坂東龍汰
映画『若武者』
観てくださった人に委ねるものが多い映画だと思う
「誰もが観たい映画ではなく、誰かが観たい映画を作る」をミッションに掲げ誕生した新レーベル「New Counter Films」。その第一弾作品となる『若武者』で、トリプル主演を務める坂東龍汰さん。監督から受け取った思い、役作りの過程など、彼ならではの視点で語ってくれました。
©2023 “ 若武者” New Counter Films LLC. ALL RIGHTS RESERVED
<あらすじ>
工場に勤める寡黙な渉(坂東龍汰)、血の気の多い飲食店員の英治(髙橋里恩)、一見温厚そうな介護士の光則(清水尚弥)は、幼なじみの間柄。ある日、暇を持て余した彼らは“世直し”と称し、街の人間たちの些細な違反や差別に対して牙を剥いていく。そして、“世直し”は徐々に暴力へと変化してしまうのだった――。
坂東さん演じる渉はあて書きだと伺いましたが、脚本を読んだ際の感想は?
最初に二ノ宮(隆太郎)監督とお会いしたときに、「こういう映画の脚本を書こうと思っているんだけど、表面的な坂東くんの印象とは違う、ある種、正反対の役になるのでよろしくお願いします」というお話をされたところから始まったんですけど。実際に脚本を読ませていただいて、その言葉通り、僕のパブリックなイメージとは違う部分を描きたいと思ってくださったんだなと思いました。
パブリックイメージとは違う部分とは?
渉は秘めるタイプの人間で、感情を表にうまく出せない。だけど、抱えているものは大きいという部分ですね。今までそういう役を演じることがあまりなかったので、最初はどういうふうに表現しようか迷いました。
そこから、どのように役へアプローチしていったのでしょうか。
僕自身、26年生きているなかでいろいろな経験をしてきました。自分の人生を振り返りながら、渉と同じ経験ではないにせよ、共通して得られる感情を探して、そこから膨らませていったりとか。渉と僕は表面的には全然違うので、役を僕に寄せていくというよりは、脚本のなかの渉から、それ以外で生きている渉にアプローチしていったりとか。渉も英治も光則も、監督の頭のなかから生み出されたキャラクターなので、三人三様ではあるけど、どこかしら監督のDNAを受け継いでいるなと感じたんですね。そういう意味では、二ノ宮さんの過去の監督作品に出てくるキャラクターにも通ずる部分があると思ったので、過去に上演された作品を観たりとか。渉を演じるうえでヒントになる部分はなるべく多く得ようと思って、監督自身をよく観察したりもしました。
監督の内面を知っていくなかで、感じたことはありますか?
監督は実際にお会いすると、すごく優しくてずっとニコニコしているんだけど寡黙なところがあり。内に秘めてるものがあるんでしょうけど、なかなかとらえどころのない人なんです。書かれる本を読むと、メッセージ性……という言葉でまとめてしまってはいけないような気がするんですけど、すごく言葉一つひとつが明白というか。“あっ、こういうことを普段考えて生きている方なんだな”と納得がいくというか。だから、本当に映画を通じていろいろな思いを伝える方なんだろうなって。だから映画監督をやっているんだろうなって思います。
渉を演じるうえで、意識したことは?
流れる時間のスピードは、監督とも話して意識するようにしました。英治や光則といるときと、義父(修二郎/豊原功補)といるときでは、時間の流れや感情の動くスピード感がまた別だから。人って、たぶんそうだと思うんですよ。僕自身、親友といるとき、事務所のマネージャーといるとき、現場でスタッフやキャストの方々といるとき、家族と一緒にいるときで全然違う自分がいますし。いろんな一面を出しながらも、やりすぎないように気をつけて、渉という人物に一貫性を持たせられるように。セリフの間やテンポで、より具体的に表現していきました。
英治や光則に対して、実は心を許していないのではないかと感じる場面もあったのですが。
そうなんですよね。幼なじみではあるけど、全然タイプの違う3人がなぜ友達で、暇さえあれば集まる仲間なのかというところは、里恩と清水くんとけっこう話し合いました。3人とも、うまく世の中に順応しきれないことに葛藤を感じていて。それもまたそれぞれ違う葛藤なんですけど、馴染みきれない……時代に乗りきれていないんだけど、人生を楽しみたいし、革命を起こしたいと思っているところは共通しているんですよね。
時代に馴染みきれないという感覚は、ご自身のなかにもありますか?
あります。僕は、シュタイナー教育というちょっと変わった教育を受けて18歳まで育ったんですね。世間と切り離されたところで育ったので、いざ社会に出たときにカルチャーショックを受けましたし、ちゃんと馴染めるのかなって不安になりました。
カルチャーショックというのは?
