中川大志
アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』
自分の夢に大志を抱く恒夫とのシンクロストーリー
人は、本当に好きなものを目の前にすると「感謝」がこみ上げてくる気がする。しかし、その「感謝」を察知する感覚神経は意外と鈍い。「興奮」や「喜び」の底に沈殿してしまうことだってある。中川さんは言った。「現場がキラキラしていた、ここに立てていることへの感謝を感じた」と。「感謝」の上で芽を出した「好き」を根幹に開く数々の花は、そのどれもが優しく美しい。役の人間性など関係なく、作品に託された「優しさ」こそが私たちの「好き」を刺激してくれるのではないかとすら思う。多くの作品に出演し、思いっきり“表現”を咲かせてきた彼の「芝居に対する想い」は、ジョゼと同じように、いつだって清新で燦燦としている
アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』
©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project
<あらすじ>
趣味の絵と本と想像の中で、自分の世界を生きるジョゼ(cv.清原果耶)。幼いころから車椅子の彼女は、ある日、危うく坂道で転げ落ちそうになったところを、大学生の恒夫(cv.中川大志)に助けられる。海洋生物学を専攻する恒夫は、メキシコにしか生息しない幻の魚の群れをいつかその目で見るという夢を追いかけながら、バイトに明け暮れる勤労学生。そんな恒夫にジョゼとふたりで暮らす祖母・チヅは、あるバイトを持ち掛ける。それはジョゼの注文を聞いて、彼女の相手をすること。しかしひねくれていて口が悪いジョゼは恒夫に辛辣に当たり、恒夫もジョゼに我慢することなく真っすぐにぶつかっていく。そんな中で見え隠れするそれぞれの心の内と、縮まっていくふたりの心の距離。その触れ合いの中で、ジョゼは意を決して夢見ていた外の世界へ恒夫と共に飛び出すことを決めるが……。
<鈴川恒夫>
大阪の大学に通う4年生。メキシコに生息する魚に魅せられ、海洋生物学を専攻している。卒業後に留学するべく、ダイビングショップをはじめいくつものバイトを掛け持ち中。
鈴川恒夫 × 中川大志
恒夫の、意思が強くて負けず嫌いなところは僕と似ている気がしました。彼も「自分の決めたことに突き進んでいく」というタイプなんだろうな、と。僕もどちらかと言うと、やらないと気が済まないタイプなので(笑)。一方で「この気持ちが分からないな」という部分は特になかったかな。年齢もそうですけど近しいものがあったんだと思います。
恒夫は「夢に向かってポジティブに動いている役」
だと感じたのですが、
そんな恒夫から何か学んだことはありますか?
僕、今まで小さな挫折はたくさんしてきたのですが、恒夫のように本当の意味での挫折は経験したことがないんです。今回演じてみて、本当に道が閉ざされてしまった時、それでももう一度立ち上がる“強さ”は計り知れないと感じました。恒夫一人の力で起き上がったわけではないけれど、「道が閉ざされた瞬間」に対して立ち向かおうとした時の彼のエネルギーは「すごいな」と思って演じていました。
中川さん自身は挫折や壁を
どのように乗り越えて来られましたか?
道があったから頑張れたんだと思います。「どうにもならないこと」ってあるじゃないですか。気持ちだけではどうにもならないこと。僕の場合はそうじゃなかったから、いくらでも「やるしかない」と思えたし、根底に「この仕事が好き」という想いがあったので乗り越えようとすることが出来たんじゃないかな、と。今の仕事を「辞めたい」と思ったことは一度もないんです。逆に「悔しい」と感じることがあるからこそ「頑張ろう」と思えるんですよね。
悔しさがバネなんですね。
今作は「声優」としてのご出演ですが、
台本上でイメージしていたジョゼと
清原さんの声がのったジョゼでイメージの
変化はありましたか?
台本を読む時も、ある程度「どんな感じかな」と想像しながら読むんですが、清原さん演じるジョゼの声を聞いて初めて「なるほどな」と思いました。まず、ジョゼって難しいキャラクターだったと思うんですよ。アニメ的な芝居をしすぎちゃうと作品の世界観的に浮いちゃうし、だからと言ってナチュラルにやりすぎてもハマらないし…。これは恒夫にも言えることなんですけど「アニメ的」にやるか「すごく自然」にやるか、どちらの表現も選択肢としてあるところがこの作品の一番難しいところだったんです。だからきっと僕ら役者に任せていただいたんだ、と思っているんですけど、そこのバランスが「ジョゼは特に難しいだろうな」と僕は思っていて。そんな中で清原さんが演じたジョゼは、すごく自然で人間味があって感情移入も出来るのに、ポップで可愛くてパワフル。いろんな表情を見ることが出来て、ジョゼがさらに好きになりましたね。
「アニメ的」な表現と「ナチュラル」な表現。
そのさじ加減は監督さんを頼りに?
はい。監督にテスト収録の時にその話をされたんです。「声優さんにしか出来ないこともあるけれど、役者にしか出来ないこともある。この映画ではその絶妙なラインを目指す」と。結局、アニメーションなので表現が記号的な部分はあるんですけど、そういったところはアニメの表現に任せて。かといって「アニメーションをキャラクターにしすぎたくない」という要望もあって。普段、僕らのやっているような生っぽい芝居になりすぎても噛み合わないし、その辺のさじ加減は僕らには分からなかったので、監督の指示を頼りにやっていました。
では最後に、
ジョゼは世界をすごくキラキラと捉えていて
観ているこっちまで「楽しくなるな」と感じたのですが
中川さんが最近、
キラキラと捉えた光景を教えてください。
現場ですね。今年はなかなか現場に行けない時間や、仕事に行けない時間、今までになかった「離れなきゃいけない時間」があったじゃないですか。それを経て、久々に現場に立った時に今まで見えなかった「現場に立てることへの感謝」が見えました。今までだったら淡々と当たり前に過ごしていた日々のはずなのに、すごく嬉しくて幸せに感じたんです。「こういった時間がなかったら、こんな風に改めて思うこともなかったんだろうな」と思いますね。それくらい「今、ここに立てている」ってことが嬉しかったです。
そう思うことはすごく増えましたよね。
多分そうだと思います。学校も、学生の時は「休みたいな」「めんどくさいな」とか思っていたけど、これだけ長いこと友達に会えなかったり、学校に行けなかったりするのは辛かったんじゃないかな、と思います。離れる時間って実はすごく大きな存在で、この存在があったからこそ気づかされることがたくさんあった気がしますね。少なくとも僕は日常の幸せを改めて感じることが出来ました。
中川大志
なかがわ たいし
1998年6月14日生まれ。
難解な“表現”という怪物を理解し、
純粋な「芝居愛」でまるごと抱き寄せてしまう22歳。
アニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』
2020年12月25日(金)全国ロードショー
原作:田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」(角川文庫刊)
監督:タムラコータロー 脚本:桑村さや香
出演:中川大志 清原果耶
宮本侑芽 興津和幸 Lynn 松寺千恵美 盛山晋太郎(見取り図)リリー(見取り図)
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ディレクション:町山博彦
インタビュー・記事:満斗りょう
ページデザイン:笹和紗