井上祐貴
ドラマ『明日、輝く』
台本からイメージできた感覚を大事に臨んだ
ドラマ『明日、輝く』で主演を務める井上祐貴さん。元ランナー役を演じるにあたってのカラダづくりや、共演者とのエピソードなどを伺いました。「見てくださる方の背中を押せるような作品にしたかった」という井上さんに、ご自身が背中を押してもらえる作品も教えていただきました。
<あらすじ>
将来有望なランナー・新野亮介(井上)は、大学駅伝のゴール直前でライバルの堂前一輝(佐藤寛太)に転倒させられ、そのときのケガで引退する。3年後、新野はコンビニでバイトをしながら無気力な日々を送っていた。ある日、新野は万引き少女・心海(具志川 莉央)を捕まえるが、心海は悪びれることなく「泊めてほしい」と新野の家に転がり込む。無邪気で明るく、ダンスを踊るのが大好きな心海だが、復讐したいほどの恨みがあるという。新野は聞き出そうとするが、心海はなかなか打ち明けない。だが新野は彼女の後を追ううちに、心海が家出少女たちと広場で生活し、市販の風邪薬を過剰摂取する“オーバードーズ”に走っていることを知る……。

新野は、マラソンランナーの夢をあきらめた青年という役どころですが、共感できる部分はありますか?
100%ではないと思いますが、本を読んでみて、気持ちはすごくわかりました。今回、わりと鮮明にパッとイメージできたので、外見の役作り以外はあまりせずに、その感覚を大事に(撮影に)入りました。
本を読んだときにイメージできたものとは?
新野は自分の夢に対して、とにかくひたむきに誠実に真っすぐに向き合ってきた男の子なんだろうなと思いました。だからこそ、その夢が途絶えてしまったという状況を想像しただけでめちゃくちゃツラいですし、すごく大きな転機がないと、なかなか立ち直ることができないだろうなと思いました。でも、心海と出会ったことをきっかけに違う角度から考えてみたら、違う景色や違う事実が見えてきて。それに対してまっすぐに向き合ったときに、彼の時間がふたたび動き出せた。その瞬間を描いているところが、とてもステキな本だなと思いました。
番組の公式ホームページで、「もしかして、自分にも誰かや何かのせいにして、本当の気持ちに正直になれていない瞬間があるんじゃないかと何度も考えました」とコメントされていましたが、そういう瞬間は見つかりましたか?
ホントに些細なことですが、たくさんあると思います。例えを挙げるのが難しいのですが……僕は小学生の時サッカーをやっていて、幼いなりにも当時はサッカー選手になりたいと本気で思っていたんです。試合に出られないとか、なかなか思うようにいかない瞬間とかがあると、“いや、ウチのチームが強すぎるんだ”とか“俺のポジションは競争率が高いから、このポジションじゃなかったら試合に出られたのに”とか、どこかで思っていたんです。

そうなのですね。
でもそれって、ほかの人のせいにしてごまかして逃げている話で、自分がもっと努力すればいいだけじゃないですか。そういうことって、大なり小なり日々いっぱいありますよね。そんなときに、人のせいとか何かのせいにするのではなく、自分をちゃんと見つめ直して根本を変えなければいけない、とか。この作品に携わったことで、そんなふうに考えるきっかけにもなりました。
最初におっしゃった、外見の役作りとは?
新野はランナー役ということで、駅伝のシーンがあるのですが、駅伝のユニフォームって、タンクトップに短パンで、ものすごくカラダの露出部分が多いんです。だから、めちゃくちゃ(カラダを)絞りました。クランクイン前にランニング練習が何回かあって、ライバル役の佐藤寛太くんと一緒に走ったんですけど。そのときに、寛太くんがかなりカラダを絞っていると聞いて。もちろん、もともと絞るつもりではいましたが、改めてもっとちゃんとやらなきゃ!と気持ちが引き締まりました。
たしかに、マラソンのユニフォームは露出が多いですよね。
どなたの写真を見ても、余計な肉がついているトップランナーなんていないんです。みんなシュッとしていて、ホントに走るのに最適な筋肉のみというか。もちろん、そのレベルにまで仕上げるのは難しいですが、できるだけ本物のランナーに見えるように、ということは意識しました。

カラダを絞るために、具体的にどんなことをしたのですか?
炭水化物を抜いてみたりとか、食事制限もしましたし。あとは、ジムに結構行きました。普段からジムでトレーニングはしているのですが、メニューを変えて、筋肉をつける動きではなく有酸素運動をメインにしたりしました。今回の役の為に行った期間としては、2週間ぐらいですかね。
それだけ短期間でのカラダづくりは、かなり大変そうですね。
もちろん、食べたいものを食べられないストレスとかもあるんですけど。そのストレスに負けて、食べてしまって、画面に映った自分を見て“うわっ、あのとき食べちゃったからこうなってるじゃん!”と後悔することを想像したら、全然苦にならなかったです(笑)。見てくださる方にだらしないカラダを晒すよりは、全然いいです(笑)。