人との距離感の違いとか。あと、世間の流行についていけないとか。僕、初めて携帯電話を持ったのが19歳で、テレビやインターネットに触れた年齢も高めだったんですよ。だから、たくさんの情報がいきなり自分のなかに入ってきて、それを整理していくのに頭が追いつかないし。みなさんにとっての当たり前が、当時の僕にとっては全然当たり前じゃなかったんです。言葉遣いとかも、世間一般の思う敬語と僕の思う敬語にちょっとギャップがあったりして、最初の3、4年はすごく苦労しましたね。でも、人と関わることは大好きで友達も多かったし、周りの人には恵まれていました。今の事務所に入れたこともありがたかったですし、役者という職業も、自分にすごく合っているものを職業にできたなと思います。
役者という職業は、どのあたりが合っていると?
たぶん、これは一生そうだと思うんですが、絶対に満足することのない仕事なんですよね。何が正解なのかもわからないという怖さとワクワクが、常に襲ってくる。それって、僕みたいなタイプにはすごく向いてるんじゃないかなと思います。僕はいろんなことに興味があって、いろんなことを自発的に始めるのも好きだし。それこそ高校生までは、テレビやケータイがない環境で育ったので。劇中に出てくる英治のセリフそのままに、「クソ暇だな。なんかおもしろいことしようぜ」っていう時間が多かったんです。
テレビや携帯電話がなかったら、そうですよね。
じゃあ何をしようかって考えた結果、自分でおもちゃの弓矢を作ったりとか。火をおこして、鉄を溶かし新しいモノに作り替えたり。そういうゼロから一を作るようなことを、小学生ぐらいのときから自発的にやっていたんです。ほかにも、演劇をみんなで作ったりとか、カメラが好きだったので写真を撮ったりとか。さらに、その写真をつなげてアニメーションを作ったりもしました。
スゴい!
ただ、僕は飽き性というか、ある程度できるようになると“さぁ、次!”という性格なんですよ。だから、役を通していろんな人物の人生に触れられたり、新しい挑戦を求められる瞬間が多かったりするこの職業は、常にワクワクして生きていける。新しい価値観や概念だったり、いろんな条件や基準を感じながら一つのものを作っていく作業が好きな僕には、ピッタリなのかなと思います。
撮影時のお話も伺いたいのですが。渉が修二郎と対峙するシーンも、緊迫感があって印象的でした。
あのシーンの撮影当日は、現場にものすごく緊張感があって、本番まで豊原さんとはひと言も会話せずにいましたね。それに、あのシーンで渉の一人称が「俺」から「僕」になるんですよ。それも含めいろんなことを考えたし、言葉では表せない心境になりました。
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豊原さんの気迫に圧倒されそうになったりは?
いや、リハーサルのときはそうだったんですよ。でも、本番で渉として親父と対峙したときは、渉にはある覚悟が決まっていることもあり、まったく脅威に感じなかったというか。むしろ、親父の姿が小さく見えました。その理由は、映画を観てもらえばわかると思います。
英治役の髙橋さんとは同じ事務所で、接点も多いそうですね。
もう7年ぐらい同じ事務所にいて、しかも同い年なので、一緒に切磋琢磨していきたいなという意識は、お互いにあります。ライバル意識はまったくないですけど。
そういう存在の方と共演できるのは、うれしい?
そうですね。初めて里恩とがっつりお芝居をしたのが、『三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?』という岩松了さんプロデュースの舞台だったんですけど。そこからお互いにいろんな時間を過ごしてきて、また一緒にお芝居をできるというのは……しかも、こういう今までにない脚本で、革命を起こすようなカッコいい作品で共演できるというのは嬉しかったですね。
坂東さんは、革命を起こしたいと思いますか?
うん、常に思っています。革命は起こしたいですよ。それは、役者として売れたいとか安易なことではなくて。なんていうんだろうな……自分たちの作った作品が、日本だけじゃなく世界に影響を与えて。日本の映画界がもっと世界で評価されることは夢見ますよね。今回、この『若武者』という作品で、それを実現できるんじゃないかなって思っているんですけど。
それは、どういった部分で?
「New Counter Films」というレーベルの第1弾作品として、本当にこの映画を見たい人に届くことになるわけですよね。映画って、観たいと思った人が映画館へ行ってお金を払うという、テレビとはまた違うエンターテインメントであり芸術で。映画の力というのは底知れないですし、この映画が公開された後、どんなふうに世界に届いて、どういう評価を受けるかというのはすごく気になります。
これまで様々な役を演じてきましたが、ハマりすぎて役が抜けないことはありますか?
