水上恒司
デビュー当時から大事にしてきたことをこれからも大事にし続けたい
2018年にドラマ『中学聖日記』(TBS系)で俳優デビューすると、2020年には『弥生、三月-君を愛した30年-』でスクリーンデビュー。その後も多くの映画やドラマで主演を務めるなど、最も勢いのある役者の一人である水上恒司さん。W主演を務める映画『九龍ジェネリックロマンス』にちなんだ質問のほか、役者という仕事を広い視野で見つめた目標などもお聞きしました。

映画『九龍ジェネリックロマンス』監督の池田千尋さんの言葉で、印象に残っているものがあれば教えてください。
去年の夏、池田さんと初めてお会いしたときに、「水上くんの一番奥にあるものを、私はつかみたい、見たい」と言われたんです。そんなことを初対面で言われたことがなかったので、ストレートな方だなと思いましたけど、うれしかったです。監督と役者という関係のなかで、いろんなコミュニケーションのとり方がありますが、池田さんとそういうやり取りから始まったのも、一つのご縁ですし。撮影を通して、月イチぐらいで連絡を取り合う仲になれたこともうれしいですね。
本作は「懐かしさ」がテーマの一つですが、水上さんが懐かしさを覚える場所・モノ・コトはありますか?
人間って、生まれてから18歳までと、18歳から死ぬまでの体感時間が一緒だといわれるじゃないですか。ちょっと今、思い出せないんですけど、横文字だったかな……そういう法則がありますよね。(*ジャネーの法則)僕は、その期間に経験したものを全部懐かしく感じるんじゃないかなって思います。
では、水上さんの18歳までの人生のなかで、色濃く残っている瞬間というと?
いろいろありますが、一番は小学4年生のときですかね。僕は父の影響で、小学4年生から本格的に野球に取り組むようになったんです。先輩方もいっぱいいるクラブチームに所属していて、レギュラー争いが激しく、だから誰よりも早く行こうと思って、練習が始まる2時間前に着くようにしていたら、「恒司、練習時間を間違えてないか?」と言われたのを覚えています(笑)。

野球の思い出が、懐かしさに直結しているのですね。
はい。でも、野球そのものというより、当時見た光景や感じた暑さみたいな、五感をよく覚えています。夏にヘルメットをかぶって、自転車で練習場に行くときの国道沿いの道、車の排気ガスや熱気。途中にある砂利道で、“スリップしたら危ないな”と思ったこと。坂道で“(自転車をこぐ)脚がキツいな”と思いながら、“でも、がんばって練習場に行くんだ!”と、必死にこいでいたこととか。懐かしいですねー。
本作の物語にちなんで……水上さんがジェネリックな世界を構築できるとしたら、どんなふうにしたいですか?
えー!考えたことがなかったです。ジェネリックの世界を構築するなら……いや、ないかなぁ。パラレルワールドとかも、あったらおもしろいなと思いますけど。別の世界に行っている人や、逆に別世界から来ている人がいたらおもしろいとは思います。今のところ、交通手段というか移動方法がわからないので。いかに現実世界で豊かに生きられるか、ということしか考えてないかもしれない。
デビューから約7年。デビュー作が大きな話題を呼び、大河ドラマや朝ドラにも出演。日本アカデミー賞を2回受賞するなど、役者なら誰もがうらやむ経歴をお持ちですが、ご自身の現状についてどう感じていますか?
恵まれているなと思います。でも去年、(日本アカデミー賞の)主演男優賞にノミネートされて。役所広司さん、阿部サダヲさん、神木隆之介さん、鈴木亮平さんという錚々たる役者さんたちと一緒に舞台に上がりましたけど、何かが変わったかというと、特になくて。賞をいただいたからといって、仕事場で芝居をすることには関係ないですから。別に偉くなるわけでもないですし、周りの反応が変わるわけでもないですし。それよりも、デビュー当初から思っている大事なことだったり、大事にしてきたことを、これからも大事にし続ける……それって、簡単なことではないと思うので、そこに僕は価値を感じています。

デビュー当初から大事に思っていることとは?
誠実に向き合うことですかね。役と、自分と。
さらなる目標はありますか?
もっと、この業界の環境をよくしたいです。今までにもやろうとした先輩方や、今まさにやっている方もいらっしゃると思いますが、なかなかうまくいっていないように感じるので、そういった先輩方の努力を僕らが引き継いで、何かしらの形にしていきたいです。

水上恒司
みずかみ こうし
1999年5月12日生まれ。
撮影開始時には丁寧では、言い表せられないくらいすごく丁寧で誠実にこちらにご挨拶をしてくださった、水上さん。カメラにはたくさんのかっこいい水上さんの姿を収めることができました。現場がバタバタしていてもドシっと構えていて余裕もあり、ポージングなどをお願いしても、物腰低く応えていただき、誰に対しても敬意と尊敬を持って接している姿に素敵だと感じたスタッフでした。これからも自分に対してのストイックさと周りに対する優しさと誠実さで水上さんが理想とする男性像に日々近づかれていく姿を応援しております。
お久しぶりのご出演ありがとうございました。
最近の出演作に、テレビドラマでは、WOWOW『怪物』(‘25)、フジテレビ『ブルーモーメント』(‘24)、テレビ朝日『黄金の刻〜服部金太郎物語〜』(‘24)、NHK総合『連続テレビ小説「ブギウギ」』(‘23)映画では、『本心』(‘24)、『八犬伝』(‘24)などがあり、10月3日公開予定の『火喰鳥を、喰う』や12月5日公開予定の『WIND BREAKER/ウィンドブレーカー』が控えている。

©眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
映画『九龍ジェネリックロマンス』
©眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
2025年8月29日(金)公開
企画・配給:バンダイナムコフィルムワークス
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