心海役の具志川さんは、本作がドラマ初出演とのことですが、役者としての印象は?
ホントにまっすぐで、ステキな女優さんです。ホントに初演技なのかなって思うぐらいしっかりしているし、NGも出さないし。思わず、「俺がNG出しづらくなるから、(NGを)出してよ」とふざけて言ったくらいです(笑)。たぶん、とんでもない努力を重ねて現場に入ってきたでしょうし、初めてのお芝居ということで、緊張もしたと思うんですよ。実際彼女が一番セリフも多いですし。今後の活躍が楽しみな女優さんですね。
具志川さんの初々しい姿を見て、ご自身のデビュー当時を思い出したりもしましたか?
いやいや!僕のデビュー当時なんかとくらべちゃいけないぐらい、彼女はしっかりしていました(笑)。クランクアップ後に、「井上さんにはいろんな話をしてもらって、助けてもらいました」みたいなことを言ってくれたんですが、“いや、そのまま同じ言葉を返します”って思いました。僕も、現場での彼女の姿勢や思いを感じて、もっともっとがんばらないと!と奮い立たせられたので。今の彼女に出会えて、ホントによかったなと思います。

特に印象に残っている新野と心海のシーンを教えてください。
心海と新野って、正反対な性格で。思ったことをバンバン口に出す心海と、わりとローテンションな新野という、そのバランスが見ていて心地よかったりするのですが、あるシーンで、心海がものすごく感情的に言葉を荒らげる場面があって。そこは、クランクイン前のリハーサルでも何回かやったのですが、いざ本番のカメラが回ったら、彼女が全然違うお芝居をみせて。でも変わったことできっとすごく胸にグサッと刺さる、とてもいいシーンになりました。
本番では、具志川さんのなかから湧いてきた感情に従ってお芝居をしたと?
たぶん、そんな気がします。もちろん、リハーサルで監督とも話して、「本番までには、もうちょっとこうしていこうね」みたいな話をしていましたが。でも、本番でそれを超えてきたので、その瞬間とてもステキでした。
ライバル役の佐藤さんとは、一緒のシーンの撮影前に打ち合わせをしたのでしょうか。
いえ、二人ではお芝居の話はほとんどしなかったです。監督と3人では話しましたけど。寛太くんは同い年なので、それだけでちょっと親近感が湧いて。それもあって、他愛のない話ばかりしていました。共通の知り合いの俳優さんの話とか、彼が最近ハマっているもの……例えばサウナへよく行くんだーとか。

二人が対峙するシーンもありますが、その撮影の直前も、特にいつもと変わらない雰囲気で?
はい。めちゃくちゃゴルフの話をしていました(笑)。
(笑)。監督を交えては、どんなお話をしたのですか?
完全に台本の内容についてなので、詳しくは言えないのですが……3人でお芝居の話をするときは、もちろん真剣でしたよ(笑)。
番組のホームページでは、「観終わった後、ちょっとだけ背中を押してもらえる作品になるように演じたい」ともコメントされていました。井上さんが背中を押してもらえた作品などはありますか?
たくさんあります。そのときに悩んでいることの種類にもよるのですが……たとえば、映画『ショーシャンクの空に』とか。人生には、目の前にでっかくて分厚い壁が立ちはだかるときがあるけど、乗り越えられない壁はないんだなと思わせてくれる作品の一つです。主人公が何十年もかけて壁を掘り続けるって、だいぶヤバい話ですが(笑)。でも、時間はどれだけかかっても、あきらめなければ出来るのだと思わせてくれる作品です。あとは僕、自分に愛がないなと思うときがあるんです。それって、余裕がないときなのかな……?

多忙な日々が続いたときとか?
はい。人に対してもそうだし、自分に対しても“うわっ、最近、愛がないな”“何も大切にできてないな”みたいに感じる瞬間があって。そういうときは、映画『チョコレートドーナツ』を観たりします。同性愛カップルとダウン症の子どもという2つの軸があるお話なんですけど。めちゃくちゃ重い話だけど愛の詰まった作品で、観た後すごく心があったかくなります。
自分を大事にできていないなと感じるときって、ありますよね。
そうなんですよ!でも、自分を大事にできなかったら、他人に対してもできないと思うので。そんなときはこの2本を観て、心に愛を取り戻します(笑)。
では改めて、『明日、輝く』の放送を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
自分がうまくいってないことを人のせいにしてしまうそういう人って多いと思うんです。過去に起こったこととかを何かのせいにして、自分のせいではないと思いたい人って。でも、そこを1回違う角度から見てみたら、フッと心が軽くなって、自然と一歩前に踏み出せたり、背中を押してもらえたりすると思うので。まずは構えずに、フラットな気持ちで観てほしいです。

井上祐貴
いのうえ ゆうき
1996年6月6日生まれ。
FASTの取材前から現場ですれ違うたびに明るく、礼儀正しく挨拶を交わしてくださった井上さん。取材が始まる時も終わった後も丁寧な挨拶はとても誠実な印象を受けました!インタビュー中ではインタビュアーだけでなく、スタッフ全体に話を振ってくれたりと終始楽しく応えてくれました。作品に対してはとても熱く、相手にわかりやすく伝えたいという優しい井上さんの思いが伝わってくるお話でした。後編では今後の目標や前回からの変化などをお聞きしております。お楽しみに!
最近の出演作に、テレビドラマでは、TBS『地獄の果てまで連れていく』(‘25)、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(‘24)があり、映画では、『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』(‘25)が公開中、5月より、舞台 彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』が控えている。

第48回創作テレビドラマ大賞「明日、輝く」
3月17日(月)夜10:45~ NHK総合
【作】竹上雄介 【出演】井上祐貴 具志川莉央 本多力 佐藤寛太 横田栄司 他
※Team Credit
カメラマン:鈴木寿教
スタイリスト:TAKURO
インタビュー:林桃
記事:林桃/有松駿