あー、役によってはあるかもしれないですね。同時期に作品が3つぐらい重なったりすると、やっぱり混乱することもあります。でも極端な話、“殺人鬼の役をやっている間は、常に人を殺したい”みたいなことはないですし(笑)。誰かを好きになる役を演じているときに、相手役の役者さんのことを本気で好きになって、“家に帰ってからもはぁ~(ため息)”、みたいなこともないかもしれないです。朝起きて現場まで行く間に、自分のなかでその役に入る準備時間があるんですよ。例えば、音楽を聴くとか。それで役に入っても、撮影が終わったら意外にパッと切り替えられるタイプですね。
今回、役作りのために聴いた音楽はありますか?
渉はなかったですね。もうちょい狂気じみている役を演じているときは、ヤバい曲を聴いて気持ちを高めたりもしていましたけど。ドラマ『ソロモンの偽証』のときは、だいぶ狂気じみた役だったので、GEZANの『狂(KLUE)』とか、よく聴いてました。そういうふうに、作品中に“気づいたらよく聴いているな”という曲があるかもしれないですね。『若武者』の撮影中も、たぶん何かしらリピートして聴いている曲があったと思うんですけど。撮影したのが2年半ぐらい前なので、ちょっと思い出せなくて……。
本作にキャッチコピーをつけるとしたら?
「楽しんでね。この世を、」じゃないですか?
あっ、ポスターにありますね。
はい(笑)。それ以外だと、なんだろうなー。「考えないで感じてね」……いや!「感じながらも考えてね」かな。観てくださった人に委ねるものが多くて、心に残る言葉がたくさんある映画なのかなと思うので。
坂東龍汰
ばんどう りょうた
1997年5月24日生まれ。
お会いしてすぐはとても物静かでミステリアスな雰囲気があり、テレビで受けるイメージ通りの坂東さん。と思いきや撮影やインタビューが始まるとテレビではあまり見られない可愛らしく面白い姿やクシャッと笑った笑顔で楽しそうに話してくださる姿にスタッフも微笑ましく感じてしまう瞬間が何度もありました。そして何より写真のモニターチェックをスタッフで行っている際に自然とちょこんと横にいたり、周りのスタッフと初めましてを感じさせないくらい気さくに打ち解けてしまう人懐っこさも併せ持っていて、新たな一面を何度もみることができました。後編では、坂東さんの悩まれていた過去にも迫っております!お楽しみに!
4月期のテレビドラマでは、フジテレビ『366日』(‘24)、テレ東『RoOT/ルート』(‘24)、に出演。最近の出演では、『王様に捧ぐ薬指』(‘23)、映画では、瀬々敬久監督作『春に散る』(‘24)、三島有紀子監督作『一月の声に歓びを刻め』(‘24)、舞台では横山拓也作・瀬戸山美咲演出の『う蝕』(‘24)などがある。
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『若武者』
唯一無二のスタイルで世界を圧倒し続ける二ノ宮隆太郎監督、待望の最新作
監督・主演を務めた長編第二作『枝葉のこと』(2017)が第70回ロカルノ国際映 画祭、さらに前作『逃げきれた夢』(2023)が第76回カンヌ国際映画祭に正式出品されるなど、国境を越えて着実に評価を積み重ね、様々な立場に置かれた 人々の“生き様”にフォーカスしてきた二ノ宮隆太郎監督。待望の最新作は、3人の若者を主人公に描く青春群像劇で、主演には期待の新世代俳優・坂東龍汰、髙橋里恩、清水尚弥が抜擢された。彼らを取り巻く大人たちには、木野花、豊原功補、岩松了ら実力派俳優らが名を連ねる。さらに、音楽ユニット・ group_inouのimaiが長編映画では初めて音楽を手掛け、予測不能な展開に彩りを加える。
Story
工場に勤める寡黙な渉(坂東龍汰)、血の気の多い飲食店員の英治(髙橋里恩)、一見温厚そうに見える介護士の光則(清水尚弥)は、互いに幼馴染の若者 である。
ある晩秋の昼下がり、暇を持て余した彼らは“世直し”と称して街の人 間たちの些細な違反や差別に対し、無軌道に牙を剥いていく。その“世直し” は、徐々に“暴力”へと変化してしまうのだった─。
出演:坂東龍汰/髙橋里恩/清水尚弥
木越明/冴木柚葉/大友律/坂口征夫/宮下今日子
木野花/豊原功補/岩松了
エグゼクティブ・プロデューサー:堤 天心 関 友彦
プロデューサー:鈴木徳至
製作:コギトワークス U-NEXT
制作プロダクション・配給:コギトワークス
Presented by New Counter Films
2024 年 / 日本 / DCP / カラー / スタンダード(1.33:1) / 5.1ch / 103 分
Copyright 2023 “ 若武者” New Counter Films LLC. ALL RIGHTS RESERVED
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
ヘアメイク:長澤 葵
スタイリスト:YOSHIE OGASAWARA(CEKAI)
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