですが、
私生活ではどんな大人を目指したいですか?
どんな大人か~…。難しいけれど、強いて言うなら「誰かが転んだ時に一番に駆け寄ってあげられる大人」ですかね。小さな望みで言うと、深夜を徘徊してみたい(笑)。やっぱり今出来ないことを「大人だから出来る!」という力で叶えていきたいと思います。
Message From Yu Uemura
応援してくださっている皆さんのおかげで今ここに立てています。本当に感謝してもしきれません。あと、実物は全然絆星っぽくなく誰とでもフランクに話したいタイプの人間なので、どこかで見かけた時は気軽に話しかけていただけると嬉しいです!
上村侑
うえむら ゆう
2002年11月2日生まれ。
カラフルな心情を靴紐でキュッと結び、“役者道”の歩き方を興がりながら探求する18歳。
映画『許された子供たち』
2021年4月25日(日)DVD&BD発売
DVDレンタルも同日スタート
※商品によりそれぞれ特典映像の内容が異なります
監督:内藤瑛亮
出演:上村侑 黒岩よし 名倉雪乃 ほか
※Team Credit
カメラマン:YURIE PEPE
スタイリスト:カワセ136
インタビュー・記事:満斗りょう