松尾太陽
ミニアルバム『うたうたい』に込めた
ソロデビューへの覚悟と“歌”との絆
2012年6月、超特急のボーカルとしてCDデビューしたその日から、何十、何百、何千回と歌を奏でてきた松尾さん。松尾さんの声には「表情」があって「テンション」があって…。まるで気まぐれで自由奔放な、だけれど大好きな、そんな友人と一緒にいるような温かさがあると思った。どのように歌と向き合い、どのように届けたいと願うのか―そんな私の疑問を解してくれたある日の話。
今回のアルバムは『超特急』としてではなく
『松尾太陽』としての声が届きますよね。
そこに心境の違いはありましたか?
ありました。「超特急として届く」というのは、僕の声ではあれどやっぱり「メンバーがいての自分」といった認識。「松尾太陽で歌わせてもらう」ということに関しては『超特急』の時とは感覚的な違いがありました。
レコーディングも違いましたか?
違いましたね。『超特急』のレコーディングの時は「カッコの箇所はメンバーみんなが歌うところなんだな」と思いながら僕のパートを歌っているんですが、もちろんソロの方ではそれはなかったですし、何をするにしても「一人での表現方法」を学んでいかないといけないのだと実感しました。あとは緊張感。基本的にはどのレコーディングでも緊張感は持っているんですが、一人名義での活動では良い意味で自分にプレッシャーをかけることができましたね。
今回は様々な方が楽曲提供されていますよね。
一緒に作っていく上で、
みなさんとお話はされましたか?
いろいろとお話させていただけた方もいれば、遠隔で曲に対することを教えていただいた方もいました。VaundyさんとShe Her Her Hersさんはレコーディングにも立ち会っていただいて。おかげで、直接ゆっくりとお話を聞きながら曲への想いを噛み砕いてレコーディングができました。
配信されている映像ではVaundyさんと
歌詞を見つつお話されている場面もありましたね。
あれは実は楽器の音撮りの日だったんですよ。そこでVaundyさんに初めてお会いして、後日の僕のレコーディングに向けて「ここはこういう風に歌って欲しい」などのポイントを直接お話させていただいたんです。レコーディング当日は自分の想像の部分だけでなく、Vaundyさんからの明確な言葉をもらって挑めたのでスムーズに歌うことができました。
遠隔でお話した方たちにも同様にお聞きしたんですか?
大塚さん(大塚愛)とは遠隔でお話しました。大塚さんの楽曲のレコーディングの日、大塚さんのコーラス撮りと僕のレコーディングが同じスタジオだったんですよ。大塚さんと入れ違いで僕が入るってスケジュールだったんですが、スタジオに『太陽、ちゃんとご飯食べなさいよ。母さんより』と書かれた大塚さんからの置手紙があって。「あれ?僕って大塚家だったけ?」「何回かお会いしたことあったけ?」と思いました(笑)。まだちゃんとお会いしたことがないにも関わらず、そういう風に言ってくださるのはありがたかったですし嬉しかったです。おかげでレコーディングもリラックスしてできました。
名だたるクリエイター陣のなか、
松尾さんの作詞作曲の楽曲も楽しみなんですが、
これは松尾さんご自身のお話でもあるんですか?
ベースは自分自身です。でも誰にでも当てはまるような内容だと思います。例えば「自分のやりたいことに対して前に進んではいるんだけれど、本当に前に進めているのかな」だとか「思ったように上手くいかない、身動きがとれないな」だとか、そういった不安って誰しも持っていると思うんですよ。「向かっている夢は本当に自分に合っているのか」だったり。そういう葛藤に対して届けたい大きなテーマを今回歌詞に込めました。実は僕自身も音楽活動に対して「あー、自分に向いてないな」と思うことが何度もあって…。そんな自分に心の中の自分が「大丈夫だよ、大丈夫だから」と言ってくれたことで少し前を向けたんですよね。もう一人の自分が背中を押してくれたというか。『掌』を聴いてくださる方の中にも、自分を励ましてくれるもう一人の自分がいることに気づいてもらえたら嬉しいです。
自分が一番自分のことを見ていますもんね。
1番の「ここで生きてく」という歌詞から
2番では「ここで生き抜く」に変わるじゃないですか。
この曲の中で“僕”の心情が変わっているんですね。
そうですね。言ってしまうと「生きてく」というのは「この先に向かっていくぞ」って決意なんです。でも2番ではもうこの世界観に入り込んでいるんですよ。「この場所で生き抜くために目の前の課題や大きな壁を乗り越えていこう」という部分をしっかりと書きました。「ここで生き抜く」というのは一回入り口に入っている、いわば真ん中の部分の話なんですよね。「もうここで生き抜いていくぞ」という覚悟ができた状態。そして最後に「生きてく」に戻るんです。“僕”が「生き抜けた」のか「まだまだ途中なのか」というのは聴く方たちの捉え方に委ねたいと思っています。
自分の今の状況によっても、
違う捉え方になりそうですね。
僕的には解釈を押し付けたくなかったんです。「その人の状況や気持ちによって全然違う捉え方ができるようなものにしたいな」と思ってこういう風に書きました。
ちなみにどの部分から作詞されたんですか?
