小関裕太
NHK土曜ドラマ「ひとりでしにたい」
“豊かとは?” を改めて考える作品
2006~2008年、「天才てれびくんMAX」(NHK)のテレビ戦士として活躍するなど、子役として俳優活動をスタートしてから20年以上という小関裕太さん。6月21日から放送スタートのドラマ「ひとりでしにたい」(NHK総合)で、主人公・山口鳴海(綾瀬はるか)の弟・山口聡を演じるにあたり、役のバックボーンや発する言葉、心情を理解した上での丁寧な役作り、そして演じる役や作品への想いをたっぷりお話いただきました。

<あらすじ>
主人公・山口鳴海(綾瀬はるか)は、未婚・子なしの一人暮らしを謳歌していた。しかし、憧れていたキャリアウーマンの伯母が思いもよらない孤独死をしたことをきっかけに、焦って婚活を始めてしまい撃沈。年下の同僚・那須田優弥(佐野勇斗)から「結婚すれば安心って昭和の発想ですよね?」とバッサリ切り捨てられ、鳴海は「婚活」から180度方針転換して「終活」について考え始める…。
これは、30代後半独身の主人公が、時に世間の常識に傷つきながら、時に誰かと比べてしまい落ち込み、時に居て当たり前に思っていた周囲の人々に感謝しながら、よりよく死ぬためによりよく生きる方法を、這いつくばって模索する物語。
小関さんが演じる「山口聡」の役どころと役作りについて、教えてください。
僕が演じるのは綾瀬はるかさんが演じる主人公・山口鳴海という独身女性の弟で、主人公の鳴海から見ても、ドラマを見てくださる方から見ても、“普通”というイメージの男性です。大雑把でとにかく勢いで生きているような人格、そしていろんなものに振り回されているお姉ちゃんを見て育ったがゆえに、弟の聡はすごく堅実で、順序立ててしっかり生きているというような人……。家のことも、家族のことも考えていますし、保険のことなどちょっと先を見据えながらしっかり過ごしているんです。堅実という言葉をピックアップすれば個性になると思いますが、他から見ると本当に普通の男性なんです。
石橋をたたいて渡るタイプなんですね。
実は彼なりにいろいろ抱えているんです。
原作を読むと、彼はなぜか普通の人のように見えるけど、どうしてこういう発言に至ったのかとか、外からは見えない内面が描かれているので、そこは外さないようにしたいですし、本当は抱えているものがたくさんあるけど、普通に見せるというのが大変でした。個性がないようで、実はすごくあるという部分をうまく出せていたらと思います。

演じる役のキャラクターは原作を読み解いて、感じ取ったんでしょうか?
台本の中から読み取れるものを深堀りしていく中で疑問点がたくさん浮かんだので、脚本を書かれている大森美香さんとプロデューサーさん、監督に質問形式で確認をしたんです。分厚い返答をたくさんいただいて、とても参考になりました。
そのタイミングでさらに原作を読んでより深めていきました。役作りに関しては、大森さんと原作にアイディアとチカラ(力)をたくさんもらいました。
「ひとりでいきて、ひとりでしにたい」というフレーズを、どのように捉えていますか?
なぜ「ひとりでしにたい」というタイトルになっているのか。ドラマの序盤では「ひとりでしにたくない」という鳴海だったけれど、いろんな価値観と出会って、どうやって「ひとりでしにたい」という題名にいきつくのかがドラマの中で見えてくるという部分も見どころだと思います。僕の本心としては“ひとりでしにたくない派”ですね(笑)。

登場人物それぞれの個性にも注目ですよね。
綾瀬さん演じる鳴海もそうですし、その 父・山口和夫(國村隼さん)、母・山口雅子(松坂慶子さん)、鳴海の同僚・那須田優弥(佐野勇斗さん)もすごくアクセントがあります。みんなの価値観もそれぞれ違って面白味があるし、価値観に付随する彼女、彼らのバックボーンがしっかり描かれています。僕が演じる聡だけでなく、それぞれがなぜそこに至ったのかドラマでも原作でも見えてくるので、これは自分と合致するな、これは違うなと選別ができるんじゃないかなと思いますし、感情移入する人もそれぞれみんな違うんだろうなと思います。人間としての性質、明るい暗い、好き嫌い、楽観的悲観的という視点もあるし、お父さんお母さん目線、お姉さん目線、弟目線、上司目線、部下目線とそれぞれの立場で観ることができると思います。また幼少期に寂しい思いをした人、恵まれているはずなのに何か足りないと感じている人、外から見たらとても楽観的に見えるけど実は大きなものを抱えているなど、置かれている環境や状況によっても見方が変わるかもしれません。いろんな目線で自分と重ねられるし、いろんな価値観を新たに知ることが出来る作品だと思います。
小関さんご自身、この作品にふれて改めて考えたことはありますか?
“何が豊かな生活なのかな”と考えさせられますね。人それぞれ豊かの捉え方が違うと思いますが、家族といることが豊かなのか、ひとりでいることが豊かなのか、お金を使えること?美味しいごはんを食べること?仕事が充実していること?休憩が充実していることが豊かなのか。この作品を通じていろんな選択肢があることに気づき、自分と向き合うヒントをくれるドラマなんじゃないかなと感じました。僕自身も、もともと“豊かって何だろう”って考えることが多いんですが、この作品と向き合うにあたって、より深いところにいったなと実感しています。生きる死ぬ、ひとりふたり、家族や親戚の存在など、より考える時間になりました。

