甲斐翔真
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
グッと弓を引き、“愛”を射る
そんなロミオを届けたい―
Stage of FAST -Stage 22-
『ロミオとジュリエット』を生んだウィリアム・シェイクスピアは「この世はすべて舞台だ」という言葉を残した。そして甲斐さんは「恋人や思はせ人と会っている時だけが“その人”ではない」と言った。いつの時代も出逢いの前から恋は始まっている。そう、この世のありとあらゆる場所で。違う場所で違う時間に生まれた人間が数々の糸を手繰り寄せ、手放し、切り離しては結び、孤独な生の時間を過ごす。そしてその時間を経て出逢った2人こそが、唯一無二の“愛の形”を作り出してゆく。 “ロミオ”という青年の全てを見つめようとする甲斐さんが一体どんな“ロミオ”を魅せてくれるのか。ミュージカルに懸ける想いと共に今作への意気込みをお伺いしました。
ミュージカル
『ロミオ&ジュリエット』
Wキャスト・ロミオ役
©Takashi Okamoto
モンタギュー家とキャピュレット家が代々憎しみ合い、争いを続けてきたイタリアの街・ヴェローナ。ある日、キャピュレット家ではひとり娘のジュリエットに、大富豪パリス伯爵を求婚者として紹介しようと舞踏会を開催。そこへ、モンタギュー家のひとり息子ロミオが親友のベンヴォーリオ、マーキューシオと共に忍び込む。その舞踏会で、ロミオとジュリエットは運命的に出会う。お互いが敵対する家の者だと知り、ショックを受ける二人だったが気持ちを抑えきれず、ジュリエットの部屋のバルコニーで永遠の愛を誓い合う。二人の強い気持ちに心打たれたロレンス神父は、この結婚が憎みあう両家の和解に繋がるかもしれないと考え、密かに二人の結婚式を執り行う。しかし、そんな矢先、両家の若者の間でいさかいが勃発。ロミオは仲裁に入るが、親友のマーキューシオがジュリエットの従兄弟ティボルトに刺されてしまう。親友の死を目の当たりにしたロミオは逆上してティボルトを殺害、ヴェローナから永久追放されることに。ジュリエットの乳母の計らいで、夜が明けるまでのつかの間の時間、結婚初夜を過ごす二人。これが永遠の別れになるとは知らず、夜明けと共にロミオはマントヴァへと旅立っていく……。
舞台 × 甲斐翔真
『デスノート THE MUSICAL』(2020年)からミュージカルの世界に足を踏み入れ、そこから一気にいろいろな作品に携わらせていただきました。自分のやりたかったことを、こうしてやらせていただけることがすごく嬉しくて。ステージに立つ経験を経て、2019年よりミュージカルがさらに大好きになりました。そこから2年経った今、2019年の僕が目指していた場所に立てていることが本当に嬉しいのと同時に、今の僕が想像もつかないような場所にまた2年後立っていたらいいな、と思います。
『デスノート THE MUSICAL』のインタビュー時は
初舞台に立つ前の心境をお聞きしたのですが
実際に舞台に立ったからこそ分かった
“舞台の魅力”はありましたか?
観劇してくださる皆さんにとって舞台一本は約3時間。その3時間のために数か月かけて物語や肉体を命がけで作り上げていく、その時間をかける過程がとても楽しくて。舞台は稽古を何度もやって答えを導き出し、本番が始まっても尚、毎公演違うものを見つけていく作業の繰り返し。やっていくうちにどんどん作品と役への愛が深くなっていくんです。何度も演じて、理解して、とめどなく役を探していけるのが舞台の魅力だと思います。
そんな命がけの数か月の稽古が
昇華されるタイミングは?
