尾上右近
『この声をきみに~もう一つの物語~』
言葉の魔法にかけられた
主人公の奥に光る愛らしさとは―
Stage of FAST -Stage 15-
2017年、竹野内豊主演で放送されたNHKドラマ10『この声をきみに』。3年の時を経て、大森美香オリジナル脚本の元、新たに舞台で蘇ることになった『この声をきみに~もう一つの物語~』。朗読という“言葉の魔法”にかけられる主人公を演じる右近さんに舞台のこと、主人公のこと、色んなお話をお聞きしました。
<あらすじ>
主人公の青年が、人生の転換点にひょんな理由から朗読教室にいくはめに。そこで、ミステリアスな朗読の先生に出会い、教室の仲間と出会い、朗読そのものの言葉の魅力に出会う。ちょっと不器用な主人公が人生を前向きに変えていく。そしていつか惹かれ合っていた先生との恋の行方は…
―朗読×ストレート芝居、言葉の放ち方が二通りある舞台の企画を聞いた時の感想を教えてください。
「分かりやすい題材を扱って伝えたいことを伝える」というのは共感を生みやすいし、人の心に寄り添いやすい部分があると思うんです。今回の“朗読”を使った表現は新鮮な切り口で、舞台を観に来てくださる方の心に多方面でアプローチできる企画だと思いました。
―右近さんの役について教えてください。
僕の役は入社6年目の会社員。そろそろ中間管理職になる歳だけど、これからのことなど様々なことにモヤモヤを抱えている。この世代ならではで、とても共感できてしまうキャラクターです。
―右近さんから見て、客観的にどんな人だと思いますか?
うまく自分のことを表現できない人だと思います。ただ、そういう人ってその分自分の心の中にはたくさん伝えたいことがあると思っていて。優しい気持ちも人一倍あったまっていると思うんです。表に出てこない分熟成されているというか(笑)。
そういう人って実はものすごく好きになれるところがたくさんあると思うんですよ。心の扉を開いた時、より深いところで関われたり、人との繋がりを大事にすることの大切さに気付かせてくれる気がするんですよね。この役はそんな面を持ったキャラクターだと思うので、すでに愛くるしく感じています。
―観ている方たちも舞台が進むにつれて、主人公をどんどん好きになっていきそうですね。
そうなればいいですね。今回の舞台は「共感できる」というのが一つのテーマでもあると思います。何かを出来ない人が出来るようになった瞬間や、その人が言わなそうなことを言った時の瞬間は深い共感を生むじゃないですか。観ているお客さんがたくさん共感できるからこそ、愛着だったり情が湧いたりする現象が起きるんじゃないかなと思います。
―右近さんの考える“朗読”の魅力ってなんですか?
前回、朗読劇をやってみて感じたことなんですが、文字を読み、言葉を読み上げた瞬間に自分自身が感受していて、その感受したものをお客さんに伝えるので、ほぼ同時に僕たちとお客さんに感受の瞬間が訪れるんですよ。それって物理的にも感覚的にも、言葉をすごく共有できているという感じなんです。そういった面ではお芝居でセリフを言う以上に繋がりを感じられる瞬間が多くあった気がします。それは読み上げることの独特の力であるし、魅力でもあると思います。
―朗読×群読×新劇、様々なシーンを楽しめそうですね。
そうですね。幾通りも色んなシーンがあるので、その分たくさんの交流の仕方も生まれると思います。ただ一貫して、どのシーンでも感じられるのは「ほっこりする」ということ。
しかも、その心が安らぐような「ほっこり」とした感覚を、主人公のような少しひねくれた考え方を持っている人間が伝えていく、という相反する摩擦がこの舞台の魅力だと思っています。摩擦があるからあたたかさがでるし、何かが生まれる。そんなあたたかみをこの舞台でお伝えできればと思います。
―摩擦があるからあたたかみが生まれる、素敵な言葉です。では、舞台の見どころをお願いします。
僕は“伝える”ということには迫力が必要だと思っていて。劇場の大小はあれど、そこにいるお客さんの隅々にまで伝える、それに必要な迫力と「ほっこり」の同居を観て欲しいです。
「伝える迫力と伝わるあたたかみ」がこの舞台の見どころですね。
―最後に楽しみに待っている皆様にメッセージをお願いします。
現代において、みんながどこかで感じているコミュニケーションについての漠然とした寂しさ。この舞台はコミュニケーションが強く触れた時のあたたかみを感じていただける作品です。優しい気持ちで観に来てくださる方もいれば、どこか寂しい気持ちを抱えているなかで観に来てくださる方もいらっしゃるかもしれません。どんな方もあたたかい気持ちになっていただける舞台になると思うので、ぜひ、会場に足をお運びください。
尾上右近
おのえ うこん
1992年5月28日生まれの27歳。
親しみやすく茶目っ気のある言葉の端々に、凛とした強く優しい人間らしさが垣間見える歌舞伎界の新鋭。
※Team Credit
カメラマン:YURIE PEPE
ヘアメイク:瀬戸口さやか
ディレクション:町山博彦
インタビュー・テキスト:満斗りょう