綾瀬はるかさんをはじめ、共演の俳優さんたちの雰囲気はいかがですか?
綾瀬さんは、言葉数がそんなに多いほうではないんですが、やさしさもあってすごくフラットな方です。國村さんも松坂さんも存在感はありますが、自然な感じで本当に家族のようなあたたかい雰囲気のある方々です。素敵な俳優さんが集まっている中、僕は勝手に緊張しています(笑)。面白いこの作品をしっかり伝えたいという思いからか、現場では集中して肩に力が入るんです。
セリフの中で刺さる言葉はありますか?
「家が太いんですね」という那須田が発するセリフです。主人公があまりにも楽観的なので、那須田が山口家に初めて行ったとき、「なるほど、なんとなく理解しました。家が太いんですね」と言ったんです。僕は自分の役を作る上で、外から見た家庭が「家が太い」と言われる所以てなんだろうと考えました。実は僕が中学生のときに「なんでいつも笑ってるの?」と友達に言われてその言葉が忘れられず…。当時仕事でなかなか学校に行けていない中、入っていた部活の練習や試合にたまに行って、できないなりに楽しみたいなと思う気持ちが表情に出ていたんでしょうね。その友達は僕が笑顔なのが許せなかったのか、嫌な気持ちになったんでしょう。僕は限られた時間を楽しんでいるだけだけど、僕が笑うことで誰かが嫌な気持ちになるということがこの世の中にあるんだと考える時がありました。そんな経験とちょっと通ずるものを感じて、「家が太いんだ」という言葉が僕は気になりました。時間の感覚の違い、豊かだと感じる生活の違い……。いろんな捉え方が人それぞれにあるんだと思います。

作品に関してメッセージをお願いします。
現代を生きる方が、より生きやすくご自身にとっての豊かな生活にたどり着くヒントがたくさん込められている作品だと思います。ドラマももちろんですし、ドラマをきっかけに原作を読んでいただけるとよりこの作品について考えさせられると思いますし、そのきっかけになれば、嬉しいです。この作品から得るものがたくさんあると思うので、今感じることやそれぞれのタイミングで出会う価値観を楽しんでいただければいいなと思います。

小関裕太
こせき ゆうた
1995年6月8日生まれ。
子役として芸能活動をスタート。その後、ミュージカルや舞台、様々のドラマや映画に出演。最近の出演作はドラマ「あのクズを殴ってやりたいんだ」(TBS/2024年)、ドラマ「御曹司に恋はムズすぎる」(カンテレ・
フジテレビ)、舞台「ジャンヌ・ダルク」(2023年)、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2024年)ロミオ役など。現在「波うららかに、めおと日和」(フジテレビ)に出演中。6月21日からはじまるドラマ「
ひとりでしにたい」(NHK)への出演が決定している他、主演舞台「サヨナラソングー帰ってきた鶴」が控えている。
インタビューでは台本の入ったタブレットと携帯を持参されていて作品を振り返りながらお話をしてくださった小関さん。後編のお話の中でもあるのですが、物持ちがいいとおっしゃられていた通り小関さんの持ち物は、とても丁寧に、そして良い物の使用感があり、皮のケースなどもとてもいい味が出ていました。ドラマなどでお忙しい中でいただいた時間でしたが、それでも疲れや疲労を見せない姿は、長年培われていた忍耐力の賜物だと思いました。
後編では、30歳に向けた質問などいろいろ伺いました。お楽しみに!

©NHK
土曜ドラマ「ひとりでしにたい」
【放 送 予 定】 2025年6月21日(土)スタート〈全6回〉
総合テレビ 毎週土曜 夜10:00〜10:45
[再放送] 総合テレビ 毎週水曜 午前0:35〜1:20 ※火曜深夜
【原 作】 カレー沢薫『ひとりでしにたい』
【脚 本】 大森美香
【音 楽】 パスカルズ
【主 題 歌】 椎名林檎「芒に月」
【出 演】 綾瀬はるか 佐野勇斗 山口紗弥加 小関裕太 恒松祐里 満島真之介 /
麿赤兒 岸本鮎佳 藤間爽子 小南満佑子 コウメ太夫 / 國村隼 松坂慶子
【制 作 統 括】 高城朝子(テレビマンユニオン) 尾崎裕和(NHK)
【演 出】 石井永二(テレビマンユニオン) 小林直希(テレビマンユニオン) 熊坂出
※Item Credit
ジャケット¥38,500、パンツ¥46,200、
(ともにクルニ/クルニ フラッグシップ ストア ☎03-6416-1056)
シューズ¥41,800(ラッド ミュージシャン/ラッド ミュージシャン 原宿☎03-3470-6760)
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:エミー
スタイリスト:吉本知嗣
インタビュー:相原郁美
記事:相原郁美/有松駿