先日まで公演していた『マリー・アントワネット』で、丁度そのタイミングを見つけたんです。自分にとって初めてのグランドミュージカルだということに加えて、キャストの皆さんもずっとミュージカル界を牽引されている方々ばかりのすごい舞台だったので、最初はただ不安だったんです。でも公演を終えてみて、この作品は「僕に特別な経験をさせてくれた」と心から思いました。大千穐楽でステージから見えた景色に、それまでの稽古が昇華された瞬間があって。僕、『デスノート THE MUSICAL』も『RENT』もコロナの関係で完走できなかったので、大千穐楽の舞台を踏んだのが初めてだったんです。それも相まって、あの空間は本当に特別で感動しましたね。どうしても皆さんにその気持ちをお伝えしたくて、大千穐楽の夜にインスタライブをしてファンの皆さんとその喜びを共有しました(笑)。正直、皆さんに報告をした時は「大千穐楽を経験した」という実感がなかったんですが、次の日のカンパニーの大千穐楽を観た時に実感が込み上げて自分の公演時よりも涙が溢れましたね。最後に見た皆の顔が忘れられないです。
一旦、気持ちを落ち着けたからこその実感ですね。
甲斐さんはこれまで様々な演出家さんと
一緒にされていますよね。
最初は栗山さん(栗山民也)で…
そういえば、この間栗山さんと偶然お会いしたんです!都内のスタジオで舞台の稽古をしていたんですが、スタジオの隣の小さな公園に栗山さんが普通に立っていらっしゃって(笑)。稽古中だったのか、一旦脳を休憩させてオフになっていた時に僕が「栗山さん!」と声をかけちゃったもんですから、僕って認識してもらうために5秒くらいかかりました(笑)。栗山さんも『マリー・アントワネット』の初演の演出をやられていたので、そこで再会できたことにもすごくご縁を感じました。また栗山さんとご一緒したいですし、叶うのならば『デスノート THE MUSICAL』も完走させたいな、と。それにしても、びっくりだったな…。子供たちが遊んでいる公園にただ立たれていて(笑)。甲斐翔真だと認識してもらえて良かったです(笑)。
まさかいらっしゃるとは思いませんもんね(笑)。
今作は初めての小池さん(小池修一郎)の演出ですね。
ロミオ役が決まった時の率直な感想をお願いします。
オーディションを受けてしばらくしてから、「決まったよ」と言われて。その後、話を飲み込んでみても、やや諦めかけていたこともあってなかなか信じられなくて。歌稽古が始まってやっと「ロミオを演じていくんだな」と感じることができました。「甲斐翔真はロミオを演じた人」と、この経験を絶対に無駄にしないように全身全霊で挑んでいきたいと思います。
実際に小池さんとお話はされましたか?
はい。小池先生が「ミュージカルの新星として頑張って欲しい」と仰ってくださったんですが、先生にまさかそんなことを言っていただけると思っていなかったので本当に嬉しかったですね。その期待に全力で答えていきたいと思います。以前、宝塚版の『ロミオとジュリエット』を観劇させていただいたんですけど、そこで小池先生にお会いすることができたんです。観劇後に予約していた鍼治療時間を少し気にしていたのですが、小池先生に劇場でお会いできたので、その日の治療はすぐにキャンセルして先生とお話しようと思っていたら、先生がずっと早く梅田に帰れる方法を教え続けてくださるんです。「もう大丈夫ですよ!」と言っているのに、わざわざ紙に書いて5分~10分くらいかけて説明してくださったんですが、「先生、僕、もう行かないから大丈夫ですよ!この時間がもったいないです!」と思って(笑)。その時に頂いた紙は今も大切にしまっています。
とってもほっこりするエピソードですね(笑)。
愛の溢れる小池さんとの稽古も待ち遠しいですね!