シンプルに一番最初の1Aメロから作りました。上から順に作ってはいたんですがBメロがすぐには出てこなかったんです。Bメロは一回置いといてAメロからサビを作って、2メロを作ってBを飛ばしてサビを作って一番最後にBメロを入れました。
裏話ですね~!
松尾さんの作詞作曲の楽曲を楽しみに
されている方がたくさんいると思います。
この曲に対して皆さんに
メッセージをいただけますか?
まだまだ身動きがとりにくい世の中だと思います。そういった中でこの曲がみなさんの「一筋の光」のような存在になってくれたら嬉しいです。僕は、例え絶望の淵に立たされたとしても確実に明日というのは手を伸ばしてくれると思うし、太陽はどれだけ厚い雲に覆われていたとしても、雨が降っていたとしても、雪でも嵐でもどんな状況であれ傍にいて照らしてくれると思っているんです。どんな歩幅で歩いても走っても一緒についてきて傍にいてくれるような。この曲を聴いた方たちに「あ、意外と自分の周りや自分の中に味方はいるんだ」と思ってもらえたらいいな。『掌』の歌詞では太陽に掌を合わせた時に「どれだけ自分の掌は太陽に染まっているのか」とイメージして書いた部分もあるので、行き詰まった時にはこの曲を聴いて太陽に手を伸ばしてみてほしいです。
素敵なメッセージをありがとうございます。
メンバーのみなさんからは何か反応はありましたか?
実はみなさんに発表した「ソロデビューします」くらいの情報しかメンバーには入っていないんです。(取材は7月上旬)個人的にはいち早く聴いてもらいたい気持ちもあるんですけど、あえて「発売まで待ってもらうのもいいかな」と思っています。メンバーの反応としては「ソロ活動をするよ」という発表をした時にSNSでも反応をしてくれたり、個人的に連絡をくれたりしました。動画サイトでアカペラ動画をアップしているんですが、あいみょんさんの『裸の心』を歌った時には、タクヤが個人的に「好きな歌だから歌ってくれて嬉しい」という連絡をくれました。他にも祝福してくれる内容を各々のSNSに投稿してくれていたり、リョウガの家にヤモリが現れたのを無理やり僕の活動の成功と結び付けさせていたり(笑)。そんなみんなの気持ちが「ありがたいな」と思いながら、それぞれの形で祝福してくれているのが素直に嬉しかったです。
聴いてもらえるのが楽しみですね。
では最後に松尾さんが考える
“歌の力”とは何ですか?
僕はグループで活動した時に歌を始めて、それまで歌自体は好きだったけれど歌を歌って活動していくことは全然視野になかったんですよ。でも、歌と思わぬ出会いをしてから今まで、10年前の自分じゃ想像もできなかったような人生が待っていました。今の僕のベースは歌で作られているような気がしますし、何よりも自分の表現や気持ちを届ける術になっていると思います。僕って話したりだとか伝えたりだとか、そういったことが本当に苦手で(笑)。自分の感情を全て歌で届ける、言ってしまえば僕にとって“歌”はコミュニケーションのツールでもあるんです。この『うたうたい』というアルバムを通して、自分自身ともコミュニケーションを取れる機会をいただけたと思っています。そこでまた新しい発見があると思うし、これからも長い付き合いになっていくであろう“歌”と改めて意思疎通してさらに仲良くなれたら嬉しいです。
詳しくはFAST公式Twitterにて
松尾太陽
まつお たかし
1996年9月23日生まれ。
穏和な光に見えて閃光のように鋭い一途さ、照らされた道を誠実に進む「彼の物語」から目が離せない23歳。
ソロデビューミニアルバム『うたうたい』
2020年9月2日(水)発売
Vaundy・大塚愛・堂島孝平・浅田信一など豪華クリエーター陣が揃った松尾太陽のソロデビューミニアルバム。本人作詞作曲の未発表新曲も収録。
※TeamCredit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:杉野智行
インタビュー・記事:満斗りょう