楽しみな反面、「どんなことを言われるんだろう」という不安もあります。小池先生は宝塚版の『ロミオとジュリエット』の演出もされている方なので、ロミオに対する愛がすごくおありだと思うんです。小池先生のイメージされる世界についていけるよう頑張らないと、と思っています。小池先生のことを知っている方に「どんな方ですか?」と聞くと、皆さん「先生の言葉を全て聞いて、その時は分からないような変わった発言があっても後々理解できるようになる」と仰るんですよ。きっと二手三手先の、プレイヤーだけが分かるフィーリングを渡してくださるんだろうな、と思うと今からすごく楽しみです。
ロミオ × 甲斐翔真
この作品はロミオとジュリエットの愛によって動かされていくストーリーなので、まずは心の底から愛を持って演じていきます。ジュリエットを愛する情熱、そして愛しすぎるが故に始まる悲劇、その“愛”を追求していきたいな、と。その一方でロミオとジュリエット、2人以外のシーンで「いかにロミオとして生きることができるか」も大事にしていきたいですね。ロミオは、ジュリエットと一緒にいる時だけがロミオではないと思うんです。ベンヴォ―リオやマーキューシオといる時もロミオだし、一人でいる時だってロミオ。「どんな人で、どんなことを考えている青年なのか」、そういったロミオの深い人間性をどんどんと作り上げていきたいと思っています。なかなか表層には出てこないような…例えば、ロミオはすごく優しいのにティボルトを殺してしまう素質は持っていたわけじゃないですか。優しいけれど、心のどこかに社会に対する憤りを感じていたんだと思うんです。自分が理想としている世界が現実と全然違うからこそ、現実の世界に憤りを感じている。もっと優しい世界でありたいから自分は優しくいようとするけれど、周りはどうか…。そういったロミオの繊細な部分を丁寧に作り上げていきたいです。それがあるからこそ、ジュリエットへの愛が際立つんじゃないか、と思っています。
Message From『ロミオ&ジュリエット』
先ほども言ったように、ロミオはすごく優しくて繊細な青年。宝塚版の『ロミオとジュリエット』を観た時に、ロミオとジュリエットの出逢いのシーンで鳥肌が立ったんです。お互いが本気で愛する人を求めて生きてきて、ついに本当の愛に出逢ってしまった。2人の人間がガチッと合った瞬間が観ていて肌で分かったんです。「すごすぎる…」と心が揺さぶられたと同時に、この作品の一番重要なのは“2人の出逢い”なのだと教えられました。2人がいかに本当の愛を求めているのか、物語は出逢いの前からすでに始まっているんですよね。まさに弓矢でいう“引き”の部分。ハートに矢が刺さる前に弓をいかに引けるかによって“愛”の深さが変わるんだな、と。弓を引けば引くほど矢の勢いは増すし、グサッと胸に刺さるじゃないですか。そしてそこから物語がどんどん膨らんでいく…。これから稽古を通して弓を引くための筋肉を付けていこうと思います。
甲斐翔真
かい しょうま
1997年11月14日生まれ。
真の通った一翼に魅せられ、誠実に天翔ける彼の姿を「見つめ続けたい」と願ってしまうほどの引力を持つ23歳。
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
TBS赤坂ACTシアター(東京):
2021年5月21日(金)~6月13日(日)
梅田芸術劇場メインホール(大阪):
2021年7月3日(土)~7月11日(日)
愛知県芸術劇場大ホール(愛知):
2021年7月17日(土)~7月18日(日)
原作:ウィリアム・シェイクスピア
作:ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演:黒羽麻璃央/甲斐翔真(Wキャスト)
伊原六花/天翔愛(Wキャスト)
味方良介/前田公輝(Wキャスト)
新里宏太/大久保祥太郎(Wキャスト)
立石俊樹/吉田広大(Wキャスト)
小㞍健太/堀内將平(Wキャスト) ほか
※Item Credit
ジャケット¥78,100 シャツ¥26,400、
パンツ¥29,700
(全て ラッド ミュージシャン/
ラッド ミュージシャン 原宿 03-3470-6760)
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:木内真奈美(Otie)
スタイリスト:吉本知嗣
インタビュー・記事:満斗りょう